13.狩人の対価と新たな発想
フィオナの小屋は、魔の森の入り口にぽつんと建っていた。質素ながらも、手入れの行き届いたその佇まいは、住人の几帳面さを物語っていた。アレンとミリアが扉を叩くと、中から静かに声が響く。「開いている」。
二人が中に入ると、まず目に飛び込んできたのは、壁にかけられた様々な魔物の毛皮や骨、そして無数の弓矢だった。小屋の中央に据えられた大きな作業台の上には、鋭利な刃物や、見たこともない薬草が並んでいる。その奥で、フィオナは静かに弓の手入れをしていた。彼女の背中には、村の誰もが持つことのない、森の厳しさと静けさが同居しているように見えた。
フィオナは顔を上げず、淡々と尋ねる。
「あんたたちが、井戸水を汲み上げる道具を作った錬金術師かい?」
その言葉に、アレンとミリアは驚きを隠せない。フィオナは森の奥に住んでいるはずなのに、どうして自分たちのことを知っているのだろう。アレンが口を開き、正直に事情を説明する。
「はい。僕たちがその道具を作った錬金術師です。それで、実は、その道具を動かすのに必要な魔石が足りなくて…。もし、お持ちでしたら、どうか譲っていただけないかと思いまして」
アレンの言葉に、フィオナは初めて作業の手を止め、二人の顔をまっすぐに見つめた。その瞳は、獲物を前にした獣のように鋭く、アレンたちは思わず息をのむ。
「魔石?ああ、魔物を倒すとたまに出てくる、きれいな石のことか。私は別に使わないから、たくさん持ってるが…」
フィオナはそう言って、作業台の引き出しから、透明度の高い良質な魔石をいくつか取り出した。それは、まるで磨かれた岩のような、無骨で美しい石だった。アレンは、その魔石が王都のものよりもはるかに質が高いことに驚愕する。
「ただで分け与えるほど、安く手に入るもんじゃない。その石一つ手に入れるのに、どれだけ危険な目に遭うか…あんたたちには分からんだろう」
フィオナの言葉は、魔石の価値を理解しているというより、自分の労働の対価を求める、純粋なぶっきらぼうさからくるものだった。アレンが言葉に詰まっていると、ミリアがすっと前に出る。
「私たちは錬金術師です。その対価として、あなたに必要なものを作って差し上げます」
ミリアの揺るぎない決意に、フィオナは少しだけ興味をそそられたようだ。
「じゃあ、条件がある。私はこの森で、魔物と一人で戦っている。だが、獲物の居場所を見つけるのが大変でな。あんたたちの錬金術で、獲物を見つける道具を作れないか?」
フィオナの言葉に、アレンの頭の中で、壮大なアイデアが閃いた。フィオナが持つ魔物の生態に関する膨大な知識と、ミリアの精密な錬金術、そして自分の発想力を組み合わせれば、誰も成し得なかったものが作れるかもしれない。彼の視線は、作業台の上に置かれた、小さな木の彫刻に止まる。それは、鳥のように小さな体を持つ、フィオナが魔物の見張りに使っている人形だった。
「作れます。森の上空から、獲物の様子を偵察してくれる…浮遊型の小型ゴーレムです!」
アレンは興奮して声を上げた。それは、鳥の彫刻のように小さく、まるでドローンのように空を舞う、偵察に特化した魔導具だった。
「浮遊型のゴーレム?…面白い。本当にそんなものが作れるのかい?」
フィオナの目に、初めて純粋な好奇心の光が灯る。アレンは力強く頷いた。
「はい。このゴーレムが完成すれば、フィオナさんは、より安全に村を守れるようになります。そして、僕たちも魔石を手に入れることができる。まさに、僕たちの望みと、フィオナさんの望みが一致するんです」
「わかった。そのゴーレムが完成したら、この魔石は全部あんたたちに譲る。ただし、ゴーレムを作るために必要な魔物の素材は、私が用意する。私の狩りの手伝いなんだから、当然だろう」
フィオナは、そう言って交渉を成立させた。アレンとミリアは、新たな協力者を得て、エテルナ村の技術革新をさらに進めるための第一歩を踏み出した。




