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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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お茶会と黒い子ウサギ

 翌日になっても、依然(いぜん)アナベラは、客用寝室に引きこもっていた。

「朝食はともかく、昼食も、『体調が悪いから、お部屋で』って、仰(おっしゃ)ってるけど――お医者様を、呼んだ方がいいかしら?」

 心配顔のシャーロットに

「――それです、お嬢様!」

 侍女の瞳が、きらりと光った。


 いつもは、ウィルフレッドと昼食を取る、温室のガゼボ。

 今日はテーブルいっぱいに、薔薇柄のティーセットや取り皿、ケーキやスコーンが用意された所に

「まぁ――お茶会にようこそ、アナベラさん!」

 しぶしぶと『悪役令嬢』が、ベティをお供に、登場した。


「来てくださって、嬉しいわ!」

 弾んだ声で出迎えた、シャーロットに

「『来られない様なら、お医者様を呼ぶ』って、脅(おど)したくせに!」

 悔(くや)しそうに、アナベラが言い返す。

「『脅し』てなんか……さぁ、お茶を召し上がれ。スコーンにはクリームと、こちらのジャムをどうぞ」

 にこやかに差し出された茶器を、むすっと受け取り、『不機嫌』を顔に張り付けたまま、スコーンをぱくり。

「……おいしい」

 思わず、声が出た。


 甘酸(あまず)っぱい、初めて食べる、綺麗な赤い色のジャムと、とろりとしたクリームに、さくさくのスコーン。

 いつも家で食べているのとは、全然違う美味しさが、口の中に広がっていく。

「お口にあった? これは『ルバーブのジャム』」

「ルバーブ……?」

「大きな葉っぱに赤い茎のお野菜。茎を甘く煮て、ジャムやタルトにするの」

「茎が? 赤いの?」

「そうよ。このジャムと同じ色。本当に真っ赤だから――見たらきっと、びっくりするわ」

「真っ赤……」

 スプーンですくったジャムを、じっと見つめて

「見てみたい――かも」

 思わずぽつりと、声が落ちた。


「じゃあ、後で菜園に、行ってみましょうか?」

 にこりとシャーロットが、提案した後で

「こちらは、『3種のベリーソースをかけたスフレチーズケーキ』でございます。アナベラ様が、ベリーをお好きだと聞いて――料理長が、腕によりをかけた一品でございますよ」

 家政婦のミセス・ジョーンズがさりげなく、話を移した。



 口の中で溶けて行くような美味しさに、つい、絶品チーズケーキを、おかわりした後……尻込みするアナベラを、「通り道だから」と、公爵令嬢と家政婦は、温室のすぐ裏の、菜園に案内した。

 た(・)ま(・)た(・)ま(・)一緒になった、庭師のおじいさんに、教えてもらった、ルバーブやビーツ、パースニップ(白い人参のような根菜)等、色とりどりの珍しい野菜に、つい見とれて。

 小さくちぎったレタスを手に、また「通り道だから」と連れて行かれた、裏庭の兎小屋。


 愛らしい子ウサギたちに、言葉も出ない『悪役令嬢』は――ふわふわの温かな毛玉を、膝に乗せてもらい、恐る恐るレタスを、小さなお口に。

「食べた……!」


『アナベラ? あぁ――ギボン姉妹の、可愛くない方ね』

『こんな時に、風邪ひくなんて――お姉様には絶対、移さないでよ!』


 周りから笑われ、家族からも疎(うと)まれている、自分の手から……何の警戒心もためらいもなく、もぐもぐと美味しそうに食べてくれて、

「ありがとう」と言うように、お鼻をひくひくさせながら、つぶらな瞳で見上げてくれたことが……飛びあがるくらい、嬉しくて。


「白い毛の子がハル、黒い子がナツという名前よ」

「ナツ……」

 黒い子ウサギの毛に、そっと触れて

「わたしの髪と、同じ色だね……?」

 柔らかな背中を撫でながら、自然と零(こぼ)れた優しい声で、アナベラは囁(ささや)いた。


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