序章
人間というのは、死んだ後になって、自分の人生の意味を求めるようだ。
そう―――、まるで一冊の本のタイトル名を考えるかのように。
自分の名前すら忘れた記憶喪失の俺が、なぜそんな偉そうなことを知っているかといえば、それが俺の仕事になっているからだ。
現世に居座る、さまよう死者を見つけ出し、葬式へと連れていく、しがない『案内人』。それが今の俺の肩書きだった。
正直、めちゃくちゃ辞めたい。
だけど、俺にこの仕事を与えた奴が、死者を成仏させ続けることで『俺の記憶』を報酬としてくれるというのだから、俺は今日もいやいやながらスーツの袖を通すんだ。
本日の現場は、夕焼けに染まる町の野球場。
ベンチにポツンと座って、透き通った手を見つめている少年がいた。
俺は歩み寄り、声をかける。
「探したよ。さあ、行こうか」
「え……?」
少年は不思議そうな表情を浮かべる。
「俺はな、お前を成仏させるための『案内人』なんだよ。お前、自分が死んだこと……受け入れられてねぇんだろ?」
「そりゃそうですよ!こんなに早く死ぬとは思ってもいなかったんですから!」
その少年の返しは想定の範囲内。俺は思わず肩をすくめる。
―――そうだ。人間、誰だって簡単に死は受け入れられない。…死を望まぬ限りは……な。
だからこそ、そこで『案内人』の出番となる。
案内人である俺は葬儀場所に向かう道すがら、死者との語らいを通じて死者の人となりに触れていく。そして葬儀場にいる参列者にダイブして死者に見せてやることで、死者と違う視点で自身の死と生を見せてやることで成仏させるというのが俺の仕事だ。
──さて、今日もどんな人生を見せられることやら。。。
「ところでさ」
俺は少年の隣に腰掛け、頭を掻きながら言った。
「あんたが十代で本当に助かった。八十代とかの死者だとさ、関わった人間が多すぎて、記憶の糸がぐちゃくちゃに絡まって、案内人の俺でも迷子になるからな」
「……は?」
少年が、涙目のまま固まった。
俺はケラケラと笑いながら、場を和ませるために軽口を叩いた。
「俺の上司もな、新人の俺には『練習用にシンプルなやつ』がちょうどいいって言うんだよ」
すると少年の顔が見る見る赤くなっていく。
「お、死んだはずなのに血色の良い顔だな?でも死んだんだぞ。ほれ、さっさと葬儀場に行くぞ?」
―――思ったことはつい言葉に出してしまう、名前も忘れた俺でも覚えている俺の悪いクセ……そう、俺はデリカシーがゼロなんだ。
「すみませぇぇぇぇぇん!!!神様ぁぁぁーーー!!この人、チェンジで御願いしまぁぁぁぁす!!」
少年はまるで爆発するかのように叫びだした。
「あのー、お客様ぁ…当店ではそのような『チェンジ』というシステムはございませぇん―――っていうか、そもそも『客』じゃないからな?」
「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!こんなやつチェンジだ!!チェンジィィィ!!キレイなお姉さんが良かったぁぁぁぁ!!」
「あのな、そういうのは生きている内に楽しんでおくべきだったんだよ。ほら、行くぞ―」
ちょっと初手を間違えたが、俺の案内人としての仕事がこれから始まる――――。




