第二章③
砂漠を渡るにはワゴンで半日かかる。
ホウェールズの音楽隊に同行したフォレスタルズという四人組のバンドは自家用ワゴンで砂漠を横断していた。備え付けのレコードプレイヤが軽快な音楽を鳴らす。車内は砂嵐の中を走っているとは思えないほど陽気だった。メンバーはボーカルとキーボードのノウラ、ギターのジョン、ベースのバリー、ドラムのミンス。ノウラが女性で、その他は男性。ジョンがワゴンを運転し、ノウラは助手席に座っている。
そろそろ出発してから十時間くらい経っただろうか。
しかし、ノウラは飽きることもなく音楽に合わせ体を揺らして窓の外を見ていた。
そして急に叫んだ。
「ジョン、止めて!」
「え?」ロングヘアにパーマのかけた、女のような顔立ちのジョンがノウラを見る。
「いいからっ!」
ワゴンは急停車した。音楽は鳴り止まない。
「バックして」
「なんで?」
「何か見えたのよ」ノウラは好奇心を目に灯していた。
「何かって、なんだよ?」明るいヘルメットヘアのバリーがレコードの針を持ち上げながら言った。音楽が鳴り止む。
「ソレを確かめるのよ」
ジョンはワゴンをゆっくりとバックさせた。
「ほら、」ノウラの声と指先が示す方向に三人は目をやる。「何かいる」
確かに砂嵐の隙間から何かいるのが分かった。しかし、それが何かは分からない。なんとなく人一人くらいの球体が確認できる。ジョンはその球体にワゴンを接近させた。
「女の子じゃないか!」助手席の後ろでミンスが叫ぶ。
「はぁ?」ノウラにはその球体が女の子だと確認できなかった。
「砂に埋もれてるんだよ!」
「どうして分かるんだよ」ジョンが聞く。
「どうして分からないんだよ、とにかく、助けに行く、」ミンスは鼻ピアスを外してノウラに渡す。「ノウラ、持っていてくれ」
「嫌よ! 汚い!」ノウラは本気で拒絶した。
仕方なくミンスは鼻ピアスをポケットにしまう。
「今だ、」ジョンが外を見ながら言った。「風が弱まっている」
ミンスはワゴンから飛び出した。バリーは砂が車内に入らないようにすぐドアを閉めてすぐにドアを開けられる状態でミンスを待つ。球体はすぐそこにある。ミンスは砂の上に膝を付いて手の平で砂をかき分けた。ノウラはキノコ狩りを想像した。ミンスがワゴンの方を一度見た。それからミンスは球体と、確かに女の子を抱えてワゴンまで走ってきた。ミンスの巨体でなければその仕事は不可能だったろう。バリーがドアを開き、女の子と球体を車内に入れる。
そのとき強烈な砂塵がワゴンを襲った。車内に砂が舞う。
ミンスは風に足をすくわれた。
ジョンが運転席から身を乗り出し、手を伸ばす。
間一髪だった。
手が繋がった。
ノウラも手を伸ばす。ノウラとジョンでミンスを引っ張り、車内に引き入れた。ミンスは慌ててドアを閉めた。砂が舞うのを止めてシートの上に落ちた。皆の髪はボサボサだった。呼吸が早い。皆、それぞれ目線を合わせた。笑みが自然にこぼれてくる。この状況、笑って音楽を聞くしかなかった。
バリーがレコードの針を落とす。




