侍女の日記13
お嬢様のぼっち晩餐の後で、使用人食堂に向かう途中、不安そうに、きょろきょろしている悪役令嬢の手下――じゃなくて、メイドを発見。
「どうかされましたか?」
にっこり、笑顔を作って尋ねたら
「あっ……シャーロット様と、一緒にいた人ですよね⁉」
ぱあっと、本物の笑顔全開で、答えてくれた。
「あっ、はい! シャーロット様の侍女をしております、ユナと申します」
「ユナさん。わたしは、ベティです。その……」
言いよどむ、ベティさんを助けようと
「アナベラ様の、侍女の方ですよね?」
『覚えてますよー(にっこり)』と、声をかけたら
「いえ……わたしは、ただのメイドです。なりたての」
しょんぼりと、『ただのメイドのベティ』さんは、俯いた。
エマたちも一緒に、夕食を取りながら、詳しく事情を聞いたところ
「ギボン様のお屋敷に雇われたのは、半月前です。うちの母さんが、前にメイドしてたから、声をかけてもらって」
「そうかぁ――半月じゃまだ、全然慣れないよね?」
「わたしも最初は、先輩に付きっ切りで、仕事教えてもらったし」
「なのに、『一人で、よそのお屋敷に付き添い』なんて――ひどいね!」
兎穴サイドが、口々に同情すると
「仕方ないんです……上のお嬢様が来年、社交界デビューされるん――されるので、奥様も、お屋敷中が、そっちにかかりっきりで」
ため息を吐きながら、ベティが答えた。
「そうなんだ。でもあの、アナベラ――様と、二人きりって……」
がしっと、まだ16歳らしい、新人メイドの手を握って
「困ったことがあったら、何でも相談してね⁉」
こっちには『兎穴の女主人』が、バックにいるし! と鼻息を強くすると
「ありがとうございます。でも、アナベラ様のご機嫌が悪いのには――理由があるんです」
申し訳なさそうに言ったベティが、きゅっと眉根を寄せて
「わたしが雇われた時、アナベラ様はご病気なのに、ひとりぼっちだったんですよ」
「えっ……あんな小さいのに?」
「お医者様は毎日、診察に来てくれましたし、お食事や着替えは、先輩メイドが交代で、手伝ってたみたいですけど。ずっと傍に付いて、看病する人がいなくて」
「乳母とか、家庭教師は?」
「乳母さんは、2年前に退職されて。その後、家庭教師の方が何人か、いらしたみたいですけど」
「どうしたの?」
「アナベラ様が、気に入らなくて……」
なるほど――次々と、追い出しちゃった訳だ。
それはちょっと、自業自得の気がするけど。
「それで、ベティが雇われたの?」
「はい。うちに小さい妹や弟がいるから、慣れているだろうって――でも」
「でも?」
「初めてアナベラ様にお会いした時、つい『おかわいそうに』って、言ってしまったんです。そしたら――」
「そしたら?」
「『あんたみたいな新米メイドに、何がわかるの⁉』って、すごく怒られて……また熱が、上がってしまって」
「あらら……」
さすが『悪役令嬢』。ちびっ子でも、プライド高い、高い。
「まぁ――アナベラ様も、いつか分かってくれるよ」
『分かってくれたら――いいね?』
願いを込めて、ぽんぽんと、しょんぼりした肩を叩きながら、
ミセス・ジョーンズの言う通り、
『悪役令嬢にも、色々あるんだね……』
と、しみじみ思ったのでした。
明日からちょっとだけ、優しい目で、見てあげようかなと思ったり。
いやいや、油断は禁物と、思い直したりしながら……
おやすみなさい。
(ユナの日記より)




