18話 結城組の情報通
俺の名前は結城高虎。
「海星〜、しりとりしようぜ」
「今日で8回目ですね。付き合いますけど」
暇な入院生活を送る結城組の組長だ。
つっても、もうそろそろ退院できそうなんだけどな。
俺の隣のベッドに居るのは、俺より重症な組員、石田海星だ。
「明太子」
「コンビーフ」
「フィナンシェ」
食い物縛りでしりとりをしていると、病室のドアが開かれた。
「うぃ〜す。蓼ちゃんが見舞い来たで〜」
入ってきたのは同じくうちの組員、蓼丸千秋だ。
見舞いの品なのか、何か袋に入れてきてやがる。
「2人揃って暇そうやな。ほら焼き鳥や」
「おぅ!サンキュー!」
病院食は味薄いからなぁ。
塩辛いのと甘いタレは、メチャクチャありがてェんだよな。
蓼丸は海星にも焼き鳥を渡していた。
「痛そうやな海星。これ食うて元気出しや」
「蓼丸の兄貴、ありがとうございます」
「にしてもお前まで入院か。殺し屋クーガー。相当やな」
海星は数日前、クーガーという凄腕の殺し屋とぶつかった。
結果は引き分け。
お互い入院レベルの重症を負った。
「殺すと言った手前、情けないです。申し訳ありません」
「そう気負うな。お前はよくやったよ」
クーガーの野郎もしばらく襲ってこれねェだろう。
だが、海星はうちの最高戦力の1人。
上と下を繋ぐパイプ役でもある。
しばらく動けないとなると、うちとしてはちときついな。
とはいえ、クーガーの実力は間違いなく、裏社会トップクラス。
この俺でさえ仕留め切れなかった男だ。
そんな奴相手に、引き分けまで持っていけるか。
出会った頃は弱々しかったのに、逞しくなったもんだぜ。
「……苗木は、どうしてますか?」
海星は蓼丸に、ふとこんなことを聞いた。
「おっ?何や、心配か?直下の舎弟やもんなぁ」
「そんなんじゃねェです」
「あいつはようやっとるよ。昨日とか、諸藤の兄貴とカチコミ行って活躍したらしいで」
蓼丸は椅子に座ると、愉快そうに笑った。
昨日、苗木は半グレ組織“雄武烈”の粛清に参加した。
「諸藤の兄貴、よろしくお願い致します」
「苗木、最近きばっちょるらしいな。じゃっどん無茶はいかんよ」
今回のカチコミの主導は、諸藤錦右衛門。
この男も、うちの超武闘派だ。
鹿児島出身で、元力士。
その体も結城組の中で一番デカい。
パワーと耐久力だったら、諸藤の隣に出る奴はそう居ないだろう。
(絶対に油断しねェ…)
悠々と歩く諸藤の隣で、苗木はそう息巻いていた。
そうして2人は、“雄武烈”のヤサに辿り着いた。
諸藤が入り口のドアに近づく。
「ふん____!!!!」
そして、全力の張り手を叩きつけた。
“ドガァアアアアアアア________ン!!!!”
弾丸みたいな勢いで、ドアが部屋の中へと飛んでいく。
それは“雄武烈”の構成員2人にぶち当たり、壁で止まった。
諸藤は当たり前のように入っていく。
「なんだァ!!?」
「誰だお前!?」
突然入ってきた大男に、半グレ達が吠える。
「おい達は結城組じゃ。お前達、暴れ過ぎじゃ」
諸藤が静かに前に出る。
「へっ!やる気か!?図体デケェが、どうせ見た目だけだろ!!」
1人の半グレが殴り掛かる。
諸藤は何もしない。
そのまま奴の拳を腹に受けた。
だが、そんなもんじゃコイツはビクともしない。
「へっ?えっ!?」
「こず、拳がかりんじゃ」
困惑する奴に向けて、諸藤が拳を振り上げる。
それをお返しとばかりに、そいつの腹に叩き込んだ。
「魂が、てんごもってないんじゃ!」
“ゴキッ!!”
「ぐべあ_____!!!」
比べ物にならない程の一撃。
内臓がグシャグシャだ。
そいつは血反吐を撒き散らしながら、吹き飛んだ。
「うぉあああああ!!なんだよコイツ!!?」
「やれ!やっちまえ!!」
残りの半グレ達が、ナイフを抜く。
そして、一斉に襲い掛かった。
「親ふこもんが」
諸藤も得物を取り出す。
奴の武器は、分厚い手斧。
とても片手で触れるような重量じゃない。
だが諸藤の腕力が、それを可能にする。
「屁とん知れん人生おくっな!!」
“ドフシャッ________!!!!”
「ッ______!!?」
「うべっ_____!!!」
「バヒャッ______!!!」
強烈な横薙ぎが、一気に3人を両断した。
諸藤は止まらない。
闘牛のような勢いで、半グレ達の中へ突っ込んでいく。
確かにパワーは桁違いだ。
だが、スピードはそこまでだ。
「貰ったァ!!!」
「むぅ____!!!」
1人の半グレが、諸藤の背後に回り込んでいた。
そのまま腰に、ナイフを突き立てようとする。
その時だった。
「やらせるかァあああああああああああ!!!!」
怒鳴り声を上げながら、苗木が間に入ってきた。
「なっ!?」
苗木の気迫に圧され、半グレが怯んだ。
その隙に、苗木が素早く懐に飛び込む。
そして奴のどてっ腹に、ドスをぶっ刺した。
「兄貴に、手ェ出してんじゃねェええええええ!!!」
苗木は叫びながら、ドスを斜めに上に引き上げた。
「ガバぁアアアアア_____!!!」
腹を掻っ捌かれた奴は、血を撒き散らしながら倒れる。
それが苗木の体に降り注いだ。
そんなことは気にも止めず、苗木は残りの半グレ達に視線を向けた。
「うおぉ!!なんだよコイツ!?」
「やっ…やべェって!」
血に塗れ、鬼の形相を浮かべる苗木に、半グレ達はさらに恐怖する。
「苗木…おまいは……」
諸藤の口からも、つい感嘆の声が漏れる。
苗木は諸藤の方にも目を向けた。
「諸藤の兄貴、このまま行きましょう。背中は俺に任せてください」
自分の倍の体格を持つ諸藤に臆することなく、こう言いやがった。
「……おぅ。頼いにしっちょよ」
諸藤は笑ってそう返した。
2人はそのまま、半グレ達の中へ突っ込んだ。
人数じゃ負けているが、この2人は止まらない。
数分後には、“雄武烈”の奴らは全滅していた。
「ハァ……ハァ………。やってやったぞ。こんちくしょう!」
“梵罵”の粛清以来の大暴れだ。
苗木は息を切らし、その場にへたり込む。
「苗木、よぅきばったなぁ」
諸藤が苗木に、優しく声をかける。
そして、大きく分厚い手を差し出した。
「立つっか?腹減ったろ?なおしてあれがえてから飯食いに行っか。奢っぞ」
「飯…?いいんですか?」
「わいはようやってくれたでな」
「ッ!!……ありがとうございます!!ご馳走になります!!」
苗木が手を掴むと、諸藤は力強く引き上げる。
そのまま2人は死体の処理を終わらすと、仲良く飯屋に直行していった。
「苗木、舎弟にしてはけっこうやるやんな。諸藤の兄貴もよぅ褒めとったで」
蓼丸の言う通り、苗木の働きぶりは目覚しい。
諸藤が一緒だったとはいえ、粛清でそこまでの成果を出すとはな…。
入ったばかりの舎弟とは思えない程の戦闘力。
こりゃ将来有望かもな。
気合いと覚悟は大したもんだが、上には上がいる。
格上を前にどうするか…だな。
「やっぱ…、俺より諸藤の兄貴の方がいいんじゃないですか?」
海星がポツリとそう零す。
コイツもまた、諸藤の下で学んでいる。
無骨な自分より、懐が広い諸藤の方がいい。
多分そんなことを思ったんだろうな。
「何言ってんだ。“雄武烈”の粛清が上手くいったのも、お前の指導があってこそだろ」
「長……」
「それにな、指導ってのは後輩だけじゃなく、自分自身も成長させる。今は兄貴分に任せていい。退院したら、引き続き苗木を頼むぜ」
コイツはずっと俺達の後を付いてきた。
そろそろ引っ張る方に回ってもいいだろう。
「……解りました。傷が治り次第、あの馬鹿にいろいろ叩き込みます」
海星は目を鋭くさせながらそう言った。
自信が戻ったようで何よりだ。
「……にしても、これ許せんなぁ。やったのはクーガーやけど、雇い主も放っとかれへん」
ここに来て、蓼丸の纏う空気が変わった。
コイツからすれば、組長である俺、可愛い弟分である海星をやられてる。
俺達3人は、何だかんだで長い付き合いだ。
蓼丸の口角は上がっちゃいるが、こりゃブチギレてるな。
「蓼丸、何する気だ?」
「クーガーの雇い主…。どうせ”刃裟羅“やろうけど、確証はない。せやけど丁度ええ機会や」
蓼丸が椅子から立ち上がる。
「ちょっと、“刃裟羅”のお偉いさんとお話してくるわ」
コンビニ行ってくるみたいな感じで、蓼丸はそう言いやがったんだ。
「おいおい。本丸に直接殴り込む気か?」
「安心しぃ。俺は引き際を弁えるタイプの男前やからな。まっ、上手くやるわ」
そう言って、蓼丸は病室を後にした。
結城組の武闘派、蓼丸千秋。
コイツの動きが、結城組と“刃裟羅”との戦いを進展させることになる。




