第1話 異世界と個性的な奴ら
いつもの日常、いつもの道、いつもの時間。いつものように本を読む。そんな当たり前の日々が、突然足元から溢れ出した眩い光によって塗りつぶされた。
『大丈夫か?』
頭の中で俺を心配する声が響く
(大丈夫じゃない…起こさないでくれ…)
『さっきは何が起きた?周りはどうなった?』
その声につられ目を開ける
そこは、広くて大きな扉がひとつある以外何も無い部屋。下には大きな円に複雑に書き込まれた幾何学模様だろうか。
部屋には俺を除いて5人。
長い金髪に青いパーカーを羽織った人。
髪をくくり帽子を深く被った背の高い人。
ボサボサで、前髪が長くマスクをしたくだびれた人。
しゃがんで体を丸めている全身がピンク色の人。
長髪で髪はくくられ、お面をかぶり顔が見えない人。
皆戸惑ったような表情をしている。
ゆっくりと立ち上がり状況を確認する。とりあえず体は無事なようだ。
しばらくは辺の人を観察していると、あの大きな扉がキーッと大きな音を立てて開いた。
出てきた人は、煌びやかな服装をし、いかにもお金持ちの風貌をしている男だった。
「救世主様、ようこそいらっしゃいました」
その男はこの状況をゆっくりと話し始めた。
「まず、ここはあなた方がのいた世界とは異なる『異世界』と呼ばれる場所。そして我々の世界は今、相次ぐ厄災により崩壊の道を辿っています。」
そう男は悲しそうに語った
その後男が話したことは、この世界にある魔法や能力についてだった。
「改めてお願いがあります。我々を、我々の世界を救ってください」
男は再び助けを求めるが、この空間に困惑の空気が漂い出す。すると召喚されたうちの一人が声を上げた
「突然そんなこと言われたって頭着いていかないし、そんなすぐ『はい分かりました!』なんて言えるわけないじゃん。それにこれは何?なんであたしの上着が勝手に動いてるわけ?」
確かにその女性はパーカーは左腕だけはだけ、そのパーカーの袖は不自然に浮き上がりヒラヒラと動いているようにも見える。
それを見てばっと自分の服へと目を落とす
(良かった、俺の服は動いたりしてないみたいだ)
「そうですね、突然召喚してしまったことは謝罪いたします。必ずことが終わった暁には元いた場所へもお届けすることを約束します。動き出した衣服についてはきっと救世主様の能力と関係しているのでしょう」
しかし、それでも皆不満が収まらないのか口を開くが、言い終わる前に扉の奥から大きな咆哮が聞こえてきた。
それに驚いたのか、開いた口を閉ざし、体の動きをピタリと止める。豪華な男のそばに居た兵は扉の方へと向き、持っていた武器を構える
その後、ドスン、ドスンと重い地響きが鳴り響いた。ふと見ると、大人の身長をも超える巨大な犬のような獣が姿を現していた。
獣がもう一度咆哮をあげると、皆は悲鳴をあげて扉とは反対の方向へ走り出し、体を丸めしゃがみ込んだ。俺も慌ててそれにつられて走り出したが、壁のそばにあの真っ先に声を上げた女性がいないことに気づいた。
『あそこ』
女性は先程の場所に留まっており、袖が獣の方へと引っ張っているようで上着を脱ごうとしているが、焦って上手く脱げないらしい。
「ちょっ、なんなんだよ。引っ張るな!あんたのせいで上手く脱げないでしょ!ホントやめ…」
女性の目の前には大きく口を開けた獣が勢いよく飛びかかっている。女性も服に引っ張られ間一髪に避けるが、獣は狙いを変えようとしない。
(まずい、兵士たちは何をしてるんだ!?)
助けを求めるように周囲へ視線を走らせる。しかし、期待した光景はなかった。
豪華な服の男は隅でたった一人の兵に守られて震えており、他の兵士たちは—―すでに床に倒れ伏し、赤い水溜まりをつくっていた。獣は兵士のおかげか随分ボロボロで、いくつか武器が刺さったままだ。
(これなら、もう少しダメージを与えれば倒せるかもしれない)
そう考えゆっくりと立ち上がろうとするが、足に力が入らない。もちろん俺だって死にたくないんだ、こんな状況で恐怖しないわけが無い。そんな事をしている間にもあの女性には獣が近ずいているというのに。
「あーもう、ホント何なの!わかった、分かったってば!あの刺さってるのを使ったらいいんでしょ!」
そう言うと女性は獣に向かって走り出した。獣の懐へと入り込むと動く上着が獣に刺さる剣を思い切り引っ張る。そして一瞬の怯みをつき、剣を振り下ろす。その剣は服が使っているとは思えないほど力ずよく、首へと深く突き刺さるが、獣が暴れだし掴まっていた女性が振り落とされそうになる。それでも、女性は服が握る剣へと手を伸ばし力を込める。すると段々と獣が大人しくなり、終いにはバタりと倒れてしまった。女性も力が抜けたのか後ろへとへたり込んでしまう。
「だ、大丈夫ですかー?」
ピンク髪の女性がいち早く駆け寄る。続いて背の高い女性?は隅にいる豪華な男の元へと詰め寄る
「何だよあれ!あれがお前の言ってた厄災なのかよ。それに、何でお前は1人守ってもらってんだ?」
それに続いて豪華な男も返答を返す
「はい、あれは厄災の1つ。魔物と呼ばれる生き物で、様々な種類が居るのです。私は武器も力も持たぬため、こうした対応をさせていただいた限りでございます。こちらの兵があなたがたをお守りできず申し訳ございません」
それに言い返す言葉が見つからず長身の人は獣の側へと戻る。皆が金髪の女性の元へとより、豪華な男は再び口を開く
「大変な目に合わせてしまい申し訳ございません。ここは危険のようですので、一度我々の住む王都へとお越しください。馬車はここを出て直ぐに用意しておりますので」
ここにいても仕方が無いので、男に案内され馬車へと乗り込む。
乗ったあとは静寂だった。落ち着いてしまうと、先程の光景が思い起こされてしまう。正直、兵士の血の海を見て頭が真っ白だった。でも誰もそのことに触れようとしない。怖さを誤魔化すみたいに、ピンクの女性が自己紹介をしませんか、と提案する。それに皆賛成し、まずピンクの女性から自己紹介が始まる。
「えーっと、私は山野 早希と言います。用事で学校に行く途中でした」
次に金髪の女性が気だるげに話し出す。
「あたし、浅田 明。家で自室に戻る途中でここに来た」
その次は長身の、男。
(まさか男性だったとは、スラッとしてたから女性かと思ったよ)
「俺は滝原 紅葉。近所ブラブラ歩いてただけだ。」
次に口を開いたのは死んだ魚のような目をしたくたびれた男
「僕は、倉瀬 克樹です。かいしゃ、会社から家へ、帰る途中でした」
男がそう話すと浅田さんは身を乗り出して驚く
「え、今日って休日の朝だよね?こんな時間に帰宅ってどんな会社なのさ」
倉瀬さんは笑顔で返す。その笑顔はぎこちなく、きっと笑顔に慣れていないのだろうことが伺える。
「あはは、いつもの事ですよ。あまり気にしないでください」
浅田さんまだ何かを言いたそうだったがお面をつけた人が割って入る
「はいはいはい、じゃあ次は自分の番かな。神谷 静と申します。自分も家でボーッとしてたところだったんですよ」
そして最後に俺が自己紹介をする番に
「俺の名前は古賀 伊吹。休日のルーティンをしてたところにこんな場所に呼び出されました」
一通り自己紹介をすると、山野さんが勢いよく立上り、これからは一度みんなで協力して元の場所に戻りましょう、と伝える
「それに伴い、みんな固くならず友達に話す感じでお願いします!私の名前はどうぞ早希と!」
そう話す早希さんの表情は不安と恐怖が見え隠れしていた。まだまだ成長しきっていない精神では明るく振る舞おうとしていても本心が嘘をつけないようだ
(早希さんは多分、この中でいちばん若い。それなのにこんなにも逞しいなんて…俺も頑張らないと。それと――あの金髪の人の後ろがすごい気になる…ずっとゆらゆら揺れてるんだもん…!ぐぅ…落ち着け落ち着け…)




