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ケーキ

 魔王さまはわたしを肩にのせたまま階段をとんとん降りて行った。

重くないのかな、と至近距離からじっと魔王さまの顔色を伺ってみる。わたしの不躾ともいえる視線には確実に気付いているはずだけど視線は交わりそうもない。まあ無理している様子もないので体はお任せすることにする。


「魔王さま、その左手の部屋です」


 階段を降り切ったその左側の壁についた木製のドアを指さす。

魔王さまは言われた通りそのドアのノブを捻るが、自分でドアを指差しておいて、わたしはそれだけで嬉しくなってしまう。

やっぱりケーキを食べるために降りてきてくれたんだ。

魔王さまは約束を守ってくれた。



―――カチャ



 開けた景色には、小さ目の机と二つの椅子、そして机の上に載っているケーキがあった。それを見て、まず口を開いたのは魔王さまだった。


「運んだのか」


 主語が無いが、何がですか?なんてとぼけたことを言ったりなんかしない。

魔王さまはもともと口数自体が少ないのだ。

そんなところは突っ込まない。

そんなことより、わたしは魔王さまが気付いてくれたことに喜びが爆発していた。


 魔王さまが言ったのはこの部屋にある家具のことだ。

この部屋は以前家具どころか物の一つもなく、がらんどうだったのだ。


「はいっ!別の部屋で余っていたのを持ってきました!…勝手に持ってきてしまってごめんなさい」


 そういえば断りもなくやったことだったとはたと気づき、視線を下げて謝る。自分の屋敷を好き勝手いじるわたしのことを魔王さまはどう思っただろう。


「……」


 しかしいつまでたっても魔王さまの返事がない。返事がないことはよくあることだが、わたしを肩にのせたまま身動きもしない。

怖い。せめて何かアクションがほしい。そう思いつつ恐る恐る顔を上げると、魔王さまが動き出した。

いきなりのことで落っこちそうになるが、なんとか魔王さまの肩にしがみつく。

スタスタ歩を進めて、机の前でピタッと止まった。

否、ケーキの前で。


「…ララ、切れ」


 ぽつりと、それだけ言った。

それだけ、だったけれど。


「は、はい…ッ!」


 わたしは急いで魔王さまの肩から降り、ケーキの隣に置いておいたナイフを握った。少し悩んでから丸いそのケーキを六等分に切り分けた。

切れました、そう言う前に肩越しに腕が伸びてきて息をのむ。

魔王さまの細長い綺麗な指先がケーキの一切れをつかんだ。

離れていく腕を追うように魔王さまを振り返れば、わたしの視線に気づいた魔王さまは無表情のままに口を開いた。



「一緒に食べるのではなかったのか」









―――わたしは結局、ケーキを三切れ食べた。

間違っても五等分になんてしなくてよかったと、心から思う。


 無口な魔王さまはそれ以上何も言わず、結局森で必死に集めた木の実と果物で作ったケーキの感想は聞けなかったが、部屋を出ていくときにわたしの頭に手のひらを置いていったから、また作ってみようと思う。



 

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