EP17 異世界の勇者⑥
内容変更の為、前書き、後書きは削除しました。
まさか、ギムのおかげで、帰れることになるとは・・・。
ラムタ世界の存在を女神が知り、私たちの前に現れたのも、ギムのおかげだった。
ギムがこの世界に来ていなければ、こうはスムーズに進まなかっただろう。
ギムに感謝しつつ、帰ったら尋問だ。
この世界の勇者チームは、実力も凄いが、発想が自由だ。
限られた中で、既存の考えに捕らわれず、可能性を追い求める。
「さよならラムタチーム」の宴会の最中に、模擬戦をやらかしている。
酒を飲みながらの戦闘だ。
しかも敵を1人倒すと、お土産の品がもらえるシステムで、3つのプログラムを一気にこなす。
やはり、この連中、只者ではない。
「6ヵ月ぐらいだったけど、楽しかったぞ」
「機会があれば、また会おう」
ケインさんと、アリスさん。色々教えてもらった。
私は、カモミールでの教えを絶対に忘れない。
ノートに、赤まるで記してある。
『姑息も手段』『綺麗に負ける位なら、汚く勝て』『男は、心より胃袋を掴め』と。
「すみません。女神を常駐させたかったのですが、ラムタ世界は、連絡も往来も思うようにできない場所です。女神の加護を与えることはできません」
ティナさんとシータさんは、深く頭を下げた。
気にしないで。元から神の居ない世界だった。
加護なしでも、私たちは逞しく生きていける。
「今後も研究は、続けるでござるよ。いずれ会えるでござる」
「科学に、敗北も不可能も無いのですよ。必ず会いに行きますよ」
科学者の2人。トーレフさんとマリーさんの言葉は、別れの悲しみを和らいでくれる。
たった半年だが、交流は濃かった。
別れがつらい。
私は、故郷も自ら捨てたが、カモミールでの半年は、それ以上に感慨深い物が有った。
それほど、この世界の人たちは、私たちを受け入れてくれた。
恩返しが出来ない。
この想いは、身を切るような切なさだ。
「また会えるといいね~」
「ピーーーーーーーーー」
マオさんとピーさん。
そしてピーさんは、ただの鳥さんではない。
超能力が使えるスペシャルな鳥さんだった。
「またこい」
「今度は、獣都を案内してやる」
何かと大胆なターナさん。女神のような美しさ、ぶっきらぼうのようで、心根は優しい人。
そして夫のハウルさんは、奥さんが大好き。
まさに美女と魔獣だ。
「元気でな」
「シーユーアゲインよ」
腐った剣士のレナさん。エロいおねぇさんセレスさん。
「お元気でですわ。また会える日を楽しみにしていますわ」
素敵な女王、アイリス様。夜な夜な、エロクィーンに変貌すると聞いたが、きっと冗談だ。
こんな素敵な人が、エロいはずがない。
みんなとお別れも済んだ。
さようなら、カモミール。美しく素敵な世界。
私たちは、次々と抱き合って、別れを惜しんだ。
「盛り上がってるとこ、悪いでござるが、もう少し準備に時間がかかるでござるよ」
「あと少しですよ」
・・・・。なんか、分かれの挨拶の後での、この間は、気まずい。
「そうだ!大切な事を言い忘れました!」
ティナ様?
「柊さん、よく半年頑張りました。ご褒美があります」
「え?私に?ご褒美って?」
「はい。柊さんの最大魔法『アブソリュートスノー』が、使えるようになりました」
「!?」
マジか?私はペンダントを握り、最大魔法で検索した。
『アブソリュートスノー』
と、頭に浮かぶ。
やった!遂に使えるようになった。
日本に居た時に、予兆はあったが、半年間、勇者チームと模擬戦を繰り返したおかげで、レベルが上がりまくったからだ。
「雪姫さんやりましたね。ルーランで物理限界を超える魔法が使えるのは、雪姫さんだけですよ」
「アブソ?物理限界を超える?って?」
飛鳥さんは知らない。
「アブソリュートスノーは『氷をも凍らせる魔法』と言われる、超低温魔法なんだ」
「私の絶対零度より、強力な魔法なのかだぞ?」
「はい。アリスさんの絶対零度より、遥かに低温のはずです。女神の管理する魔法にはありません」
アリスさんの目が燃えた。
「勝負だぞ!お別れに、私の魔法と勝負だぞ」
お別れの意味が分からない!
「お嫌じゃなければ、見てみたいですわ」
「私もだよね~」
「見せろ」
「俺も後学の為に見たない」
皆さんが言うなら、お世話になった、お礼の気持ちを込めて。
撃たせていただきます!
アリスさんと並んで、海に向かう。
陸では怖い気がするからだ。
「私はノータイムで撃てるぞ。こっちでタイミングを合わすぞ」
同時に放ち、どちらが強力か比較する。
私たちは波打ち際まで前に出る。
「行くよ、マックス、白姫さん。ギルドのマスターたる私の力、見ててね」
使うと決めた瞬間から、私の体の中で、魔力が唸りを上げだす。
体の中から、魔力が湧き出すのが分かる。
私の体から冷気が洩れだす。
「!? 下がるぞ!みんな下がるぞ!」
私の横に居たアリスさんが、声を張り上げた。
「この冷気は、絶対零度だぞ!撃つ前からこれじゃ、敵わないぞ」
私の魔力はさらに高まる。そして『撃てる!』と体が感じた。
『アブソリュートスノーーーー!!!!』
眼前に広がる海。水平線の先まで、一瞬で凍り付く。
「凄いぞ・・・・。」
「凄いな」
アリスさんと、ケインさんの驚きの声が聞こえる。
やった。これが私の魔法。氷をも凍らせる魔法だ!
嬉しかった。
マックスの言う、『一撃で戦況をひっくり返す力。それがギルドのマスターには、必要な力だ』
やっと私は、その力を手に入れた。
「でも凄い凍りかただぞ・・・まだ凍り続けてるぞ」
「ああ・・だが少し凄すぎないか?」
「今、星の半分が凍りました。自然解凍だと50年はかかると思います」
なんだって!?私の魔法で・・・。
「気にしなくていいぞ。凍ってもティナが何とかしてくれるぞ」
「はい。任せてください。神の加護でチンすれば即解凍です」
あーーーよかった。危なくお世話になったところに、迷惑かける所だった。
「でもこれは危険な魔法です。女神不在の世界では・・」
ティナさんは真面目な顔だ。
確かに、これは使えない。ルーランが大陸ごと凍りついちゃう。
「女神に力で、ランク分けします」
「アブソリュート梅。出力3%以下。アリスさんの絶対零度程度の威力です。
アブソリュート竹。出力20%。これでも、危険な位、強力です。
アブソリュート松。出力50%。なるべく使わないでください。
アブソリュート特上。女神の許可なく使用は禁止します」
寿司か?私の魔法は寿司か?
「でも、許可と言われても、連絡はとれませんよね」
「大丈夫です。考えてあります」
ティナさんから、定期券程度の大きさのカードを貰う。
「そのカードは、一度だけ女神の力を使える、パスワードが入ったカードです。どうしても必要な時は、自分で許可して使ってください」
台無しだ!緩いとは聞いていたが、女神って緩い。
「裏の銀色の部分をコインでこすると、パスワードが書いてあります」
ウエブマネーか?
「準備できたでござるよ」
「お待たせですよ」
最後は、バタバタだったが、私たちは、もう一度別れのハグをした。
「また来てほしいぞ」
「またな」
手を振る勇者チーム。
「本当にありがとう」
私達はアリスさん、ケインさんに見送られながらゲートを潜る。
ラムタ世界に帰れるんだ!