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初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


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警部補君フォーエバー

 小林が電話に出るのを、私は固定電話の受話器とやらを耳に当ててしばらく待った。なかなか出ない。阿部君がかけたらワンコールで出るというのに。知らない電話番号からかかってきているから、様子を見ているのだろうか。いや、元エリートで今は真面目一筋の警察官の小林が知らない番号から電話がかかってきたからって、居留守を使うはずがない。単純に寝ているだけかもしれない。

 小林が電話に出ないからって、受話器を置くわけにはいかない。私は粘り強くコール音を聞き続けた。どれくらい待っただろうか。あと10コールで出なかったら、小林に強烈な罰を与えてやると決めてから、9コール目で小林が出てしまった。どうも私と小林は噛み合わないようだ。警部補君とは、今思えばツーカーの仲だったのに。

「もし……もし……。ど、どなたですか?」

「おい、小林、私だ。ひまわり探偵社のリーダーだ」

「ああ、リーダーさん。こ、こんな時間に……いや、そんなことより、本官たちは何者かに襲われたみたいなんです。警部補君も倒れていて……。あっあー、『神のゲンコツ』がない。な、なんで……。どうしよー」

「小林、落ち着け。いったい何があったんだ?」

「容疑者の見張りは交代でしようということになって、まずは本官が仮眠していたんです。それで、時間になったので、今度は本官が見張りをしようと来てみたら、警部補君がうつ伏せで寝てたんです。どうせなら布団で寝た方が疲れも取れるし、本官が見張りをしている目の前というか足元で寝てられるのも目障りなので、起こそうとしたところまでは記憶にあるんですけど。おそらく、その時に、背後から後頭部を殴られたようです。今まで気を失っていたので、すぐに状況を確認しますね」

「おい、それよりも、警部補君は寝てるだけなのか? 暴行されてないのか?」

「あっ、確かに様子がおかしいかも。け、警部補君? 警部補君っ! ……。呼吸も脈拍も弱いような。すぐに救急車を……」

「小林っ! とにかく落ち着け。そこは病院だろ。当直の医師か看護師を呼べ」

「はっ……そうでした。気が動転してしまってすいません。すぐに」

「お前も診てもらうんだぞ。『神のゲンコツ』は私たちがなんとかする」

「いや、でも、油断した本官の責任ですし。今すぐに犯人を追えば……」

「『神のゲンコツ』なんかよりも、お前の方が大事だ。比べものならない。捜査に支障がないと医師が判断してからでも遅くはない。これからもずっと、私たちにはお前が必要なのだから、無茶はするなよ。私たちもすぐに行く。警視長にも私が報告しておくから」

「は、はい。ありがとうございます、リーダーさん」

 すぐに行くとは言ったが、小林が迎えに来られないのに、どうしたらいいのだろうか。警視長に頼んでヘリで来られると、あれだし。うーん……仕方がない。緊急事態だもんな。田中太郎の車を借りよう。なぜか使ってくださいとばかりに、電話の前の壁に車のキーがたくさんぶら下がっているし。気を使って、一番安めのにしておこう。と思ったが、どれが一番安いか分からないな。田中太郎に聞きに行くか。いや、時間が惜しい。この訳の分からない、なんとかスロイスでいいや。私が知らないのだから、どうせ安物だ。

 車庫の位置は、車のキーがかかっているすぐ横に分かりやすく案内されていた。ここまでしてくれるなんて、必ず『神のゲンコツ』を取り返してあげるからな、田中太郎。だから、もう少し『神のゲンコツ』部屋で大人しくしておいておくれ。いや、暴れなければ騒いでもいいぞ。

 車が確保できたのが確実となったところで、私は警視長に電話をした。警視長は深夜だろうが、どこの誰からだろうが、直通電話には必ずすぐに出てくれる。簡潔に事情を説明すると、警視長はすぐに病院に向かってくれた。これで、私たちが着く頃には、すべての状況を把握できる状態にあるだろう。私も急ごう。

 車庫に行くと、10数台の車が整然ととめられていた。車のキーも10数個あったから当然だろう。問題は、この中から、なんとかスロイスをどうやって探すかだ。簡単じゃないか。私は、なんとかスロイスのキーにあるボタンを押した。すると、一台のまあまあ生意気な感じの車が反応する。うーん、安いとは言えないかもしれない。他の車もさほど安くなさそうだし、車の選択にこれ以上の時間を要している場合ではない。

 私は、礼儀として躊躇している表情をしながら、さっさと車に乗った。「田中太郎、気が向いたら返すが、面倒なら海に沈めるかもしれないが許しておくれ」と車の中できちんと声に出してから、エンジンをかける。うん? かかったのか? エンジンがかかったのか分からないくらいに静かだ。アクセルを踏めば分かるか。あっ、車庫のシャッターを開けてない。開けようかどうか、しばし迷う。田中太郎、私はきちんと迷った結果、時間がないことに気づいてしまったんだ。許しておくれ。車から降りて、シャッターのスイッチを押し、また車に戻ってくるのが億劫だな、なんて思わなかったぞ。

 エンジンが本当にかかっているのか半信半疑だった私は、一気にアクセルを踏み込んだ。なんとかスロイスはシャッターにちょうど車サイズの穴を開け、途中にある柵やら障害物を木っ端微塵に粉砕し、小川の上を氷上かのように滑るように横切り、一直線に一瞬で阿部君たちの元に移動した。

 ふうー、ブレーキが最高級で良かった。危うく明智君をひくところだったぞ。明智君も明智君だけど。疲れたのか眠いのか知らないが、地べたで横になっているなんて。と、暗に明智君にも責任はあるんだぞと、言い訳しながら私は車から降りて、念のために確認する。うん、ちょうど明智君に当たったか当たってないかの所で、車のタイヤが止まっていた……。嘘はだめだな。たまには正直になってみるか。

 タイヤと明智君の間に隙間はなかった。最後の最後で明智君の頭で車が止まったかのように、うまく挟まっている。ちなみに明智君は熟睡中だ。全く動かないが、決してあの世に行ったわけではない。簡単に起きない明智君で本当に良かった。

 まず私は無言で、阿部君とトラゾウに、明智君には一生黙ってくれるようにお願いした。阿部君とトラゾウは、明智君がこれを知った時の私への無慈悲な復讐を想像してくれたようで、力強く頷いてくれた。目撃者がゼロになったので、私は安堵して落ち着き払い証拠隠しに奔走する。明智君をそっと横にずらす。それから、いつにもまして優しく起こす。居眠りに近かったからか、明智君は普段に比べると、すごく早く目覚める。さらに、寝起きなのに、そこまで不機嫌ではない。いつもよりもひどいのは、タイヤがつけてしまった寝癖くらいだ。

「みんな、理由は車の中で話すから、すぐに乗ってくれ」

 阿部君とトラゾウは自力で乗ってくれたが、明智君は私が乗せた。私が進んでそうしたのだ。車の中の鏡を明智君が見る前にすることがあったからな。私は明智君を優しく抱え、助手席にそーっと置き、さり気なく頭を撫でた。タイヤ痕は完全には消えなかった。でも、ちょっとワイルドな寝癖くらいにはなっただろう。

 病院に向かう車中で、私は、小林から聞いた話をかいつまんで話してあげた。阿部君は、事態が大きく動いたことに興奮していた。トラゾウは、入院している子どもたちに危険が及ばないか心配しているようだ。明智君は、分かりやすくショックを受けていた。

「明智君、大丈夫だ。警部補君は、悪運だけは強い」

「ワン……」

「リーダー、明智君は頭のタイヤ痕に気づいて……」

「ち、違う。訳の分からない事を言うんじゃない。阿部君は知らないが、私と明智君と警部補君は、そんな感じには見えないだろうけど、本当に仲が良いんだ。なあ、明智君?」

「ワン」

「そ、そうだったんですか。あんまり信用できないけど、明智君がそう言うなら、そうなんでしょうね」

「ああ。付き合いも長いし。私の警察官時代に明智君を家族に迎えたんだけど、その日から毎日、明智君を交番に連れていってたんだぞ。もちろん管轄の警察署長には内緒でだ。万が一気づかれたら、私ではなく当時の交番責任者の警部補君が怒られただろうな。だけど、私が明智君を交番に連れてきたいと必死にお願いしたら、全く悩みもせずに許可してくれたんだ。そして、連れてきたその日から、明智君と警部補君にははっきりと分かる主従関係ができていた。明智君が『主』で、警部補君が『従』なのは言う必要はないか。まあ、はたから見れば主従関係だけど、実際には対等に仲良く遊んでいたことも多々あった。私が見回りで一人だけ交番から離れて戻ってきた時なんかは、必ずと言っていいくらいに、二人で楽しそうに踊っていたくらいだ」

「そんな時代が……」

「警部補君は良くも悪くもバカ正直だからな。正直レベルでは阿部君より上かもしれないくらいだ」

「明智君、大丈夫だよ。正直者はバカを見るっていうけど、最後に笑うのは、私たちのような正直者だからね」

「ワンワオン」

 病院に着くと、分かってはいたが、警視長はすでに来ていた。私たちが乗ってきた、田中太郎から借りたなんとかスロイスには、分かりやすく見て見ぬ振りをしてくれる。警部補君や小林に比べたら、いや、比べようもない。世界中にあるなんとかスロイスよりも、警部補君と小林の方が遥かに大事なのだ。

「警視長、警部補君は、小林は?」

「うん……。小林の方は、後ほど精密検査は必要だけど、ひとまず頭部打撲程度だ。あいつは普段から鍛えているからな。ただ、警部補君は……」

「警視長、教えてください。私と明智君なら大丈夫です」

「リーダー、明智君、落ち着いて聞いておくれ。非常に危険な状態、と医師は言ってすぐにオペに入ったらしい」

「……」「……」

 と、話し終わった時には、手術室の前に来ていた。このドアのすぐ向こうで警部補君が戦っているのに、私には何も手伝えなかった。こんな無力感を感じたのは初めてかもしれない。明智君も同じ気持ちだった。我々怪盗団の団員が、私と明智君だけだったなら、私は自暴自棄に陥ったかもしれない。だけど、我々怪盗団及びひまわり探偵社には、阿部君がいた。トラゾウも。

「リーダー、明智君、大丈夫ですよ。警部補君は正直者なんでしょ? 最後に笑うのは……」

「正直者!」「ワンワワン!」「ガオンガ!」

 よし、切り替えるか。手術室の前で待っていても、私たちは何の役にも立たない。基本に立ち返り、情報収集といくか。警部補君のヤロー、目が覚めるとビビるかもしれないぞ。寝ている間に事件が解決してるんだからな。ついでに、安楽椅子探偵気取りを許してやろうじゃないか。私はいいが、明智君には感謝の品を持ってくるんだぞ。

「警視長、現場はどこですか?」

「捜査はちょっと待ってください」

「どうしてですか? 警察関係者が襲撃されたから、私たちの出る番ではないと?」

「いえいえ。この事件は、当初から捜査してくれているみんなで解決していただきます。だけど、こんな時間に大勢であちらこちらを移動すると、入院患者の人たちを起こしてしまいます。なので、今は、小林一人に初動捜査をさせています。小林は優秀なので信頼してください。みなさんは、小林の情報を元に捜査方針を決めていただけますか?」

 そうだった。ここは病院だ。ちょっとしたショックで生死の境を彷徨うかもしれない人たちもいるだろう。もしかすると、子どもたちの中にもそういう患者が。落ち着け、私。トラゾウも訴えるように私を見つめている。

「トラゾウ、大丈夫だ。トラゾウの大切な友だちに、ほんの少しも不安を与えないから。そうだ。トラゾウ、子どもたちの様子を見てきてくれるかい? そして、みんなに付いていてあげるんだ。警部補君と小林を襲った犯人が病院内に留まっている可能性は低いが、万が一がある。警視長、いいですよね?」

「はい。トラゾウが守ってくれていることほど、心強いことはありません。トラゾウ、お願いできるかい?」

「ガオッ!」

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