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【2/16コミック②発売】捨てられた聖女はダンジョンで覚醒しました〜真の聖女?いいえモンスター料理愛好家です!【書籍化】  作者: 朝月アサ
第四章 女神教会本山

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201/201

201 ダンジョンからの脱出





 帰還ゲートを通り、ダンジョン出口付近まで戻る。

 そこは最初の場所――暗くて広い、洞窟のような場所だ。石の壁に覆われ、天井があまりにも高い。

 地面だけが薄っすらと青く光っていて、白い人骨の欠片が積もっている。


 その一角に、女性たちの集団がいた。


「やっときた」


 ブローケが言いながら近づいてくる。表情は疲れてはいるものの、明るく輝いていた。


「ブローケさん、ヨーグルトをありがとうございました」

「ははっ。気に入ってもらえたなら良かったよ」

「どうです? 出られそうですか?」

「うーん……どうしようって考えてたとこでさぁ。正直お手上げ」


 この空間の出口――遥か上方を見上げる。

 遠い。光もないため、まるで夜空のように遠く感じる。


「たぶん、何とかなると思います」


 リゼットは確信して言う。


「ブローケさん、その前にこれを渡しておきます」


 リゼットは手持ちのゴールドをすべてブローケに渡した。

 これまでのダンジョン探索から得られたゴールドだ。


「それなりの額があります。当面の資金にはなるはずです」


 これからブローケたち――ダンジョン内の集落で長年暮らしてきた人々は、ダンジョンの外で生活していくことになる。

 何をするにしても資金は必要だ。


「外に出たら何があるかわかりませんから、念のため先にお渡ししておきます」

「ありがとう。有効活用させてもらうね」

「これも使ってくれ」


 レオンハルトもブローケにゴールドを渡す。


「厳しい環境で生き抜いてきた君たちだ。外は苦労も多いと思うが、乗り越えられると信じている」

「あーもう、本当に王子様みたいだよね。ありがとう。大切に使わせてもらうよ」


 リゼットは小さく頷き、空を見上げる。

 厚い石に覆われて見えない空を。

 だが空は――母神の座する場所は、この視線の先にある。


「――貫く!」


 リゼットが叫ぶと同時に、強力な魔力がまっすぐに空へ飛んでいく。それを阻む天井を破壊し、崩していく。一度では壊れないためもう一度、もう一度。


【聖盾】


 上から降り注ぐ大量の瓦礫を、レオンハルトの魔力防壁が弾く。

 土埃が収まるころ、上に光が見えて歓声が上がる。

 本物の空の光は、まるで星のように明るく輝いていた。


「風魔法であそこまで飛びましょう。運べる人数は限りがありますから、少人数ずつ」

「アラクネ糸のロープならあるぜ。長さも充分だし」


 ディーが取り出した白いロープに、ブローケが関心を寄せる。


「いいね。これがあれば皆あそこまでぐらいなら登れるよ」

「登るんですか? あそこまで?」

「ダンジョン暮らしの体力舐めないでねー」


 自信たっぷりに言う。


「まずは俺たちで様子を見てこよう」


 レオンハルトの言葉に、リゼットは頷いた。


「そうですね。安全を確認してから、ロープを下ろしましょう――ウインドリフト」


 風魔法を使い、自分の身体を浮かせる。最初に試した時よりもずっと安定していて、これならパーティ五人まとめて運べそうだった。


 五人で空中に浮き、ゆっくりと上がって穴から出る。


 大聖堂の神の座には、床と天井に大きな穴が開き、開放的になっていた。空から光が差し込んでいてとても明るく、崩れた屋根の瓦礫が辺りに散らばっている。


 幸いなことに、いまは誰もいない。


「派手にぶっ壊れてんな」

「ふふっ」

「この分だとすぐに誰か来そうだ。急ごう」


 協力してロープを柱に括り付け、穴に垂らしていく。

 すぐにロープがピンと張り、静かに揺れ、下から人が上ってくる。

 一番最初にブローケが。その後も女性たちはしなやかな動きで、ロープを駆使して次々と上ってくる。


「うーん、この空気。何年ぶりなんだろ」


 ブローケが大きく伸びをする。他の女性たちは外に出た感動と緊張で瞳を潤ませていた。


 しかし、穏やかな空気は長くは続かなかった。

 大聖堂深淵の神の座――その唯一の出入口から、誰かがやってくる。


 それは教皇アマスフィアと、審問官ユドミラだった。

 白く輝く祭服を纏った黒髪の少女のすぐ後ろで、ユドミラが控えていた。


(ユドミラさん……)


 ユドミラと会うのは久しぶりだ。だが、再会を喜べるような雰囲気ではない。それでも元気そうな姿に安心する。


 眼帯をつけたままなのを見ると、復元できる回復術士は見つからなかったのだろうか。


(メルディアナなら治せるのかしら……)


 ――それを相談できるような雰囲気ではない。


「これはどういうことですか……」


 教皇アマスフィアの瞳は驚きと怒りで揺れていた。

 女神教会によって、教皇によって、ダンジョンに捨てられたものたちが戻ってきている。

 教皇としては完全に想定外の出来事のはずだ。


「あれがアマスフィア? あたしの知ってるアマスフィアと違う……」


 ブローケがこっそりとリゼットに聞いてくる。


「教皇は、歴代教皇の記憶を継いでいくようですから……」


 ブローケが知っているのは、いまよりも前のアマスフィアなのだろう。


「何をしたのです」


 幼い少女は、その幼さに見合わない迫力で、声を低くしリゼットに問う。


「エルテリアさんたちから引き継いだ聖遺物を、本来の場所に戻してきただけです」

「……それだけでどうして、母神の存在も、巨人の存在も感じられなくなるのです。何より――どうしてあなたがここにいるのです!」

「方法は明かせませんが、母神の聖遺物により巨人は死にました」


 聖遺物を取り込んだ腕で巨人の心臓を突き刺したこと。

 レオンハルトに切り離してもらったこと。

 その傷をメルディアナに治療してもらったこと。


 すべて話せるほどには、女神教会のことも、アマスフィアのことも信用していない。


「大地の巨人が、死んだのですか……?」

「はい、間違いなく。使命とやらは果たしましたので、これで失礼させていただきます」


 リゼットはスカートをつまんで一礼する。

 すぐに部屋から出ようとしたが、アマスフィアはその場から動かない。

 顔を青くし、ふらふらと揺れていた。まるでいままでの自分の世界が、足元が、信仰が、崩れ去ってしまったかのように。


「……世界の、秩序が……秩序が壊れる……身共が守ってきた、秩序、秩序が……」

「――教皇。あなたの言う秩序とはなんでしょうか? 母神は変わらずいらっしゃいます。天空から、私たちを見守ってくださっています」


 空いた穴から見える空は、ひたすらに青い。

 差し込んでくる光は眩くあたたかい。

 世界は何も変わっていない。秩序は何も揺らいでいない。壊れていない。


「なぜ……どうしてこんなことに……」

「お姉様が手負いのジャイアントキリングベアーよりも恐ろしいと知らないで、利用しようとするからですね」


 メルディアナがぽつりと呟く。

 ――ジャイアントキリングベアー。強く、恐ろしく、美しく、おいしい地上モンスター。


「……こんなことがあってはならない……母神の聖遺物が失われたなど……」

「失われてはいません。巨人と共にあるのですから」

「我々の管理下になければ、ないのも同じ――! そうしなければ、人々は安心して過ごすことができません。世界の秩序を守らなければ」


 ユドミラに、怜悧な視線が向けられる。


「ユドミラ、すべて消去しなさい」

「…………」

「……あなたまで私を裏切るのですか?」


 声は触れれば切れそうなほど冷酷だった。


「あなたはいまこの瞬間のために存在するというのに……恐れているのですか? 嘆かわしい……ならば、我らが執行しましょう。聖女たちより献上されてきた聖遺物――女神の力で」


 アマスフィアの瞳の奥に灼けるように強い光が灯る。

 呼応するように、アマスフィアの周囲に淡い光がいくつも生まれる。それぞれからは火の魔力、水の魔力、土の魔力、風の魔力が強く発せられていた。


「神を裏切る者たちに天罰を」


 それらがアマスフィアの身体に吸い込まれていく。

 アマスフィアの身体は黄金色に輝き、揺らぐ光が周囲の空間を歪めてゆく。


 その姿はまるで、黄金の女神だ。

 もはや女神そのものと化したアマスフィアは、力強く輝く瞳でリゼットを見つめる。


「この世界のすべてを、神と我らのもとに――」







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