38話目
「うわああああああ!!!!」
リビィズが叫んだ。これほどまでに弱さをさらけだし、恐怖しているリビィズを見るのは初めてだ。なりふり構っていられないのだろう。正直、私もかなり怖がっていた。だって、攻撃しただけで攻撃した側もダメージを受けているのですから。しかし、相討ちとはいえ、ダメージを与えられたのも事実。
だけど、悪魔の王もただ立ち止まってやられる訳ではない。当然だ。生きようとするのは誰も一緒。生き物共通の本能だ。しかも、リビィズのわがまま・・・リビィズのせいで1000年以上も表に出られず、リビィズの中で燻ぶっていたのだ。外の世界にあこがれの様なものも生まれていたのだろう。リビィズや私同様に、悪魔の王も必死だ。
リビィズの攻撃は呆気なく躱された。無理もない。リビィズは冷静を装ってはいるが明らかにパニクっていた。リビィズの攻撃は単調だった。ただ単に突っ込んでいくだけ。あとは手を振り回すだけの攻撃。当たるはずもない。子供でも躱せる。
「リビィズ!!!!!」
私はリビィズごと巻き込むように、神の力を放つ。光が森を駆け抜けた。朝の光よりもまぶしい光に悪魔の王は包まれても、大して効いていないのか、ほぼ微動だにしていない・・・でもリビィズには当然神の力は効かない。逃げるチャンスは与えたが、馬鹿が、その場を動いていない。
「何やってんの!?」
私は片腕を空高く上げ、頭上に弧を描く。本当は両手でやるのだが、ないものはない。弧を描いた部分に、光の空間が生まれた。光の雲だ。そんな雲がまともな雨を降らせるはずもない。降らせるのは悪魔には残酷な、光の矢のスコールだ。
「逃げろーーー!!!!!ての」
これが私にできる、精いっぱいの抵抗だ。ただの悪魔なら、この光の矢のスコールで大概無残なことになるのだが、さっきの攻撃同様、悪魔の王にはあまりにも無力な結果に終わった。私は思わずニヤッと笑い、一安心した。リビィズの姿がない。うまく逃げたようだ。それに、私の攻撃も全くの無駄という訳ではない。左肩からの再生を抑えている・・・それどころか、そこから微弱ながらダメージを与えているようだ。悪魔の王は魂そのものだから、実際にダメージが与えられているのか確認しづらい。
そんなことより、肝心のリビィズはどこに行った?それは、悪魔の王の動きを見れば容易に確認することができた。奴は、まだリビィズのことを目で追っている。分かりやすい奴だ。段々と、悪魔の王の魂が、私にはかわいそうに思えてきた。まるで、迷子の赤ん坊のようだ。リビィズの姿を必死に探すのが、私には残酷でならない。
「早く、あなたを解放してあげたいけど、ごめんね。今は・・・まだ無理なの。・・・リューキがいるから、あなたにはリビィズの中に戻ってもらうわ」
いろいろな思いが私の中で錯綜し、私の目から涙が溢れてきた。止まらない。出そうとも思っていないのに、どうして止まらないの?人間だったことは、私にメリットもデメリットも与えたようね。こんな感情は、必要なかった。私は残酷だ。こんな感情がある故に、私は残酷になってしまった。無感情で相手を殺す。そんなに簡単なことはなかった。
悪魔の王の視線から、リビィズの位置を察して先回りした。
「リビィズ・・・早くあの魂を休ませてあげて」
私が泣いていることに気が付くと、リビィズは一瞬びくっとした。なんだ?と言いたい顔をしている。無理もない。私もこんなに人間的になってしまったのかと驚いている。そんな気持ちも、もう薄まってきてしまっているが。
「リューキが、レイスの魂をあなたに戻すまで、悪魔の王を足止めしなくてはいけない。あなたには今、神の魂をいくつ保有しているの?」
「・・・あと2つだ。・・・それ以上はあと1日以上休まないと回復しない」
つまり、私を入れてリビィズも入れれば4体か。・・・十分足止め可能だ。足を止めるだけでいいのだから。
「作戦がある。成功する率ははっきり言ってかなり高いだろう。お前が、完璧に動いてくれるのならな」
私はリビィズの顔を見た。リビィズはなんてことはないという顔をしているが、私の作戦を聞いた途端、その顔は真っ青に青ざめ、みるみる自信がなくなっていくのが見て取れる。
「ま・・・まじか?」
私は静かに頷く。それしかなかったから。方法は。
「悪魔の王の魂を壊すわけにはいかない。だから、封じるしかないでしょ?」
「分かっては・・・いる」
リビィズがしびるのも無理もない。無理もなくてもやるしかない。
「この中で、初めに仕掛ける者のファーストアタックにすべてがかかっているといっても過言ではないわ。それを、誰にするか・・・話し合うまでもないと思うけど」
リビィズも手伝い、再度遠目から悪魔の王に攻撃を喰らわせる。リビィズが地面から大地の光を取りだし、投げつけた。更に取出し、投げる。取り出し、投げる。投げる、投げる、投げる、投げる投げる投げる投げる投げる・・・・・・。叫び声をあげ、悪魔の王は大地の光をめった刺しになりながらも、全く動きを止める様子もない。
「甘かったわ・・・」
「な・・・何が?」
哀れな王は、魂だけを求める徘徊者だが、私が思っている以上に王の戦闘力は高かった。
「私たちの力で、あの王の魂を破壊できるなんて、そんな考えは甘かった。どのみち、私たちには足止めしかできない。足止めできる可能性があるだけ、ラッキーと考えるべきだったのよ」
リビィズの大地の光は、周りの草木をボコッと掘り返したように、まるで爆弾でも落したようにしたが、悪魔の王は私が与えた傷以外の外傷は見えない。無傷。そう、初めから勝てる訳はなかったのだ。
「わかっただろ?所詮私たちじゃ無理なんだよ。あいつを止めようなんて、所詮は無理だったんだよ!!!」
何度目だ?私がリビィズをぶっ叩いたのは?数え直さなくてもいい。リビィズをぶん殴った後で、すぐに奴の体をひき戻し、もう一度ぶっ叩いた。
「泣き言を・・・泣き言をいくつ言い続ければ、お前はちゃんと動き出すんだよ!?泣いて解決することなんて一つもない。いい加減、ちゃんと戦え!涙ではなく、力と知恵を絞り出せ!!」
「この馬鹿!」ともう一度、リビィズをぶっ叩いた。これ以上叩くとストレス発散にはなりそうだが、リビィズのやる気も発散してしまいそうなのでやめることにした。
東の大地から昇りつつある太陽の下には、雲が千切れ千切れに浮いている。西の空には一面、雲の海が続いている。太陽の下の雲は、その熱によって蒸発してしまったようだ。朝日が大地に降り注ぐ。作戦はこうだ。
「まず、リビィズ。残りの2つの神の魂を解放しろ」
マリ・アが偉そうに命令するも、顔の痛みがずきずきするので従っているだけ。私の生命線である残りの魂を解き放つのも、私自身に自信があるからだ。そうだよ?何か?
「・・・・・・・」
何も言わないのは、別にふて腐れているわけではない。真剣なんだよ。私は、このチャンスと作戦を無駄にはしたくないので。・・・それがなにかおかしなことか?
「じゃあ、あいつを引き寄せてね。リビィズ」
「任せろ」
とは言ったものの、マリ・アと影が2つ。私の前から消えてしまってはかなり心細い。森のざわめきが騒がしいのに、その音しか聞こえない中では、まるで本当にこの森に私一人になってしまったかのような。そんな錯覚に陥ってしまう。
「・・・いや、一人じゃなかったな。お前がいた。・・・いてほしくなかったけど、現実なんだな。これが」
森の空気が変わった。変わってしまった。何も見えてない。まだ何も見えてもいないのに、体を震えが走る。全身に。森が更にざわつき始める。森も、怖がっているのか?感情というものが存在しているのならそうだろう。
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