アイテムMAXで私tueeeeeで奴隷ハーレムとか詰んでる (トリップ、チート、デブス系主人公、人外)
― ゲームでさ、一番嫌な改造ってなんだと思う?
範囲広すぎ。どのゲームジャンルで?
― そうだなあ、RPGかな。
あー、RPGなら私はアイテムMAXが一番嫌だな。大体のRPGがバランス崩壊するよね、あれ。
― そうなの? ステータスや経験値、スキルMAXとかじゃなくて?
うんうん、そのどれもがアイテムでレベル上げれるのが最近多いよ。所持金までアイテムでカバー出来ちゃうしさ。
― うわ、それは卑怯だね。
そそ、やる気なくすよ。
― 教えてくれてありがとう。
いえいえ。ってあれ? あの、今更ですが
― 頑張ってね?
「あなた誰?」
疑問を投げかけながら起きたら目の前が草原だった。意味が分からない。
夢かと思ってもう一度寝っ転がったら草の上だった。意味が分からない。
草がチクチクするから仕方なく起き上がったのはいいものの、やはり意味が分からない。
え、一体なに?
着ているものは寝間着のスウェット。部屋のベッドに寝た。起きたらなぜか外に居る。
誘拐……? されたとか? でも誰が私なんかを誘拐する? 思い当たる節なぞない。
思考は混乱の境地ではあるものの理性はここにいつまで居ても仕方ないと訴えるので、立ち上がる。そして足の裏に土と草の感触。嫌でも素足なのが分かる。本当に意味が分からない。イラっとする。
無いとは思うがスウェットのポケットを漁る。靴の代わりに少しでも足を保護してくれる物、理想はハンカチ。無ければもう何でもいい。
「……おい、ちょっと待て」
ポケットを漁る手が何かに当たる。しかも固い物から柔らかい物まで。意味が分からない。分からないが、とりあえず掴める物全てを取り出してみる。
運動靴とハンカチが出てきた。
自分で取り出しといてなんだが呆然としてしまう。色々な法則が機能していない。まずスウェットのポケットに靴は入らない。そして私は入れた記憶さえない。勿論ハンカチもだ。しかし入っていた。膨らんでもいないポケットに。
瞬間、起きる前の会話を思い出す。
「……ゲーム、……RPG、……もしかして」
そんなことありえないと思いながら、何故かこの意味が分からない状況と事態の原因はあの会話にあるんではないかと強く感じる。
「……アイテムMAX……?」
ぽつりと溢した言葉に返事はない。なのに頭の中で誰かが最後に言った言葉を返事のように思い出した。
― 頑張ってね?
まったく意味が分からない!!
____
なにはともあれ靴を履いた。そして木が生えてない方向に向かってひたすら歩く。依然として混乱したまま、とにかく道路、もう農道でもいい、人の痕跡が欲しい。
歩きながら色々検証してみたが、もはや理解したくない心境である。ハンカチをポケットにしまって、ポケットの上からハンカチが入っているか確認してみた所、無かった。少しの膨らみも無い、ズボンの内側から触っても無い。私は一体どんな事態に巻き込まれているんだろうか?
ポケットには何故かスマホも入っていたので直ぐに警察に電話したが通じなかった。ネットも駄目。ここは秘境なのかもしれない。
それか夢を見ていると信じたい。
歩いてすごく疲れるが、喉が渇いたとポケットを漁ればペットボトルが出てこようが、車なら楽なのにとか考えたらポケットの中であきらかに金属な物を触ったとか、もう意味が分からな過ぎて夢かもしれない。
誰でもいいから寝ている私の顔を殴って起こしてくれ。今なら怒るどころか感謝してご飯まで驕っちゃう。
私のそんな現実逃避も一時間弱で終わりを告げた。なんでかって? 人の居る場所を発見したから。そして一気に現実に戻された。足元の草が芝生位になった場所に出たら遠目に街? 砦? みたいなものが発見出来た。あれ絶対、日本建築物ではない。出入り口と思われるとこは大きい門で高い壁でぐるっと囲まれてとか、もうなんなんだよ。ここの人は巨人と戦ってんの?
今更だが危機感を抱いたので木の後ろに隠れて遠くから絶賛様子見中。
見てて分かったのは、意外と気軽に出入りできるみたいであること。人の往来も結構ある。そして何故か現代的な服を着ている人が居ない。もしかしたら映画のセットかなにか……やめよう、期待して絶望したくない。
そこまで考えて、ずるずると木にもたれながらしゃがみ込んで、頭を抱えた。信じたくないし、意味も分かりたくない。でも一番考えられる現在の状況はなんかの、ゲーム世界、とか?
過去にタイムスリップとかも考えたけど、遠目に見た現地人の髪色がおかしい。緑とか紫っておかしくね? 髪染め大流行なのかと思ったけど小さい子供まで普通染めるかね? いやいや、もしかしたら映画や漫画、アニメかもしれない。
あー! もういい。分からんもんは分からん! なる様になれだ!
半ば自棄クソな感じでポケットに手を突っ込んだ。考える事は必要な物。現地人が被っていたフードや鞄、靴、触れた物をどんどん取り出した。ポケットの大きさからして取り出せないかと思ったが、なぜかするんと出た。気にしたら負けと思っておく。
出した装備品を身に付けつつ、本当にアイテムMAXだなと改めて思う。これでゲームみたいにメニュー画面とか取扱い説明書があったら手っ取り早いのに。手を突っ込んだままそう考えて、コツンと何かに触れた。
まさか……。
一瞬で膨らんだ希望そのままに触れた何かを掴んでポケットから引っ張り出す。
でかでかと説明書と書かれ、ホッチキスで端を二か所留めただけの手作り感満載な本と呼んでいいか微妙な物が出てきた。やっつけ仕事的なものを感じるがそこは無視して中を読むと、まずストーリーが書いてあった。
ストーリー
ある晩、主人公である彼女は不思議な夢を見た。
何者かに一言二言問われる。そして答えると同時に、彼女は知らない場所で目が覚めた。
まるで夢に誘われたかの様に、そこは不思議な不思議な世界。
彼女の元居た世界とは何もかも違う。
戸惑いながらも彼女は近くに賑わう街に辿りつく。
その街で待っているのは素敵な異性との出会い。
そこから彼女の新たな物語は始まっていく。
出会いと別れ。貴女だけの能力。
素敵な仲間を集めて冒険者として自由に生きろ。
最後の二行は謳い文句みたいに斜めに大きく書かれてた。
自然と眉間に皺が寄っても許されると思う。なんだよこれ。良いように書かれてるがまんま私の今に至るまでの出来事じゃないか。それに素敵な異性との出会い? ハッ! うんなもんある訳ないだろう。
私は自分の容姿が他者にどう思われるかを正確に理解している。私に好んで近付く野郎はブス専かつデブ専とダブルな救えない嗜好の持ち主だ。
この説明書は私には当てはまらないんじゃないか?
その疑いは次のページで粉砕された。
ご丁寧に私のフルネーム付きでの指定ミッションが書かれている。
チュートリアルミッション 1
初まりの街で、不運にも奴隷商で売られている人を買い取って解放し、仲間にしよう!
きっと貴女の力になってくれるよ!
私は持っていた紙屑を地面に勢いよく叩きつけ、街に向った。
大きな門の前まで来て私はしばし足を止め、お上りさん宜しく予想以上に大きかった門を口をぽかんと開けながら見上げた。両端に控えている警備兵っぽい人達の忍び笑いが聞こえてやっと我に返り、赤くなる顔を隠すように下を向きながら街の中に入った。
真っ直ぐ続く大通りを歩きながら、お金をどうにかする方法を考える。お金と念じながらポケットを漁っても、出てくるお金は日本の物だった。これは何とかしてここで使えるお金を知らなくてはいけない。そう思い、露店やお店で金銭の受け渡しをいくら観察しても通貨が確認出来ず、唯一分かったのは紙幣ではなく硬貨という事だけ。
街の真ん中ら辺にある広場で丁度腰かけるのにいい石があったので座り、そこで休憩がてら考えを巡らせる。喉も乾いているが、人の往来がある場所ではペットボトルなど出せない。かといって露店などで何か買うことも出来ない、お金がないから。しかも追い打ちかけるように陽が段々傾いてきている。もうあまり時間はなさそうだ。
盛大な溜息が出た。悔しい。すごく悔しい。あんなふざけたミッションをやんなくちゃいけないのかと思うと悔しくて堪らない。あのミッションは金銭の説明や奴隷制度、買い取って解放した人から色々な事を教わるという形のチュートリアルなんだろう。それは分かる、分かるが。
なんで初めてのお使いが人身売買なんだよ!
世界が違う、価値観が違う。私の世界でも他国の過去に奴隷制度はあった。それも分かってる。でも私の中では犯罪という二文字が過ぎる。買い取って解放する、これは善行だと思っても罪悪感が薄まる気配はない。納得できないが無情にも時間は過ぎて行く。早くこの最悪なチュートリアルを終わらせる為に、私は重い腰を上げた。
立ち上がったはいいものの場所が分からず困った。誰かに聞くというのは論外だ。想像してみて欲しい、醜悪な容姿の女に奴隷を扱っているお店を知りませんか? なんて聞かれてなんとも思わない人間がいるだろうか。もしかしたらポテチを買う感覚で奴隷を買う価値観だったとしても私にはそんなことは出来ない。散々悩んで、気が付く。
あ、地図。
私には便利なアイテムMAXがあった事に。ポケットだけではなく鞄からも取り出せる謎仕様な能力だがそこは無視して地図を片手になんとか奴隷を売っている店に辿り着いた。一店舗だけというのが救いである。
店に入る為に押したドアに付けられている鈴が音を立てて私の来訪を告げると、奥からいかにも奴隷商ですという小太りの中年が声をかけてきた。まあ私も人のこと言えませんがね。
「いらっしゃいませ。どのような奴隷をお探しですか? と言いたい所なんですが、今はお売り出来る奴隷が二人しか居ないんですよ」
その代わり容姿は保証しますよ、と。流石チュートリアルである、選択肢が有無を言わせない感じだ。店主に見せて下さいと頷けば奥に案内される。出来ればその片方の内が女性でありますようにと祈りながら付いて行く。案内された独房みたいな檻付きの部屋には、とても綺麗な奴隷様がいらっしゃいました。
「容姿で右に出るものがいない種族だけあって売りに出るのはとても稀なんですよ」
その分、お値段も張りますが。店主の言葉に完全に同意するほかない。質素な寝台に座っているだけなのに気品さえ感じさせる、微塵も隠そうとしないプライドの高さを思わせる視線。その特徴的な尖った細い耳。
どっから見てもエルフです。こんにちはファンタジー。
真っ白い肌にプラチナブロンドってエルフの定型まんまかい。
いっそ笑えてくるぞ。
「……女性、ですか?」
男性とは思うけど美形すぎるので一応確認の為に店主に問いかけるとエルフさんからお返事貰った。
「お前は目まで悪いのか、救いがないな」
うわあ。このエルフ、絶対売れ残りだわ。店主が慌ててフォローしてエルフは他種差別が強い種族でしてとか言ってるけど、こいつ絶対性格クッソ悪いぞ。いくら容姿が素晴らしくてもアウト。容姿がアウトな私だから言える。もう一回言わせてくれ、こいつアウト。
「エルフを見た後では容姿に劣りますがこちらの奴隷は獣人の中では良い方で、やはりいざという時に頼りになるのが利点です」
エルフがあれ以上悪態をつく前に残ったもう一人の奴隷へと案内された。これまた定型かってくらいの獣人だった。頭に耳が生えてるタイプではなく、人間と同じ個所で毛で覆われている尖った耳だったのはちょっと意外だった。茶混じりのダークグレーの髪は狼を連想させるが犬だ狼だ論争など興味がない。イヌ科ならそれでいい。寝台に肘を立てて寝っ転がったまま、私と目が合うと二カッと笑う。
「得意なことは獲物をぶん殴ること」
自己アピール発言のつもりなんだろうがさっきの笑顔といい、もしかしたらこの奴隷も……。狩りが得意な種族ですので頼りになりますよとか色々店主はフォローしている。しているが、もうそのフォローが物語っている。この奴隷二人は残り物であると。
「もしエルフをお求めになるんでしたら大金貨ほどになりますがご予算は大丈夫でしょうか?」
少し遠い目をしている私を勘違いしたのか店主が聞いてくる。そして大金貨のワードありがとうございます! 大金貨と思いながら鞄から掴み取り、手の中に納まる硬貨を見せると店主が明らかにホッとした顔をした。だが私は店主に残酷な言葉を告げる。
「獣人の彼を下さい」
エルフ推しの店主には悪いがあれは無理。なのに店主は粘る、えらい粘る。滅多に手に入らないエルフだなんだと言われても、美人は三日で飽きるって言うし。てか美形からの悪態が標準装備とかイラネ。
護衛などを任せたいから獣人でと突っぱねる私にエルフも戦いでは素晴らしい力を見せるとアピール方向を変えてきた。魔法を使うと聞いて少しだけ好奇心が刺激されたが別にこのエルフじゃなくても見る機会はあるだろう。それに店主の耳当たりのいい言葉を直訳すれば魔法も弓も使えるよ、すごいよ、でも全部後衛の役割だよ! 身のこなしも軽いよ、避けれるよ。でも食らったらワンパンだよって事ですよね?
「獣人の、彼を、下さい」
区切って言いながら店主に大金貨を握らせた。無駄と諦めたのかようやく店主がエルフ推しをやめた。こちらへどうぞと更に奥に進むと応接室のような所に案内され座るよう促されたので遠慮なく座る。店主は小さい金庫? みたいなのを漁って、わざとらしい大きい声を上げた。
「うわあ、困った! お客様大変申し訳ありません、お釣りの硬貨を丁度切らしているみたいです」
その言葉を聞いて悟るほかない。
ああ、これはYesしか許されない強制会話なんだと。
「でしたらお釣りは結構ですよ」
「そんなとんでもない! 売値の四倍を頂くなんてしたら売買違反で捕まってしまいます」
諦め悪く足掻いてみたものの、やはり駄目だった。そして店主は上機嫌にこれは素晴らしい提案だとばかりに私にエルフを押し付ける。
「お釣りをご用意出来ない代わりではないですが、大金貨一枚でエルフと獣人、二人の奴隷をお譲り致します」
在庫一斉処分。そんな言葉を思い浮かべながら私は力なく店主に頷いた。
満面の笑みで詳細な価格の説明を始める店主。さり気無くチュートリアルですね。判明したのは大金貨(五百万)、大銀貨(百万)、金貨(一万)、銀貨(千円)、銅貨(百円)、鉄貨(十円)、な感じだった。分かり易くて大変結構。奴隷との契約については隷属の呪いを掛けている所に手をかざすだけの簡単仕様だった。主人になれば解放もこれまた簡単に出来るみたいである。
説明が切りよく終わった頃、応接室の扉にノックが響き店主の返事と共に最初に入ってきたのは獣人の彼だった。よお、といいながら明るく笑顔を向け(この先の文字は滲んでよく読めない)
滲んだ文字の解明は遅々として進まず、判明するかは依然として不明なままである。