【27】
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それでは、本編をお楽しみください!
ガギンッ! と、火花を散らして俺の鉄剣が弾き返される。
死霊騎士の剣術は、まさに完璧だった。
俺がどれほど速く、どれほど的確に急所を狙おうと、生前に途方もない修羅場を越えてきたであろうその技量の前では、児戯に等しい。剣の理において、俺は完全に敗北していた。
「……だったら、理屈なんて捨ててやるよ」
俺は血まみれの口元を歪め、再び真っ向から騎士へと突進した。
死霊騎士の大剣が、俺の右足を切断すべく横薙ぎに一閃される。
普通なら回避するか、剣で受ける場面だ。
だが俺は、自らその大剣の軌道上へ右足を踏み込み、あえて肉と骨を『斬らせた』。
メシャッ、と膝下の骨が砕け、刃が肉を半ばまで分断する。
当然、俺の身体は支えを失って崩れ落ちる――はずだった。
「『ヒール』ッ!!」
背後から響くリナの悲痛な叫びと共に、眩い光が俺の右足を包み込む。
分断されかけた筋肉が爆発的に繋がり、砕けた骨が瞬時に癒着する。
俺は崩れ落ちるどころか、自分の足を斬らせて大剣の動きを僅かに鈍らせたその隙を突き、踏みとどまった右足で地面を蹴り飛ばした。
「な……ッ!?」
声なき驚愕。死霊騎士の兜の奥で、青白い燐光が激しく揺らいだのが見えた。
無理もない。生前の彼が培ってきた『武の極致』において、「肉を断たれた人間は止まる」「骨を砕かれた人間は倒れる」というのは、絶対に揺るがない大前提のルールだ。
だが、今の俺たちにその常識は通用しない。
前のめりに死を求める俺の狂気と、後ろからノータイムで命を繋ぎ止めるリナの過剰な治癒魔法。ふたつの異常性が噛み合った結果、俺は『死に続けながら戦う』という、剣の理から完全に逸脱した肉のバケモノに成り果てていたのだ。
「どうした、剣の達人! 動きが止まってるぞ!」
俺は笑いながら、ガラ空きになった騎士の胸板へ鉄剣を叩き込む。
硬い鎧に阻まれ致命傷にはならない。だが、騎士は確実に体勢を崩した。
追撃を放とうとした俺の首元へ、体勢を崩しながらも騎士が神速の突きを放ってくる。
躱せない。俺は自ら顎を引き、首ではなく『左の肩口』からその大剣を迎えにいった。
ズゴォォォッ!!
巨大な刃が俺の左肩を砕き、鎖骨を割り、肺を貫通して背中へと突き抜ける。
常人なら即死。痛覚すらも焼き切れるほどの致命傷だ。
口から大量の血が噴き出し、視界が真っ赤に染まる。
だが、俺は倒れない。
大剣に貫かれたまま、俺は死霊騎士に向かって一歩、ズルリと歩み寄った。
「捕まえた、ぞ……」
「……!!」
死霊騎士が大剣を引き抜こうと腕に力を込める。
しかし、抜けない。
貫通した巨大な刃を、俺自身の内臓と筋肉、そして背後から絶え間なく注ぎ込まれるリナの『ヒール』が、傷を塞ごうとする凄まじい圧力となって、肉の万力のようにガッチリと挟み込んでしまったのだ。
『剣術』において、俺はコイツの足元にも及ばなかった。
だから、自分の命をただの「肉の鞘」として扱うことで、コイツの最強の武器を物理的に封じ込めたのである。こんな戦法、まともな生存本能を持つ人間には絶対に思いつかないし、実行もできない。
「あ、ああああっ!! 『ヒール』! 『ヒール』ッ!!」
背後でリナが泣き叫びながら、俺の身体に魔力の濁流を注ぎ込み続けている。
俺は自分に突き刺さった大剣の刃を素手で握り込み、完全に固定したまま、右手に持った鉄剣を死霊騎士の首元――兜の隙間へとピタリと当てた。
「俺の、勝ちだ」
ズブォッ……!!
渾身の力で押し込まれた安い鉄剣が、死霊騎士の頸椎を貫き、その兜を背後へと弾き飛ばした。
兜を失った首の断面から、青白い燐光が炎のように噴き上がり、やがてフッと霧散していく。
ガラガラと音を立てて、主を失った漆黒の重甲冑が崩れ落ちる。
同時に、俺の身体を貫いていた大剣も光の粒子となって消滅し、空洞になった俺の左胸の傷口を、リナの治癒魔法が一瞬で塞いでいった。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
静まり返った第三層の暗闇に、俺の荒い息遣いと、リナのしゃくり上げるような泣き声だけが響き渡る。
無傷の生還? 成り上がり?
冗談じゃない。客観的に見れば、ただの狂気だ。
純粋な剣の達人を打ち破るために、俺は人間としての尊厳も生存本能もすべて投げ捨てて、自分を一度殺させたのだ。
「……また、死ねなかったな」
俺は足元に転がる死霊騎士の魔石を見下ろし、血まみれの口元で、ひどく虚しい笑みをこぼしたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
最近戦闘シーンを書いていなかったので、ただただ「泥臭い死闘」と「痛みを伴う戦闘」が書きたくて始めました。
高尚なテーマやメッセージ性はありません。死にたがりの男と、後ろから勝手についてきて全回復させてしまう少女。このバグった二人が限界の死線でどんな最適解を弾き出すのか、作者自身もシミュレーションを回すような感覚で書いています。
チートのない血みどろの戦闘がお好きな方は、この先もお付き合いいただけますと幸いです。




