14.浮遊型ゴーレムの開発
フィオナとの交渉を終え、アレンとミリアは興奮を抑えきれない様子で研究室に戻った。二人の手には、フィオナから預かった魔物の素材が入った大きな袋があった。彼らは早速作業台に向かい、ゴーレムの開発に取りかかった。
「よし、まずは骨組みからだ!軽さと強度を両立させたいから、フィオナさんからもらった魔物の骨を使おう」
アレンは袋から骨を取り出し、作業台に並べ始めた。彼は頭の中に浮かんだ大まかなイメージをミリアに伝える。「ゴーレムは鳥のような形にして、空を飛べるようにしたいんだ」。ミリアは、アレンの言葉を真剣に聞き、その場でアイデアを具体化しながら製作を進めていく。二人の息はぴったりと合い、アレンが骨を精密に加工し、鳥の形に組み立てる傍ら、ミリアはその内部に精巧な歯車や導線を組み込んでいった。
それから三日後。研究室には、いくつもの失敗作と、それに代わる完成品が置かれていた。最初はうまくいかなかった。単純に浮遊させるだけでは、ゴーレムはすぐにバランスを崩し、地面に落ちてしまう。アレンは苛立ちを募らせた。宮廷にいた頃のように、完璧な結果が出ないことに焦りを感じる。しかし、そんな彼を見て、ミリアは冷静に分析を続けた。
「アレンさん、もう少しこの部分の配置を変えてみましょう。私たちが村に来る前に手に入れた、少し性質の違う素材を使えば、安定するかもしれません」
ミリアは、王都の錬金術とは違う、村での実践的な経験から得た知識を共有した。その言葉に、アレンははっとする。これまでは、自分の知識だけで解決しようとしていた。しかし、ミリアが加わったことで、彼は新たな視点を得ることができたのだ。二人は協力して素材の配置を微調整し、それを制御する特殊な回路を錬金術で作り出した。その結果、ゴーレムは安定したホバリングを可能にした。
さらに、フィオナの要求に応えるため、上空からの映像を映し出す仕組みも組み込んだ。ゴーレムの頭部に小さな水晶のレンズを埋め込み、そのレンズが捉えた映像を、手元の磨かれた金属板に映し出すという、高度な錬金術の技術を要する作業だった。この仕組みも、最初から完璧に機能したわけではない。映像がぼやけたり、途切れたりするたびに、二人は回路を調整し、金属板の研磨を何度も繰り返した。
全ての部品を組み込み、最後の調整を終える。アレンが最後の部品をゴーレムに組み込むと、それはふわりと空中に浮かび上がった。そして、アレンが持った金属板には、ゴーレムの視点から見た研究室の天井が鮮明に映し出された。
「やった…!」
アレンとミリアは顔を見合わせ、喜びを分かち合った。それは、彼らの技術が、王都の錬金術師に頼らずとも、自分たちの力だけで新しいものを生み出せるという確信を与えてくれた瞬間だった。このゴーレムは、単なる道具ではない。それは、彼らがこの村で、一人の錬金術師として、そして二人で協力することで掴んだ、確かな成功の感触だった。




