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結城組  作者: マー・TY
30/30

30話 2人の狂人

「平坂、これ使え」

 椿野が止血バンドを取り出し、平坂に投げてよこす。

「それ巻いたら早く逃げろ」

「椿野の姉貴…でも…」

 平坂は躊躇う。

 コイツからすれば、姉貴分を置いて逃げるのは気が引けることだろう。

 だがそんなモン関係ねェ。

「いいから行け!!これは命令だ!!」

 椿野が檄を飛ばす。

 目の前に居るのは、“刃裟羅”の幹部 雑賀譲二。

 手負いの後輩を庇いながら戦う余裕はない。

「す、すみません!!」

 平坂は患部に爆速で止血バンドを巻いて、走り出す。

 だが撃たれたのは太腿。

 普段通り走れない。

(なるべく時間を稼がねェとな)

 椿野の目標は、平坂が逃げ切るまでの時間を稼ぐことだ。

「最速で死ねよ」

 椿野が瞬時にチャカを抜き、速射。

 コイツの射撃も一流だ。

「怖いなぁ」

 雑賀はそれを、涼しい顔で躱しやがった。

 椿野が追撃の連射を放ったが、奴はジグザグに動いて外す。

 そのまま滑るような動きで迫る。

(接近戦…。ドスだ)

 椿野がドスを取り出す。

「さぁ、首をくれ」

 雑賀の山鎌が、首元に迫る。

 椿野はそれに、ドスを合わせた。

“ギン!!”

 重い金切り音が木霊する。

 椿野が山鎌を、ドスで受け止めていた。

「ならそれを貰おうか」

「なにっ!?」

 雑賀が山鎌を捻る。

 すると椿野のドスが、絡め取られた。

 同時、雑賀の左の袖から針が滑り降りてくる。

 奴はそれを掴むと、椿野の腹に突き刺した。

「ガハッ___!!」

 椿野は吐血する。

 腹に鋭い痛みが走った。

 雑賀は口角を上げ、針を奥へ押し込みに掛かる。

「チッ!ナメんな!!」

 椿野はこんなんで折れる奴じゃない。

 なんと足元に、炸裂弾を落とした。

「おっと」

 雑賀がその場から離れようとする。

 だが山鎌が離れない。

 椿野がドスを捻って捕まえていた。

「逃がすかよぉ」

「なんと…」

 雑賀が山鎌から手を離す。

 だがその一瞬の遅れが命取り。

 両者の間で、炸裂弾が起爆した。

「うがぁああああ____!!!」

「ぐぅうううつ!!!」

 2人は同時に吹き飛ばされた。

 アスファルトの地面の上を、雑賀が転がる。

 開戦していきなり爆傷を負うことになった。

「ゴホッ…。自分諸共吹き飛ばすとは…。大したものだ」

 血を吐きながらも、奴は立ち上がる。

 爆発の寸前跳んでいたおかげか、ダメージを軽減できていたらしい。

「さて、きみはどうかな…」

 雑賀の視線の先には、白い煙。

 煙を切り裂くように、人影が出てくる。

 それは、全身を赤く染めた椿野だった。

「ハハッ…ハハハハハ!いいねェ…乗ってきたァ!」

 椿野は裂けそうな程口角を上げ、そう言い放った。

 火薬の匂い。そして爆発。

 それがコイツの狂気を引き出すスイッチだ。

 互いに爆傷を負った。

 だが腹を刺している分、雑賀の方がまだ優勢だ。

「なるほど。きみのようなイカれた女も悪くない」

 山鎌は離れたところに落ちている。

 とはいえ、拾いに行けば恰好の的になる。

 雑賀は予備のナイフを取りだした。

「接近戦がお望みかぁ?でもお前はもう、俺に近づけねェよ」

 椿野もドスを手放している。

 必然的に遠距離を選ぶことになる。

 そんな椿野が、ポケットに手を入れた。

 取り出したのは花火玉。

 その導火線を法被に擦り付ける。

 奴の法被は摩擦が起きやすい。これだけで導火線に火が着いた。

「綺麗な死に花を咲かせてやるよ!!」

 椿野は花火玉を放り投げる。

 雑賀はそれを躱し、前に出る。

 直後、奴の後方で破裂。

 金色の火花が、雑賀の背中に降り注いだ。

「くっ…!花火とは珍しい」

 だが雑賀は止まらない。

 躊躇なく前へと踏み込む。

 しかし椿野の手には、複数の球体が握られていた。

「ここはもう俺の支配下だぁ」

 椿野が球体を地面に転がした。

 1個が雑賀の足下に迫る。

「むっ…。これは」

 雑賀は急ブレーキを掛け、バックステップを踏む。

 それを見た椿野が速射。

 雑賀は体を捻るも、弾丸は脇腹を掠めた。

 しかし、これだけでは終わらない。

「仕掛けは二重」

 椿野がもう一度撃つ。

 狙いは自らがばら撒いた球体。

 弾丸が当たった瞬間、それが赤色の火花を撒き散らす。

 球体の正体は、小ぶりの花火玉だった。

「くっ…!」

 火花が雑賀の視界を切る。

 椿野は次々と花火玉を撃ち、爆発させていく。

 その度にカラフルな火花が飛び散り、雑賀を焼いた。

「この距離で花火を楽しむことになるとは…」

 弾け続ける花火と白い煙が、雑賀の周囲を覆っていく。

 だがそれらを破るように、影が突っ込んできた。

「こんにちはァ!!」

 それは目がイカれた椿野だった。

 ドスをもう拾い上げている。

「そんでさようならァアアアアアア!!!」

 嬉々としながら刺突を放つ。

「むぅっ!」

 雑賀は体の重心をズラす。

 刃が胸を掠めた。

「まさか、接近してくるとは」

 雑賀が椿野の背後に回り込んだ。

 同時にナイフを走らせる。

「終わろうか」

「オラァ!!!」

 ここで椿野が超反応。

 振り返り、ドスでナイフを受け止めた。

 コイツの腕力は男にも引けを取らない。

 雑賀は押し込むことができなかった。

「もういっちょ行くぜェ…」

 椿野が空いた手で花火玉を出した。

 さっきと同じように、法被で導火線に火を着ける。

「付き合ってられないなぁ」

 雑賀がバックステップで下がる。

「楽しめよォ!!ゼロ距離花火ィ!!!」

 椿野はギリギリで花火玉を投げた。

 そしてまた2人の間で爆発する。

 今度は青色の火花が飛び散る。

 それはまたも互いを焼いた。

「むぅ…。きみは死が怖くないのかい?」

 顔を歪めながら、雑賀が呆れたように呟く。

 同じく爆傷を負いながらも、椿野の笑いは絶えない。

「何言ってんだお前ェ!!人生最後に綺麗に散れるなら本望だろうがァ!!」

 この状態の椿野は、俺でも訳が解らない。

 とにかくイカれきったコイツは、熱が冷めるまで止まらないんだよ。

「ほぅ。狂気が力の根源かな?」

 雑賀は興味深そうに、椿野を分析する。

「花火を用いた戦術…。実に興味深い」

「ド派手でエレガントだろう?」

「そうだねぇ。だがやはり、きみはここで死ぬ運命のようだ」

「なにィ?」

 その瞬間椿野は、背後に僅かな気配を感じ取った。

 何者かが、すぐ後ろに立っている。

(いつの間に!)

 椿野は瞬時に振り返る。

 だが、もう銀閃は走っていた。

「易い仕事だった」

 そいつは忍者刀で、椿野の胸を斬り裂いた。

「ゲハッ!!!」

 身を引いちゃいたが、今のは深かった。

 胸と口から鮮血が溢れ出す。

 だが、それで終わらなかった。

「首切り前の下ごしらえだ」

 背後から、もう雑賀が迫ってきていた。

 そして奴は、ナイフで椿野の背中を斬りつけた。

 今のも深い。

 椿野の体が蹌踉めく。

「案ずるな。次で死ねる」

 目の前の男が、再び忍者刀を振った。

 椿野の命脈を、完全に断ちにくる。

 だが…。

「うぉおおおおおおお!!!」

 椿野は命懸けで地面を転がった。

 男の忍者刀は空を切る。

 椿野はそのまま、2人から距離を取った。

「ゲホッ…。もう1人居るのかよ……」

 椿野は血を吐きながら、忍者刀の男を睨む。

 乱入してきたこの男は、“刃裟羅”幹部 井土いづち兼平かねひら

「無駄に動くな。楽に逝けんぞ」

 井土は椿野を見下すように、そう言いやがった。

 既に懐に左手を入れている。

 何かする気だ。

「おいおい。女相手に男2人はダセェんじゃねェの?」

 椿野がニヤけながら、挑発する。

「女とは思えないけどねぇ」

 雑賀がそう呟くと、一瞬でチャカを抜いた。

 それから速射。

「酷くねェ!!?」

 椿野はツッコミながら、弾丸を避けた。

 だが避けた先に、なんと手裏剣が飛んでくる。

「チィ!!!」

 椿野は左腕を入れる。

 手裏剣は、椿野の左腕に突き刺さった。

「女とは思えぬ根性だ」

 手裏剣を放ったのは、井土だった。

「ならば次の手を打つまで」

 井土がスタートを切った。

 その途中、奴は懐から煙玉を取りだす。

 それを地面に叩きつけた。

「ねちっこいなぁこの野郎!!」

 一面真っ白な世界。

 こうなったら視力は関係ない。

 椿野は用心深く耳を澄ませた。

 すると…。

“トン”

 左から、僅かに音が聞こえた。

 椿野はそっちへ向かって早撃ち。

 だが、手応えは感じられなかった。

「どこを撃っている」

「ッ!!」

 なんと逆側から井土が現れる。

 椿野が聞いた小音はフェイク。

 奴が小ぶりの鉄球を投げていたんだ。

「さぁ逝くがいい」

「クソが!!」

 井土の忍者刀が、椿野を袈裟に捉える。

 その一撃もまた深かった。

「ゲフッ…、好きなだけ斬りゃァいい」

 椿野が血に塗れた手を、懐に入れる。

 その時、真正面から雑賀が飛び出してきた。

「諦めようか。椿野君」

 雑賀がナイフによる刺突を放つ。

「ウガァアアアアアア!!!」

 椿野が気合いで体を捻る。

 ナイフが、椿野の左肩へ食い込んだ。

 肩をやられたにも関わらず、椿野は笑っていた。

「どデカいのいくぜぇ……」

 足下に、今日イチデカい花火玉が落ちた。

 しかも、もう導火線を火が走ってやがる。

「自爆か」

「花火はもう飽きたんだが」

 井土と雑賀は、その場から距離を取った。

 遅れて椿野も後ろに跳ぶ。

 その瞬間、花火玉が爆発。

 けたたましい破裂音が、連続で鳴り響く。

 金色の火花が、複数回に渡って飛び散った。

「ぐぅううううう!!!」

 椿野がアスファルトの上を転がる。

 腹に刺し傷。

 胸部の背中に裂傷。

 そして全身爆傷。

 もう、命に届きかけていた。

「ぐっ…、ゲホッゲホッ…!!」

 それでも椿野は、血を吐き散らしながら震える足で立ち上がる。

 霞む目線を、正面に向けた。

 花火を使ったことで、煙幕はほぼ吹き飛んでいた。

 だが、2つの影は未だ健在だった。

「その傷でよく立てるものだ」

「根性だけは表彰されるべきだね」

 井土と雑賀は、なんと今の爆発を切り抜けていた。

 双方火花で服が焦げているものの、井土はほぼ無傷。

 雑賀は負傷しているが、戦えない程じゃない。

 椿野にとって、この戦況は絶望的だった。

「ケッ…ハハッ。いつか死ぬとは思ってたけどよぉ…。今日だったんだなぁ」

 椿野は自虐的に笑いながら、懐に手を入れた。

(でもタダじゃ死なねェよ)

 こんな状況でも、コイツは最後の抵抗を見せようとする。

 だがそんなもん、奴らは見逃さない。

「何故そこまで頑張るのか」

 井土がもうスタートを切っていた。

 忍者刀を片手に、椿野にトドメを刺しにいく。

 しかし、奴の凶刃が届くことはなかった。

「オラァアアアアアアアアア!!!」

 突如、1人の男が雄叫びを上げながら、椿野の後ろから飛び出してきた。

「ッ_____!!?」

 そいつはえげつない勢いで跳んでくる。

 次の瞬間、男の跳び蹴りが井土に突き刺さった。

「ぐぅうううう_______!!!」

 井土は咄嗟に腕を入れていた。

 だが、勢いを殺すことができない。

 奴はまるでサッカーボールのように、吹き飛ばされた。

「……ぐぅ!なんという…!」

 井土は瞬時に体勢を整える。

 防御のために入れた腕が、痺れるように痛む。

 この時井土の左腕の骨には、ひびが入っていた。

「まさか、きみまで釣れるなんてねぇ」

 雑賀は目を丸くする。

「……ハハッ。まだ、生きてて良いらしいなぁ」

 椿野の口角が上がる。

 その目には、希望が宿っていた。

 鉄火場に乱入してきたこの男…。

 それは、結城組の最高戦力、仙堂せんどう春幸はるゆき

「花火の音に誘われて来たけどよォ、随分面白いことになってんじゃねェかァ!!」

 仙堂の顔は、歓喜に満ちている。

 コイツは元々町の見回りに出ていた。

 まぁいつも適当にほっつき歩いてるだけなんだがな。

 そんで今日もサボって、雑居ビルの屋上でタバコを吸っていた。

 その時、町の一角で異様に低く上がる花火を見た。

 今は花火大会の時期じゃねェ。

 しかも今は真っ昼間。

 こんな時間に町中で花火をぶっ放す奴なんざ、1人しか居ねェ。

 仙堂は花火の爆音を宛に、ここまで辿り着いたんだ。

「椿野ちゃん、あとは俺に任せて休んでなァ!」

 椿野を背に、仙堂が立ち塞がる。

 コイツの本質は戦闘狂。

 敵が強いほどテンションが上がる。

 しかも相手は2人だ。

「仙堂春幸。今宵は貴様の首を手土産としよう」

「きみの首にも、価値があるからねぇ」

 仙堂は万全だが、椿野はあと1発で終わる。

 実質、2対1の状況は変わらない。

 井土と雑賀は前のめりだ。

 だが、そもそも仙堂は1人でやる気だ。

「忍者にピエロォ。テメェら俺を楽しませてくれんのかァ?」

 狂気じみた笑みを浮かべながら、仙堂はナイフを抜いた。

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