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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
4章 葬儀屋である理由
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アリバイ作り

 ファズマは店の前に立っていた。

「それじゃ達者でな」

「おうよ」

「うまかったぜファズマ!」

「またね」

「ごきげんよう」

「また」

 スラム街へ帰ってい行くヒース達を見送るとファズマは向かいの葬儀屋リナシータを見た。

 葬儀屋リナシータは仕事場にカーテンがかけられていて暗くなっていた。

「あそこから見ているだろうな」

 小さく呟くと二階の窓を見た。

 カーテンは閉められているが恐らくこちらを覗いていると考えている。

「ま、関係ねえか」

 覗かれているのが何だと言うようにファズマは肩を下した。

 どうせ葬儀屋リナシータには何もしない。しなくても自滅するのだから関係のないことである。まあ、後始末はすることとなるが。

「店長、エノテカーナにいるか……」

 ファズマは現在モルテがいる場所を考えながら店へと戻った。


  * * *


 金具について話し終えたモルテ達三人はカクテルをおかわりして雑談を始めていた。

「それにしても、連絡がきた時は驚きました」

 カクテルを一口飲んでレオナルドが言った。

「店で遺体を預からないようにして欲しいと来た時は何事かと思いました」

「そぉれは俺も思ったんだよ~ね」

 レオナルドの言葉を聞いて同じようにモルテから連絡を受けて驚いたガイウスが頷いて言った。


 それは今朝、突然モルテから電話がかかってきたことから始まる。

 電話の内容は遺体の預かりについてだった。これには連絡を受けたガイウスとレオナルドが驚いた。

 当然である。葬儀業なのに遺体を預かるなと言って来たのだ。それも同業者からである。

 どういうことか理由を尋ねると葬儀屋フネーラの向かいに死神以外の葬儀屋が出来たこと。そして、その葬儀屋の関係者がモルテに復讐をしようとしていることを知ったのである。

 これにはさすがにガイウスとレオナルドも、

「なぁ~にやってるのかねぇ~」

「何を考えているのか……」

 と呆れていた。

 そこにモルテから頼まれた要件は二つ。

 一つは遺体を葬儀屋リナシータに入れる為の協力。

 これを聞いてガイウスとレオナルドはモルテが何故遺体を預からないようにと言ったのか理解をして何をしようとしているのかも同時に知ってしまった。短期的でいいが恐ろしいことである。

 もう一つは落ち着くまで夜はエノテカーナに集合すること。

 これはアリバイをつくる為と悟った。これがどこまで上手くいくかは分からないがそこで発生した料金は全てモルテが持つ事となる。

 さすがに死神以外が葬儀業をしたらどうなるか知っているだけに早々に理解をして手を引いてもらった方がいいと意見が一致したガイウスとレオナルドはモルテの頼みを聞き入れ協力をしているのである。


「そもそも、このようなことをしなくてもモルテなら早期に解決できるのではないのですか?」

 モルテが行おうとしていることは確かに短期的であるがもっと穏便に、早期にできるのではないかとレオナルドは疑問をぶつけた。

「ディオスに見せる為だ」

「ディオス君にですか」

 モルテから聞かされた言葉にレオナルドはため息をついた。

「まだ教えていないのですか」

「あればかりは口で言うよりも直接見た方がいい。そうであろう。ガイウス」

「まぁ~なぁ~」

 呆れるレオナルドにモルテはガイウスに振ると、ガイウスは同意して頷いた。

「あぁれはおっそろし~からな。弟子入りしなければぁ知ることもぉ信じることもぉなかったな~」

 ガイウスの言葉にレオナルドは驚いた表情を浮かべた。

「代々死神の家系ならあれが当たり前だが、殆どはそのことを知らん。知らなくて当然のことだ。それをいきなり信じろと言うのは無理というものだ」

「……そういうものなのですか」

 死神の常識の一つに代々死神の家系であるレオナルドはモルテからそれが普通ではないと聞かされ信じられないという様子を見せた。

 そんな時、エノテカーナの電話が鳴った。

「今晩。エノテカーナでございます」

 鳴った電話の受話器を持ちマスターが電話の相手に言った。

 すると、マスターはモルテに受話器を渡した。

「お客様にです」

 マスターの言葉に嫌な顔一つもせずにモルテは受話器を受け取った。

「ファズマか?」

『店長。やっぱりエノテカーナにいましたか』

 電話の相手は見当を付けていたファズマであった。

「ここにいては悪いか?」

『いえ。確認の為に電話をしただけです』

 モルテの言葉にファズマが慌てて否定をした。それを聞いたモルテは僅かに鼻で笑った。

『それと店長、もう間もなくのはずです』

『ぎゃあああああ!!』

 ファズマがモルテにあることを伝えようとした直後、ファズマの声とは別に悲鳴が聞こえた。

「早いなぁ」

「もうですか」

 その悲鳴は受話器から響いてガイウスとレオナルドにも聞こえていた。

「始まったか」

 悲鳴を聞いたモルテは先程まで笑っていた顔から真剣な表情になった。

 今ここに葬儀屋リナシータが潰れる幕が上がったのである。

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