みんなが待っている客間を見つけるのは容易い?
二人は客間の場所を知っているのだろうか。知っているわけがない。だけど、不思議と阿部君と明智君は目的の場所にたどり着くことが多いのだ。いざとなれば、明智君が給料据え置き警部の匂いを辿れば、そんなには迷わない。明智君にしたら、なんとなく不本意なのだろうけど。
仮に給料据え置き警部が仕事を忘れ、好奇心丸出しで関係ない部屋に入ってさぼっていたとしても、少し到着が遅くなる程度だろう。まず、阿部君が明智君を叱る。明智君は給料据え置き警部に忌々しそうにくしゃみを浴びせる。給料据え置き警部が何もかも察して、阿部君と明智君を客間まで案内するのだから。
と、親切な私が説明していると、二人の姿が見えなくなっていた。私は急ぐ。あの角を曲がれば、再び二人の姿が見えるだろうと。しかし角を曲がっても辺りを凝視しても、人っ子一人いない。
あいつら、また寄り道をしたな。どの部屋に入ったのだろうか。今度は、見える範囲の部屋のドアはすべて閉まっている。一部屋一部屋探して回るのは、面倒だし時間もない。仕方がないな。ここは、私の類まれな能力の一つを使ってやるか。
「おーい! 私を置いていかないでくれー!」
私は渾身の大声で二人に呼びかけた。嘘泣きに鼻水も大サービスだ。
すると、真っ赤な顔をした二人が、一番手前のドアから出てきた。最後に勝つのは、私だ。
「いい大人が恥ずかしくないんですか。まったくもおー」「ワッオワオー」
いい大人が二度もかくれんぼのようなマネをするのは、恥ずかしくないのだろうか。言い返したところで、どうせ偵察をしていたとかと言い訳をするのだろう。私たち怪盗団の標的は、すでに見つけたのにもかかわらず。
しかし、私は、二人を非難したり揚げ足を取ったりしない。何事もなかったかのように振る舞うだけだ。おそらくだけど、本気の涙と鼻水を流す結果となってしまうからな。
私は気を取り直して前に進むだけだ。お調子者の部下二人も考え直したことだろう。お遊びは十分にしたからな。さあ、リーダーの威厳を見せてやろうじゃないか。
「給料据え置き警部はじめ関係者が客間で待ってるぞ。さあ、ついてこい!」と言ってすぐに、私は気づいた。明智君を頼らないと、客間にたどり着けないことを。そして残念ながら、阿部君と明智君も分かっている。なので、二人はとても嬉しそうにニヤニヤしていた。
ここで降参して二人に泣きつくのは、プライドで形成されていると言っても過言ではない私にできるはずがない。私が所持しているであろう名探偵の能力を総動員させて、推理で突破してみるか。私にかかれば……推理力が消耗品の可能性だってありえるか。無理は禁物かもしてない。
実は、いざとなれば、私は明智君に気楽に頼める心臓だって持ってるのだ。明智君を活躍させてあげたい親心だって満ち満ちている。時間もないことだし、明智君を喜ばせてやろう。と決断するかしないかで、ただの頭数の阿部君に先手を打たれてしまった。
「リーダー、どこまでもついていきますよっ! ヒヒヒ」「ワワワ」
うー。こいつら、私が焦る姿を存分に楽しむつもりだな。なんて陰険なんだ。といっても、私には泣く子も黙る推理力がある。ただ、その推理力を駆使して客間に着いたとしても、こいつらが赤っ恥をかきはしない。尊敬もしてくれない。むしろ、私をバカにできなかったと嘆き悲しむだろう。なんて理不尽なんだ。
嘆き悲しんでいる場合でないので、推理してみるか。舞い降りてくれよ、推理力。
客間というのは、基本的に1階にあるものだ。私たちがこれだけ騒いでいたのに、この2階では誰も顔を出さなかったことからも、みんなはきっと1階にいる。それから……まず1階に降りてから、いや、歩きながら考えよう。
私は牛歩で歩を進める。しかし、私の思惑を悟ったのか、背中と足に分かりやすく圧力をかけてくる輩たちがいた。誇り高き私は「やめてくれよおー」となんて言えないので、考える間もなく1階に着く。
どこかから関係者の声が漏れているのを切に願っていたが、私たち以外に誰もいないかのように静かだ。給料据え置き警部め、肝心な時に無駄口を叩かないなんて。近い将来に八つ当たりをするのが確定する。八つ当たりの内容を考えている場合ではないので、しばし給料据え置きの事は忘れよう。今は重大な結論を導くためだけに集中力を高めないとな。
重大な結論とは、言うまでもなく、右に行くか左に行くかだ。二つに一つ。二分の一とも言う。50パーセントの確率で当たるが、50パーセントの確率で外れる。簡単なようで難しい。凡人にとってはな。非凡な私にとって、二択は常に当たりを引くのだ。といっても勘が当たるとかではない。理論的に導くだけだ。私の答えを聞いてから、「何が理論的だ?」のような言いがかりは遠慮してほしいがな。
実は、私の鋭敏な神経が、答えを教えてくれていたのだ。神経が脳から独立して、「右」とか「左」とか声に出して言ったわけではない。分かりやすく言うと、明智君が気持ち右の方に押している。もちろん無意識だろうけど、感謝はするよ、明智君。
そして、私は左に向かった。自他ともに認める、私と明智君の仲だからな。私がドッグフードハンターになることで、明智君が私に対して優しくなっているだなんてありえないのだ。だけど私が約束を破ったなら、想像を絶する明智君からの嫌がらせが待っている。簡単に言えば、それはそれこれはこれだな。
今の明智君は、私に恥をかかせ大爆笑したいだけだ。明智君、まだまだだな。おそらくだけど、後で阿部君からお仕置きをされるだろう。私が言わなくとも、阿部君は明智君の微妙な力加減に気づいたはず。阿部君は、そういうのは……そういうのだけは敏感だからな。
私は自分が巻き添えにならないように祈るのみだ。祈ったところで、巻き添えになるのだけれど。事件を解決してさらにお宝を手に入れたなら、どうせ盛大なお祝いが待っているのだから。どんな苦痛にも楽に耐えられるくらいのお宝が手に入りますように。
と、酔っ払った阿部君からの理不尽な説教を覚悟したところで、少し前の部屋のドアが開いた。そしてそこから真面目巡査部長が出てきたのだ。神はとりあえず私に味方したようだ。当たり前の事なので驚きはしないが、感謝は忘れない。ついでに阿部君からの説教もなくなりますように……神様でもできない事はあるか。それよりも今は、私の推理力と文字通りの神業で得た機会を棒に振らないようにしないと。
真面目巡査部長と普通に話すには距離があるので、私は大声で呼びかけた。まず近づいてから話せばいいじゃないか、と言わないでおくれ。無人島に漂流して諦めの境地にいる時に、近くを船が通ったなら、聞こえるはずもないのに大声を出すのに似ている。……違うか。でも、まあ、なんとなく分かってもらえるだろう。
変な喩えはやめて単刀直入に言うと、反射的に声が出ただけだ。それくらい嬉しかったのだから。なにせ私は勝ったのだ。阿部君と明智君という強大な敵に。二人が分かりやすく地団駄を踏んでいるのが、私の嬉しさを助長させている。
普段からスマートかつエレガントを心がけている私は、さも分かっていたかのように、真面目巡査部長に近づいていった。少しだけ歩く速度が上がったかもしれないが、それが私が表した嬉しさの最大だ。大声で真面目巡査部長に呼びかけたのは、あくまでも真面目巡査部長の気を引くためだったということで。幸い、阿部君と明智君は悔しさが上回り、私を小バカにする気も失せている。
さらに嬉しいことに、真面目巡査部長は至って冷静に対応してくれた。私の第一声の声量とお互いの距離が釣り合ってなかったから、驚いて固まっていたわけではない、と信じよう。元出世街道まっしぐらのエリートの警察官なんだから。
「ああ、えっとー……リーダーさんと呼んでよかったですよね? 警部がみなさんを探してこいと言われたので、ちょうど良かったです。どうせ迷っていると決めつけてましたけど、違いますよね?」
警視長をはじめ警察官は、みんながみんな、どうやら元同僚の私の名前を知らないようだ。呆れるような悲しいような。だけど、給料据え置き警部に対しての苛立ちが、すぐに忘れさせてくれた。間違ってもないので、少しテクニックを見せるとするか。
「もちろんだ」と、感情を込めないで私は答えた。
迷っていたとも、迷っていなかったとも、とってくれただろう。大事なのは、多くを話さないことだな。真面目巡査部長も、わざわざ深く聞いてこない。ありがとう、真面目巡査部長。この借りは、きっと近いうちに返すからな。
もしここで必要以上に話すと、阿部君と明智君が息を吹き返してしまうのだ。最後の悪あがきとして、虎視眈々と聞き耳を立てている、私の不幸が大好物の二人が。はっきり言って、それが一番嫌だ。せっかく結果として迷わなかったのだから、バカにはさせないぞ。




