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【2/16コミック②発売】捨てられた聖女はダンジョンで覚醒しました〜真の聖女?いいえモンスター料理愛好家です!【書籍化】  作者: 朝月アサ
第四章 女神教会本山

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200/201

200 宴会






 リゼットはレオンハルトと一緒に火をおこし、エンシェントドラゴンステーキを焼く準備をしていく。


「リゼット、その、手は大丈夫なのか?」

「はい、こうしてまた料理ができるのは嬉しいです」


 心配するレオンハルトに、リゼットは笑顔で答える。


「でもやっぱり、オリハルコンの包丁は惜しかったです……あんなに切れ味のいい包丁、もう出会えないかもしれません」

「またドワーフに打ってもらおう。オリハルコンは難しいかもしれないけれど……」


 料理をしている間、他の三人はミーミルベリーを食べていた。


「このミーミルベリー? 甘くて美味しいわ。あっという間に若返りそう」


 メルディアナは特に気に入ったようだった。


 ステーキを焼きながら、リゼットはこれまでのいきさつを話す。

 エンシェントドラゴンを倒した後、長い時間をかけて塔を下りて、巨人の心臓を聖遺物『母神の右手』で殺したことを。


「うまくいってよかったです。下手をすれば、私たち皆死んでいたかもしれませんからね」

「とんでもねえこと軽く言うよなぁ」


 ディーは呆れ顔で、ダグラスは信奉の眼差しでリゼットを見ていた。


「大地の巨人を倒すとは……リゼットさんはまさに母神の愛娘――なのですね」


 リゼットは曖昧に微笑んだ。

 ダグラスなりの最上級の誉め言葉なのだろうが、なんとも落ち着かない。


「皆さんは三人でここまで下りてきたのですよね?」

「まっ、地図があったし、厄介な階層ボスはいなかったからなんとかなったな。でも割とギリギリだったぜ。メインの攻撃役がダグラスしかいねーし。何回死にかけたことか」

「ここまでこれたのは、わたしのおかげです」


 メルディアナが胸を張って言う。


「否定しねーけど肯定したくねぇな。ああ、そーいやこれ、ブローケから」


 ディーがリゼットに渡してきたのは、たぷんとした皮袋だった。

 中を見ると、乳白色の柔らかい固形物が入っている。


「まあ。この色、この匂い――ヨーグルトですか?」

「アクリスの乳からつくったやつだとよ」

「素敵です。ミーミルベリーのソースでいただきましょう。きっととても美味しいですよ」


 想像するだけで頬が緩む。


「ブローケさんたちは元気そうでしたか?」

「元気元気。もう地上を目指して動いていたぜ。地図の写しを渡してるから、上までそう苦労しねーだろ」

「早く会いたいです」


 リゼットはステーキを焼くのをレオンハルトに任せることにした。肉を焼くのはレオンハルトの方が上手だ。

 リゼットはミーミルベリーを集めてソースを作る。皮ごと潰しながら煮詰めていき、火が通ったところで水魔法で冷ます。


 そうしてほどなく、エンシェントドラゴンのステーキと、アクリスヨーグルトのミーミルベリーソース添えができあがる。


 食事の準備ができて、みんなで集まって、ダンジョンの底――ミーミルベリーの林の中で、ささやかな宴会が始まった。


「いただきます」


 メルディアナは皿の上のエンシェントドラゴンステーキをじっと見つめた。

 そして、躊躇せずにぱくりと食べる。


「おいしい……!」


 感激の声と共に、満面の笑みが浮かぶ。


「あー、マジでうまいなこれ。あのドラゴンを食ってるって思うと胸がスッとするな」

「ええ。これは大変美味です。ノルンダンジョンのツインヘッドドラゴンステーキも味わい深かったですが、これもまたなかなか……」


 ダグラスは感慨深そうにエンシェントドラゴンステーキを食べていく。


「このダンジョンで色んなモンスターを食べたけれど、これが一番おいしいわ……わたし、きっと、ずっとこのドラゴンステーキを忘れない……おかわりはあるかしら?」


 どんどんステーキを食べ、どんどん若返っていくメルディアナを、リゼットは微笑ましい気持ちで見守った。

 一緒に暮らしていた時でも、こうやって一緒に食事をすることは、ほとんどなかった。こうした時間を持てたことを、本当に嬉しく思う。


 ――それにしてもメルディアナの食欲はすさまじい。


「食材が少し足りませんね。いっそ巨人の心臓も料理しましょうか――」


 ちらりと奥の方に視線を向ける。


「それだけはやめてくれ!」

「絶対ヤダ!!」


 レオンハルトとディーが断固拒否してくるので、仕方なく諦める。

 リゼットはドラゴンステーキは少量で終えて、アクリスのヨーグルトにミーミルベリーのソースを混ぜて食べる。


「ふふっ、それにしてもこのアクリスのヨーグルト、コクがあってすごくおいしいですね。ミーミルベリーとよく合いますし」


 幸せな気持ちで満たされていく。

 料理の品数は少なく、酒もないが、リゼットにとっては一番楽しい宴会だった。


 すべて完食し、心身ともに満たされるころには、メルディアナは完全に若返っていた。

 やはりモンスター料理はすごいとリゼットは思う。栄養がある。力がある。


「そういえば、地上の方はどうなっているのでしょう」


 気になって呟くと、リゼットの中からルルドゥとフレーノが飛び出てくる。


『気にするほどのことではない。世界のかたちがほんのわずかに変わっただけだ』

『まあ、たいした影響はありませんの。少しばかり揺れただけです』


 そこに存在するのが当たり前のような二人を見て、リゼットはほっとした。

 聖遺物を切り離したいと思って女神教会の総本山にまで来たのに、いまは二人の存在に癒されている。


(まあ、これはこれで楽しいですし)


 賑やかでいい。


「たいした影響がないのならよかったです」

「だとしても、女神教会は大混乱だろう」


 レオンハルトが言い、ディーがリゼットを見る。


「お前、外に出たらヤバいんじゃね?」

「リゼットが戻ってくること自体、教皇にとっては想定外だろう……しかも聖遺物である『母神の右手』は巨人と一体化して取り出し不可能で、何より巨人が死んだなら――」


 レオンハルトが考え込んでいる。


「大地の呪いも噴き出さなくなったら、女神教会も、聖女も、お役御免よね」


 メルディアナが冷静に言う。

 レオンハルトが表情を曇らせた。


「権力者は、権力を失うことを一番恐れる。女神教会も権威が失われることを良しとしないだろう。巨人の死をずっと隠していくつもりなら、ダンジョンから戻った俺たちを逃がす気はないだろう」

「女神教会に追われる立場になるのは勘弁してほしいぜ……あいつらどこにでもいるぜ?」

「いっそ海を渡って、誰も私たちを知らない場所へ行きましょうか」


 いっそ全員で。楽しい旅になるだろう。


「わたしは嫌よ。冒険者とか、ダンジョン探りなんて」


 メルディアナは顔を顰めていたが、何か思いついたのかぱっと目を輝かせた。


「お姉様が現教皇を倒して、新しい教皇になればいいのよ!」

「過激派すぎんだろ!?」


 レオンハルトが呆れ顔で嘆息する。


「さすがに教皇選出はそんなシステムじゃないだろう……王じゃあるまいし」

「王様ってそんなシステムなのかよ!?」

「割と」

「マジか……」


 愕然とするディーをダグラスが苦笑しながら眺めている。


「次期教皇の選出は、教皇による指名制です。ですが――」


 まっすぐな眼差しがリゼットを見る。


「いまのリゼットさんが教皇になられるというのなら、反対するものはいないでしょう」

「ンなバカな。こいつが教皇? それこそありえねーよ」

「そうでしょうか。リゼットさんこそ相応しいと思います」


 リゼットは慌てて首を横に振る。


「そんな面倒そうな立場は嫌です。私はまだまだ自由でいたいんです」


 教皇なんて地位。想像までもなく面倒そうだ。


「ふぅん。じゃあ、わたしが新しい教皇になろうかしら」


 メルディアナの発言に、全員が驚きで言葉を失った。


「どんだけ自信家だよ……」

「いえ、メルディアナなら……可能かもしれません」


 こうと決めたら手段を選ばないのがメルディアナだと、リゼットはよく知っている。

 教皇になると決めたなら、どれだけ時間がかかっても、どんな手段を使っても、成し遂げてしまうかもしれない。


「――ここのダンジョンマスターの話だと、教皇は歴代教皇の記憶を継いでいくらしい。それを継ぐ気があるのなら――」

「そんなものいらないわ。新しい時代には邪魔なだけよ」


 レオンハルトの言葉を、メルディアナはばっさりと切り捨てる。

 その表情は自信に溢れている。


「メルディアナ、どうして教皇になりたいんですか?」

「だってそうすれば、毎日おいしいごはんが食べられるでしょう? 教会のごはんも悪くはないけれど、素朴すぎるのよね」

「なるほど。食事は大切ですね」


 リゼットはうんうんと頷く。


「それで納得すんのかよ」


 ディーの呆れたような呻き声が響いた。


「――それでは、名残惜しいですがそろそろ地上に戻りましょうか」


 ミーミルベリーでアイテム鞄の隙間を隈なく詰め込んで、リゼットたちは帰還ゲートに入った。






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