人生初女装
雪さんの家で出されたお茶とお菓子を口にしながら話していた時だった。
「ユウキ君、女装してみない?」
いきなりそんなことを言われたせいで、お菓子を口に運ぼうとしていた手が止まる。
心当たりはない。
メモ帳には女装についてはいっさい書いていない。だとしたらなぜ……。
「ユウキ君が女装して、僕とデートしたら周りから見たら百合に見えると思うんだよね。だから女装してみよう?」
それはもう決定事項だった。
そしてそういうことかと、でもそれは小説の中だからこそ成り立つものだと思う。
けど、今の僕には拒否権がない。
はぁ……もうなるようになればいいよ。
「服は取り敢えずこれ着てみて」
渡されたのは白のブラウスに黒のスカート。
なんかこの服装見たことが……。
というか、これ着るの?
え、え……。
「脱がそうとしないでください! 自分で着替えれますから! ち、ちょっと着替えてきますっ!」
ブラウスとスカートを持って廊下に出て、一息つく。
このブラウスにスカートの組み合わせ。どうみても一時期有名になった童貞を殺す服だよね……。
できるならこのまま帰りたい。
しかし、家の鍵やスマホが入ったカバンは雪さんの居るリビングに置いたままだ。
それにもしカバンが手元にあったとしても帰らないだろう。その後の雪さんが怖いし。
手間取りながらも何とか着替え終わり、リビングに戻ると、こたつの上にはいくつもの化粧品が置かれており、やる気に満ちた雪さんが待っていた。
「ユウキ君は元々女の子っぽい顔だから化粧はこのくらいでいけ……るね。髪はウィッグをつけて……。よしっ、ユウキ君。これで確認してみて」
渡された手鏡を覗き込むと、そこには美少女がいた。