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村の歴史

「その前にお前達にも、この村の歴史について教えておかなきゃな、引っ越し先も関係することだから」

 うなずく四人に、俺はこの村の特殊な事情を説明してやることにする。


 この村は元々それなりの人口がいた、いわゆる自給自足の村だったんだ。

 由来は落武者の集落から、まあ良くある話だ。


 江戸時代は一応どこかの藩に組み込まれてはいたのだが、なんせこんな山奥なので、この村は放置状態で三百年を過ごした。

 放置されていた時代は、村の血が濃くなりすぎないように、行き倒れの旅人を介抱してそのまま住まわせたり、遠くから娘をさらってきて、そのまま若い衆に嫁がせるなど、結構えぐいこともやっていたらしい。

 そのころはこの村はふもとの集落からは「隠し里」とか「神隠しの村」とか言われていたそうだ。

 この辺が村の名前の由来といえる。


 そして明治時代を迎える。

 藩から県となった役所から役人がこの村を訪れ、山林の所有権確認を行ったのだが、役人もこんな山奥を県で面倒見る気はなかったらしく、周辺の山林はそれこそ村の世帯一戸に一山単位で個人所有と記録されたんだ。

 なのでこの辺一帯の山林は全て私有地となった。


 このときに村の正式名称は「奥大井郡天狗村」と決まった。

 ちなみに村名の由来は前述の「神隠しの村」からきているそうだ。

「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ!」というところだろう。

 

 村に訪れた次の転機は「大型ダムの開発」

 村を通る河川に、大型ダムが建設されることになった。

 工事現場からほど近いこの村にも、町から多くの作業員が訪れ、仮設住宅もたくさん建設された。

 同時にこのころから「天狗様」がこの村の守り神だと語られるようになる。

 元は村民が作業員達を村名の由来を聞かれて適当に答えたことらしいが、なぜかそれが独り歩きしてしまい、工事現場の地鎮祭などでは天狗様も祀られるようになったそうだ。

 この名残は今もあちこちに残っており、役場の裏には小さなほこらも建てられている。


 町から村までの道路が整備されたのもこの頃。

 ただし名目上は「農道」となっている。

 どうやら工事道路として様々な重機や車両を通すには、一般道よりも農道の方が都合がいいらしい。

 農道の設置には農家の同意が必要ということなのだが、これに村は協力したそうだ。


 それに対する返礼のつもりなのか、単についでだからかどうかは不明だが、工事現場に電気や電話を引き込むのと同時に、村にも電気と電話も整備されたんだ。

 ちなみに水道は地下水からの湧水が豊富にあるので、それを各戸に引き込んでいる。

 ガスについては当時からプロパンで対応している。

 

 その頃が村のピークだったらしい。

 村の女性がダムの作業員と結婚したり、逆に村の男性が作業員の家族と結婚した例も多かったというんだ。


 そんなこんだで数年をかけてダムが完成した。

 実はダム建設地は全て村民の土地だったので、村民は多額の土地売却金や土地使用に関わる補償金を手にした。

 そして、建設作業員が村を出ていくのに合わせるかのように、村民たちの多くも街に引っ越していったんだ。


 ちなみに残された土地建物は全て村に「寄付」された。

 主に税金対策として。

 そんな中でかたくなに村に残った連中が、今の爺さんや婆さんたちなんだ。


 なお、ダムと村を結ぶ道は数年後の大豪雨で埋まってしまった。

 ダムの方は反対側の町につながる道が生きており、村側も別にダムなんぞに用事はないので、埋まってしまった道路はそのまま放置され、荒れ放題となっている。

 

 ところが転機は三度みたび訪れた。

 村の地下を、超高速鉄道が通ることになったんだ。


 村は再び工事の対象となったけれど、今度は作業員はほとんど来なかった。

 その代り、電線と電話線が最新のものにリニューアルされ、超高速鉄道の施設保全機器に接続されたんだ。

 その際にこれもついでなんだろうが、村の電線と電話線も最新鋭の施設に更新され、さらには携帯電話のアンテナも整備された。

 なのでこの村は超限界集落なのに、光回線が通じており、携帯電話も使用可能となっている。

 但し携帯電話は村を出てすぐに使用不能となるのだが。

 ちなみに今回も「地上権」や「水利権」などの補償金が発生したので、村に残った爺さん婆さん達は再び大金を手にすることになった。

 

 これが爺さん婆さんが金を持っている理由。

 そして信金さんが月一回この村を訪れるという大サービスを行う理由でもある。


 ちなみに信金さんはこの村に支店やATMも設置したこともあるが、ほとんどだれも利用しないということで、すぐに撤収された。

 村の税収もダムを所有する電力会社や、トンネルとその保全機器を所有する鉄道会社からの税金で十分すぎるほど潤っている。

 なのでこの村は超限界集落にも関わらず地方交付金の不交付団体となっている。

 ならば、なぜもっと積極的に村の規模を大きくしないのか。

 答えはただ一つ。


 村民の爺さんと婆さんが基本「自給自足民」で開発にまったく興味がないから。


 せめてインフラ整備をと村の負担で町との定期バスを運行する計画も出たが、誰が片道三時間もかけて出かけるんだということで中止。

 せめて医者をという話も出たが、来る医者来る医者すべてヤブなうえに態度がでかいのが気に入らないということで村民全員でたたき返して終了。


 話は長くなったけれど、これが村の歴史。

 そして「村有の建物」がたくさん残されている理由でもある。

 ちなみに今俺が住んでいる平屋も村有なんだ。

 だから家賃は官舎扱いで無料ただ同然。

 まあ、残された建物は廃墟同然だけれど、手入れをすれば何とかなるだろ。


「あたしに任せなよゲンボクちゃん!」

 エミリア、心強いぜ。


 それじゃ、みんなで空き家を見立てに行くとしよう。

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