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ピチクリピ 第四話(完)

「ギャラリーなんか気にするなよ。サム先生の前では平気だったんだろ?」

リオンくんが、ノアくんの肩をポンと叩いて言った。

ノアくんは、下を向いたまま動かない。


「顔に似合わず強情だなあ。

……ああ、そう言えば、最下位のミズキ・アソウって君のルームメイトだったよね」

バトーくんの口からぼくの名前が出て、ドキッとする。

「プッ。何だよ、その冗談みたいな組み合わせは」

「知らないのか?けっこう話題になったのに」

「落ちこぼれには興味ないからね」

「なかなかかわいい顔してたぞ。髪も瞳も濃いブラウンで、ほのぼの癒し系」

「へえ、今度見に行こうかな」

「明日にでも『招待』すればいいじゃないか。ここに」

バトーくんの唇がニヤリと歪む。

「一位の技を見せてくれないのなら、最下位で我慢するしかないからな」

「それはいいね」

リオンくんがクスクスと笑った。



ぼくは葉っぱの影でフルフルと震えていた。

落ちこぼれで悪かったね!

ぼくやノアくんの『変身魔法』は、見世物じゃないんだぞ!


ようし……もう許さない。

まず、リオンくんのくるくる頭のつむじを……。

「わかったよ」

羽を広げ、戦闘準備をしていると、ノアくんの声が聞こえた。

「試験の通りにやればいいんだよね?

その代わり、ミズキくんには絶対に近づかないでくれる?」


「チチッ?!(ええ?!)」


ちょっと待って。

今、ぼくのためにやるって言った?


思いがけない展開にオロオロしていると、

後ろから、パンパンと手を叩く音がした。

うわっ!ビックリしたあ!

ドキドキする胸を羽で押さえて振り返ると、そこにはぼくに落第ギリギリの点をつけ、

おまけにそれを全校生徒に発表してくれた元凶のサム先生が佇んでいた。


いつからそこに?

ひとが近づいてくる気配は、まったくしなかったのに。


おっと、それより、見つかったらまずいや。

そうっと葉っぱの後ろに移動する。

この姿でも、サム先生ならすぐに見破りそうだもんね。

「動くな」

ギクリとした。でも、ぼくに言われたのではないようだ。

サム先生の視線は、回廊やバルコニーに向かっている。

その場を離れようとしていた生徒が、石のように固まっていた。


先生はゆっくりと三人に近づいて行った。


「サ、サササササササム先生!?なんでここに?」

リオンくんの声とからだが、異常に震えている。

「3年生のリオン・ウットにバトー・ルダ。……それから、B組のノアール・フラムだな?

君は第一学生寮の筈だが、こんなところで何を?」


凍りついた空気の中、噴水の水音だけがしていた。

先生以外のひとたちが、動かないせいか石像のように見えてくる。


「あの、僕、以前から特別寮の中庭に興味があったんです。それで」

「そ、そ、そ、そうなんです!

僕達、満点一位を取ったフラムくんをこの庭に特別招待したんです!善意の行動なんですっ!」

リオンくんが、ノアくんの答えにすぐに乗っかってきた。

呆れた。

悪意しかないくせに、よく言うよ。


「本当か?フラム」

「はい。リオンくんの言うとおりです。彼等が声をかけてくれて、案内してもらってました」

「…………」

サム先生は腕を組んで、三人を順々に見ていた。

リオンくんは真っ青な顔でブルブル震えて、今にも倒れそうだ。

バトーくんも固い表情をしている。

ノアくんは…………後姿なのでわからない。


「ふん。まあいい。もうすぐ夕食の時間だ。帰りたまえ」

もっと追求するのかと思ったら、先生はアッサリと話を終わらせてしまった。

「はい。そろそろ失礼しようと思ってたんです。

リオンくん、バトーくん、招待してくれてありがとう。

噂で聞いていた通り、とっても素敵な中庭だね。特別寮の人達が羨ましいよ」

「楽しんでもらえたのなら良かった」

バトーくんが、しかめっつらで答えている。

「うん。本当にありがとう。えーと、確か向こうから来たよね?それじゃ」

「待て」

歩き出したノアくんを、サム先生が呼び止めた。

「迷子にでもなられたら迷惑だ。仕方がない。この私が送って行ってやろう」

そう言って返事を聞く前にノアくんを追い越し、サッサと行ってしまった。

そして、ノアくんも先生の後を追い、やがてふたりは建物の中に消えていった。


「大丈夫かな?」

リオンくんが、不安気な顔をバトーくんに向けた。

「さっきの様子では、本当のことは話さないんじゃないか?

彼も騒ぎになるのは好まないんだろう。修学旅行も控えているしね」

「だといいけど…」

「しかし驚いたな」

バトーくんが呟くと、リオンくんは強張った顔で頷いた。

「あの木の後ろから先生が現れた時、ゾーッとしたよ。悪夢を見ているのかと思った」

「そっちじゃない、フラムだ。

僕達の前ではオドオドしてたのに、サド先生に対しては平気な顔で話してた。

おまけにスラスラと嘘までついた.。動揺しまくってた君とは対照的にね」

「うっ……」

思い出したのか、リオンくんは顔を歪めた。

その時


「うわあっ!!」

「冷たいっ!」

「痛っ!」


あちこちから、大きな悲鳴があがった。


「チチッ!(あっ!)」


中庭の中央にある噴水から、ものすごい勢いで水が噴き出している。

それも四方八方めちゃくちゃな方向に。

回廊やバルコニーに残っていた人達は、それを浴びてビショビショになっていた。

リオンくんとバトーくんも例外ではなく、ぐっしょりと濡れ、呆然としている。


そして、

異変が起こった。


みるみるうちに、中庭から色が無くなっていった。

花は枯れて萎み、たくさん生っていた果実や木の実は腐ってボトボトと落ちていった。

生い茂っていた葉っぱも、カサカサに枯れてほとんど散ってしまった。

あんなにきれいだった中庭が、あっという間に廃園になってしまったんだ。


Aクラスのみんなは、言葉も無く立ち竦んでいる。



ぼくを隠してくれていた葉っぱが、枝から離れ、ひらんと落ちていった。

「あ」

たまたまこっちを見ていたリオンくんが、両目を大きく見開く。

……えーと。

「ピチュピチュッ!(お邪魔しました!)」

「あっ!待て!」

リオンくんがぼくに向かって手を伸ばしたけれど、もちろんスルー。

高く高く舞い上がり、小さくなったリオンくんたちを見下ろす。

そして

今では見る影も無くなった、特別寮の中庭を後にした。





学生寮に続く道を、赤毛の男の子がひとりで歩いている。

サム先生は、いないのかな?

羽を動かしながらキョロキョロしていると、

「ミズキくん」

名前を呼ばれた。

ノアくんがぼくに向かって手を振っている。


ぼくはノアくんの頭上をひとまわりして、そのまま彼の肩に降りていった。



「サム先生に聞いて驚いたよ。その姿であそこにいたんだって?」

「ピ、チチッ。(う、うん)」

やっぱり見つかってたんだ。さすがサム先生。

「ロッカーに呼び出しの手紙が入っててね。

無視して教室に来られても困るから、会いに行くことにしたんだ。

心配かけたくないから、ミズキくんには内緒にしてた」

「ピチュッ、チチッ!(ノアくん、みずくさいよ!)」

「校内で会ったんだけど、彼らの申し出を断ったら無理やりあそこに連れて行かれて」

「ピピッ!(ひどい!)」

「誰かがそれを見かけて、サム先生に報告してくれたらしいんだ。助かったよ」

ノアくんはそう言ってにこっと笑った。

「でも、めったに入れない場所だから見学したかったな。きれいな庭だったね」

「……ピ(……うん)」


ノアくん。

君たちがいなくなったあと、とんでもないことが起こったんだよ。





時計塔の鐘がひとつ鳴った。

夕食の合図だ。


「ピチュッ、ピッ!チチッ!(ノアくん、たいへん!遅れちゃう!)」

「急ごうか。そうだ、知ってる?

今日のメニューはハンバーグだって。デザートはいちごアイス」

「チチッ!ピチッ?(わあ!ほんとう?)」

やった!

ぼくは、ノアくんのまわりをクルクル飛び回ってしまった。



そして、

もとの姿に戻ることを、うっかり忘れていたぼくは、

ノアくんの肩に乗っかったまま、寮のふたりの部屋に帰ったのだった。





end

ピチクリピ 


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