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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
3章 店長は死神
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水路を辿り

再開です

 真夜中のアシュミストを流れる水路の水は穏やかであった。本来なら穏やかで静かに流れる水の音に気持ちを和らげると思うはずだが、今はその逆、穏やかな流れはまるで底知れぬ闇へと誘うかのように、静かに流れる音がさらに不気味さを出していた。

 そんな状況の中でディオスはモルテの後を追うように葬儀屋フネーラがある旧住宅街から水路をたどり広場、商業街と歩いて目的地である新住宅街の目の前まで来た。

「はぁ……はぁ……店長速いです……少し休憩を……」

「なんだ、もう疲れたのか?」

 新住宅街の目の前まで着いたのだがディオス疲れた表情で肩を上げてモルテに休憩の催促をしていた。

「つ、疲れています……疲れます!ここまで歩いて来たんですから」

「疲れる距離ではないであろう」

「店からここまでものすごく距離があるんです。疲れます!疲れない方がおかしいです!」

「つまり、疲れていない私がおかしいと言うのだな」

「いえ……そう言うわけじゃ……」

 疲れて休憩したいだけなのに疲れた表情一つも浮かべていないモルテにおかしいと言ってしまいディオスは言葉が詰まり黙り込んでしまった。

(ああ、何でこんな事言ったんだ俺!)

 内心では自己嫌悪に陥っていた。

 自己嫌悪に陥っているディオスではあるが実際はアシュミストの立地から見れば正しいことを言っている。

 アシュミストはシュミラン五大都市の一つであり代表する観光地である。それ故にアシュミストの面積は非常に広い。しかも、新住宅街が元々水堀の役目をしていた河の向こうに造られた為に昔のアシュミストよりもさらに広くなっている。

 当然そうなると徒歩という移動手段はあまり好ましくないものであり徒歩だけでは街の端から端まで歩くことなど出来ない。

 車という今でも高級な乗り物や公共交通機関がない時代には街中には馬車が走っていた。何台もの馬車が街の中を走っていたということからアシュミストがどれだけ広いかが想像出来ることである。

 それにもかかわらずモルテは旧住宅街から新住宅街へと端から端に向かって歩いたというのに疲れた表情一つも浮かべないばかりか一言も呟いていない。

 アシュミストという街の大きさにモルテの様子は普通では異常に思えることなのである。

「新住宅街はもう目の前だ。休憩など今の立ち話の時間で十分であろう」

 どうにも休憩を与えてくれないモルテにディオスは僅かに不満な表情を浮かべた。モルテはあまり疲れていないだろうがこっちは疲れているんだと言いたそうに。

「ふむ」

 モルテは先程までいた場所から少し離れると河が見えたところで止まると周りを見回した。

「仕方がない。少し離れるが橋を渡るとするか」

 今回はディオスがいるからと安全を最優先にしたモルテ。

 この言葉をファズマかミクが聞いたら驚くことである。実際にモルテも珍しくとった行動であるから驚かれても仕方がない。

「行くぞ」

「……はい」

 モルテの言葉にディオスはまだ疲れて休憩したいという様子を少しだけ隠して頷くとゆっくりと後を追う。

 追うも疲れているからかモルテと徐々に距離が開いていく。そして、後から歩いてディオスは気が付いた。

「店長、急いでませんか?」

「何故そう思う?」

「少し歩くのが速いと思って……」

「いつもと変わらんが」

 モルテの歩くスピードが速いことに気が付いたディオスであったが、モルテはこれがいつも通りであると述べた。

「だが、急いでいる事は確かだ」

 どうやら歩く速さはいつも通りであるがモルテは急いでいた。

「早く見つけんと取られるからな」

「取られる?一体誰にですか?」

「それは、見せる時に教える」

 まだその時ではないから教える事は出来ないとモルテは指を立てて言えないと言う。

 それにディオスは多少不満を感じたがもうモルテは隠し事をしない。教えると言っているから今は何も問い詰めることはしなかった。

「それに、急がなければならないことだが、この街で犠牲者を出すわけにはいかん」

「犠牲者!?」

 犠牲者と聞いてディオスの表情が大きく変わった。

(犠牲者って一体……)

 どうやら死人が出るような出来事に首を突っ込むのだと理解したディオス。

 本音を言ってしまえば犠牲者や死者という言葉は聞きたくない。聞くと愚者ピエロ幽霊ゴーストのことを思い出して悪寒がする。

「生まれた状況から生霊リッチがどの様にしてここに降りてくるかは分かっている。後は見つけるだけだ」

 見つけると聞いてディオスは間髪入れずに言った。

「それじゃ急いだ方が……」

「急いだところですれ違うか見失ってしまえばどうする。生霊がやらかす前に確実に見つけなければならない」

 つまり急ぐことではあるが急ぎすぎて事が起きてはならないとモルテは橋を渡りながらディオスに言った。

「でも、どうやって見つけるんですか?ずっと水路に沿って歩いているってことは水が関係しているってことですよね?」

「ほう。分かったか」

 生霊が河を下っている。つまり水の流れに乗って降りてきていると感づいたディオスにモルテは前にファズマが述べた頭の回転の速さは確かであることを確認した。

「確かに水が関係している。店から水路を辿りここまで来たが見ての通り河は広い。このまま道なりに辿るわけにはいかんだろう」

 確かにそうだとディオスは頷いた。

 現在モルテとディオスがいるのは広場から新住宅街へと通っている東通り。しかも、新住宅街の真ん中を通る道である。ここから河を上るか下るかどちらを沿って歩くのか決めていない。

「どうするんですか?」

 結局は上るか下るかのどちらかでしかないが、もしかしたら手があるのではとディオスはモルテに尋ねた。

「まあ、見ておけ」

 モルテはディオスにそう言うとその場で行動を起こし始めた。

「え……?」

 モルテがとった行動。その行動にディオスは驚いて言葉を失った。

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