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学園裁判所  作者: 真上真
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第5話


第5話



「さあ、説明して、翔君」


 自宅に帰宅したとたん、白羽が説明を求めてきた。


 もうじき1時になろうとしているのに、白羽は元気一杯だ。それどころか、必要以上に険しい顔付きで、無駄にシリアス度を増している。とっくに睡魔が襲いかかってきているだろうに、その目は毅然と俺を見据えたまま、閉じる気配はない。


 だから、なんでそんなに緊迫感漂わせてるんだよ? いつもみたいに、フワーとしてろよ、フワーと。


「だからだなあ」


 俺は頭をかいた。どうせ言っても信じないだろうに。でも、説明するまでテコでも動きそうにないし、仕方ないか。こいつが信じようが信じまいが、俺にとっては、どっちでもいい話だし。


「昨日ネット見てたら、突然「世界救済計画」て画面が出てな。で、面白半分に読んでみたら、今この世界に、かつてない脅威が迫ってるそうなんだよ」


「かつてない脅威?」


「ああ、それを書いた「クリエイター」とかいう奴の話だと、今でこそ魔物はフィクションになってるが、大昔には実在してたんだそうだ。ほら、日本でも平安京や平城京の時代に、鬼だの妖怪だのがいたって記述が残ってるだろ。けど、そいつの話だと1000年ぐらい前、この世界に強力な結界を張られて、世界中の魔物は闇に封印されたんだとよ。で、そのおかげで人類は魔物の脅威から解放され、現在の繁栄を手に入れることができたんだそうだ」


 御伽噺なら、ここでハッピーエンドなんだが、そうならないのが現実の厳しさだ。


「だが、その結界がそろそろガタがきてるらしいんだよ。長年に渡り垂れ流された、人間の闇に蝕まれてな。あんな寄生虫どもが湧き出したのも、それが原因てわけだ。結界が弱まったことで、チンケな魔物は、その結界を通り抜けられるようになったんだよ。網で例えれば、最初はどんな魚も逃げられないぐらい物凄く目が細かかった網が、時間の経過にともなって目が広がって、今にも千切れようとしてるって感じだな。だから、まだクジラやサメみたいな巨大な魚は網から出られないが、小魚は出入りできるってわけだ」


「その、結界の崩壊を止めることはできないの?」


「無理だな。結界を維持するためには、これ以上の闇の拡大を阻止しなきゃならんが、そのためには人類が負の感情を捨て去る必要がある。そんなことが可能だと思うか?」


 できるわけがない。


「結界を張り直せればいいんだろうが、その方法自体がわからんらしい。それに、仮に結界を再設置できたとしても、10年もたずに消滅しちまうらしい。なにしろ、人口が昔とは比べ物にならんぐらい増えてるからな。その分、人類の負のエネルギーも、増大してるってわけだ」


 まあ、当然だ。日本だけでも、自殺者は毎年数万人。それに加えてニートや引きこもり、リストラや生活保護の数を加えれば、それこそ何十万て数になる。仮に、そいつらをなんとかできても、世界には戦争や経済による欲望や憎悪が渦巻いている。そして人間が生きている限り、その手の感情は決してなくなりはしないのだ。


「じゃあ、どうすれば……」


「それを、そいつも最後に聞いてきたよ。この状況を、あなたならどう解決するか? てな」


「それで、翔君は、なんて答えたの?」


「何もしない」


「え?」


「だから、何もしないって答えたんだよ。考えてもみろ。仮に、そいつの言うことが正しいとしたら、今その状況に陥ってるのは、言わば全人類が千年の間にしでかして来た悪行のツケなんだ。それを、なんで1個人の俺がなんとかしなきゃならんのだ?」


 そんな義理が、どこにある?


「それに実際問題、化物が復活したほうが、地球にとってはプラスだしな」


「どういうこと?」


「どうも何も、人類は無駄に増えすぎたんだよ。化物が復活して、半分ぐらい間引かれたほうが、地球環境にとっては、むしろプラスってもんだ。原発にしても、魔物が復活すれば廃棄せざるを得なくなるし。なにしろ原発を稼働してるということは、核爆弾を野ざらしにしてるようなもんだからな。いつ魔物に襲われるかわからん状況下で、稼働し続けるのはリスクが高すぎる。それに、人類にとって共通の敵が現れれば、人類間で争っている場合でもなくなるから、国家間の戦争も減る可能性が高い」


 いいこと尽くめだ。


「問題は、もし化物が復活して、それが即人類の滅亡に直結してしまう場合だが、実際のところ、そうはならんだろうしな。せいぜい復活したときに、半分ぐらい間引かれるぐらいだ」


 でなければ、大昔に魔物が封印される前に、人類は絶滅しているはずだ。封印される前は、それこそ好き勝手に暴れてたんだろうからな。


「だから、俺はそう書いたんだよ。で、その状況で、もし俺がやるべきこと、やりたいことがあるとしたら、それは「人類が滅びず、だが魔物の脅威も去らないよう、人類と魔物の力のバランスを維持すること」だってな」


 今思うと、我ならが、よくあんなアホな質問に、まじめに答えたもんだ。白羽と音信不通になって、暇だったからできたことだな。


「で、そうしたら、すぐに向こうから、


「おめでとうございます。あなたは「救済者」に選ばれました」


 て、返信があってな。なんのこっちゃ? と思ってたら、また画面が切り替わって、


「つきましては、あなたがあなたの考える世界の救済を実行するために、わたくしどもも、ささやかながらご助力させていただきます。どうぞ下記のなかから、ご自分の考える救済計画を行うために最適と考えるキャラとスキルをお選びください」


 て、表示されたんだよ。で、そのキャラのなかには定番の戦士や魔術師だけじゃなく、吸血鬼や狼男みたいなモンスター系もあって、俺はそのなかから「シェイド」と「物質を影化する力」を選んだってわけだ」


 正確には少し違うんだが、まあいい。本当のことを言うと、面倒臭いことになりそうだし。


「それ以外にも、定番の地水火風の力や超能力系とか色々あったが、この能力が1番気に入ったんでな」


 シェイドになったら不老不死だし。まあ「吸血鬼」+「光耐性」の組み合わせも面白そうだったが、他人に寄生しないと生きられないのは、俺の主義に反するから止めたのだ。


「で、シェイドになったことを、一応おまえに伝えておこうと思って、おまえん家に行ったんだよ。そうしたら、ちょうどおまえが出てくるところで、後はおまえも知ってのとおりってわけだ」


「……そのこと、おばさんたちは知ってるの?」


「一応メールは送っといたぞ。俺はこの度、人間をやめることにしたのであしからず、てな。その後返信もなかったし、了承したってことだろ」


「……それは、冗談だと思っただけだと思うわ。20歳過ぎた、いい大人が、影人間になっちゃうなんて誰も思わないもの」


「いい大人が、とか言うな」


 まるで俺が、とんでもなくバカなことしたみたいだろうが。


 今、なんでこんなに世間で転生モノが流行ってると思ってるんだ。誰もが今の人生に不満を持っていて、今とは違う別の自分になりたいと思ってるからだろうが。その変身願望を、俺は現実化したんだ。羨望の眼差しを向けられこそすれ、非難の眼差しを向けられる理由などない。


「それに、この2年間で、俺が育つまでにかかっただろう1000万円は、株で稼いで返済したしな。たとえ親であろうと、もはや俺に指図することなどできんのだ」


 天上天下唯我独尊。俺が何をするかは俺が決める。誰の指図も受けん。


「その、影人間から生身の人間に戻る方法はないの?」


「……再選択は不可だそうだ」


「じゃあ、本当に……」


 白羽の表情が沈んだ。だーかーらー、


「その「やっちゃったよ、こいつ」って空気、やめい!」


 ムカムカするんだよ、その無駄な悲壮感。なんか、俺がとんでもなくバカなことしたみたいだろうが。


「言っとくがな、俺はシェイドになったことを、これっぽっちも後悔しちゃいないんだ。なにしろシェイドは不老不死のうえ病気にもならず、食事の必要もなく、好きなことだけして暮らしていくことができるんだからな」


「それって、ただのニート」


「違うわ!」


 くそ! こういうこと言われると思ったから、白羽に話すのは嫌だったんだ。


 俺から独り立ちした今なら、俺が何しようとスルーすると思って、軽い気持ちで挨拶に寄っただけだったのに。まさか俺と音信不通になった理由が、寄生虫に取り憑かれたからだったとは……。





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