歩きたい
リハビリ室には、たくさんの患者さんと看護師さんがいる。みんな苦しい思いをしながらも、笑顔で頑張ってる。だから、私も頑張れる。一人じゃないから。
少しだけ「頑張るぞ。」って言う気を貰えるから。
「じゃあ、結香ちゃん、足に力入れてみて。」
「はい。」
全身の意識を足に移す。
「うん。いい感じ。」
と、夏希先生が言ってくれた。
よかった。調子いい日は、足にだって力が入る。
「次は、立ってみようか。」
手すりに掴まって寄りかかりながら立つ。
よし、立てた。立てたらこっちのもんだ。
上手に、気をつけて、バランスを保つ。
「うん、いい!!次なんだけど、歩ける?」
手すりがない中で、歩くのは難しい。
院内を歩く時には点滴をつけるための手すりを使う。
だから歩ける。自分の力だけじゃ、、、
いや、やってみないと分からないよね。
よし、片足を浮かせる。
浮かせるってほど浮いてないせいで、足を引きずっているようだ。まるで、大きすぎるスリッパを履いて歩いているよう。
それでも、一歩。もう一歩。
ゆっくりと、足を前に出す。ふらつく体を、夏希先生がそっと支えてくれた。
「うん、結香ちゃん、頑張ってるね。」
その言葉が、嬉しかった。
たった数歩。普通なら、何も考えずに歩ける距離なのに。今の私にとっては、すごく大きな一歩だった。
「……歩けた。」
思わず、声が漏れた。
「うん。歩けたね。」
夏希先生が笑ってくれる。私も笑った。嬉しかった。まだ、歩けるんだ。まだ、自分の足で進めるんだ。
この足で、もう一度学校に行きたい。
春乃ちゃんに会いたい。
澪ちゃんと、病院の中を歩きたい。
やりたいことは、まだまだたくさんある。
「夏希先生、私、頑張りたいです。」
そう言うと、夏希先生は優しく頷いた。
「でも、無理はしないこと。頑張ることと、無理をすることは違うからね。それだけは覚えておいて。」
その言葉に、私は小さく頷いた。
分かってる。分かってるけど。
できることが、少しずつ減っていくからこそ、
今できることを、大切にしたいんだ。
今できることを、守りたいんだ。




