表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【カクヨムコンテスト11 中間選考突破】 累計336万8千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
新選組列伝ー誠の残響ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

341/341

外伝 【宇喜多直家の戦国物語 暗黒大名 疑心の王】


挿絵(By みてみん)


宇喜多直家

出身: 備前国(岡山県)。宇喜多興家の子。

国: 備前・美作・播磨の一部。

特徴: 「笑わぬ男」: 表情から感情を読み取らせない。

毒殺の大家。物理的な武力よりも、人心の隙を突く「謀略」を愛する。

裏切りを悪ではなく、生存のための「最適解」として淡々と実行する。

活動: 三村家親の暗殺。短筒を用いた暗殺という、当時としては画期的な

手段で強敵を排除。主家乗っ取り。浦上家を内部から崩壊させ、剋上を完遂。


宇喜多家の存続: 織田と毛利という二大勢力の狭間で、土壇場での「裏切り」を駆使して家を繋いだ。



【第1幕 泥に沈んだ浮標うき


天文の初め。備前、砥石城。

火の粉が舞う夜、少年・宇喜多直家は父の手を引かれ、燃え盛る故郷を逃れた。宇喜多家は没落し、一族は散り散りとなった。


「良いか八郎(直家)、人は獣だと思え。飢えれば牙を剥く。恩を売れば、その手を噛みちぎるのが人の本性よ」


それが、逃亡の果てに自ら命を絶った父の遺言だった。

孤児となった直家を待っていたのは、慈悲ではなく剥き出しの悪意だった。身を寄せた先で裏切られ、飢え、泥水を啜りながら、直家は悟った。


「信じた者から、死ぬ」


この世には、自分を守る壁などない。ならば、自分自身を深い闇で囲うしかない。彼は笑うことをやめ、ただ静かに、瞳の奥に冷たい殺意を宿すようになった。


【第2幕 毒という名の慈悲】


長じて、直家は備前の雄・浦上宗景に仕えた。宗景は直家の有能さを愛でながらも、その凍り付いたような眼差しを気味悪がった。直家に与えられた任務は、常に「影」の仕事であった。


「直家よ、あの国衆が邪魔だ。毒でも何でも使え。ただし、我が名は出すな」


直家は、主君の意を完璧に汲み取った。


ある時は娘を嫁がせて安心させ、祝言の席で舅の喉を突き通した。ある時は親友として酒を酌み交わし、その杯に静かに毒を落とした。


いくさは愚か者がすること。死ぬべき男に、死ぬべき場所を用意する。それが私のやり方だ」


味方のふりをして敵を滅ぼし、役に立たぬ味方は音もなく排除する。


「敵よりも、信用できぬ味方が最も危険だ」


という信念のもと、彼の周囲からは「情」という名の不純物が削ぎ落とされていった。


【第3幕 暗黒の玉座】


永禄から元亀へ。直家の勢力はもはや主家を凌駕していた。

ついに彼は、長年仕えた浦上宗景を国外へ追放し、備前一国を掌中に収める。


人々は畏怖を込めて彼を「暗黒大名」と呼んだ。


彼の居城・岡山城は、常に静寂に包まれていた。側近でさえ、直家と目を合わせることを恐れた。謀反の芽があれば、それが妄想であっても摘み取る。


だが、頂点に立った直家を襲ったのは、達成感ではなく、逃れようのない「寒さ」だった。誰も自分を愛していない。誰も本気で慕っていない。広大な備前の大地を手にしても、彼の心は幼い頃に放り出された、あの冷たい泥の中にいた。


【第4幕 光と影の相剋】


そんな直家の前に、まばゆい「光」が現れる。

嫡男・宇喜多秀家である。


秀家は父に似ぬ、柔和で聡明な少年だった。驚くべきことに、秀家は家臣たちを疑わなかった。そして家臣たちもまた、秀家のためなら命を惜しまぬと誓う。


「父上、なぜ人は信じ合わねばならぬのでしょう。信じれば、力は何倍にもなりましょう」


直家は困惑した。

「なぜ裏切られぬ? なぜ誰もこの幼子を殺そうとせぬ?」


さらに、中央からは織田信長という巨大な影が迫っていた。

信長は恐怖で支配しながらも、同時に「新しい時代」という熱狂で人を従えていた。直家が築き上げた「疑いの城」は、彼らの前でひどく脆いものに見え始めた。


【第5幕 孤独の幕引き】


天正九年(1581年)。

病に侵された直家は、死の床にいた。

枕元には、成長した秀家が控えている。


「秀家よ……。人はな、信じることで強くなるのではない。信じさせることで、己を偽っているに過ぎぬ」


直家の声は枯れていた。

だが、秀家の瞳には迷いがない。直家はそれを見て、皮肉な微笑を浮かべた。自分は疑うことで生き延びてきた。だが、息子は信じることで、自分が決して得られなかった「王としての格」を手に入れようとしている。


「……信じるな。だが……お前が信じられるというのなら、それもまた、一つの強さなのかもしれぬな」


それが、暗黒大名の最期の言葉だった。


直家の死後、秀家は豊臣秀吉の寵愛を受け、五大老として華々しい道を歩む。だが、やがて訪れる「関ヶ原」という裏切りの荒波に、秀家は飲み込まれていくことになる。


「信じる」ことが正しかったのか、「疑う」ことが正しかったのか。

備前の風は、今もその答えを語らぬまま、岡山城の跡を吹き抜けている。



【宇喜多直家の戦国物語 暗黒大名 疑心の王】 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ