37話目
私は悪魔の王の背後に付いた。しかし、悪魔の王は気が付いていない。それは私がうまく気配を消したからだという訳ではない。単に私のレベルが低すぎて気が付いて・・・気にしてもいないと言った感じだ。レベルの差は認めよう。それでも戦えというのか。・・・リューキ、そっちは一人で大丈夫か?私は、またあなたに会いたい。
マリ・アよりも私のほうが、やはり、気が付かれやすいだろう。少しとはいえ、まだ悪魔の王の魂の一部が私の体の中に残っているのだから。少しでもそれが表に出れば、即、気が付かれるだろう。私はそのプレッシャーに耐えられそうもない。やはり、逃げよう。ちらっとマリ・アの方を見る。マリ・アも私を見ていた。怒りの顔で、しっかりと私と目が合ってしまった。
「に・げ・る・な・よ・お・お・お・お・お・お・お・お・お・―――――――――――――!!!!!」
鼓膜が思わず破けて逃げ出してしまいそうなほどの怒号を超えた怒号。その声に、悪魔の王が気付かないはずがない。というか、近くにいた動物たちもうるさすぎて逃げ惑う始末。そんな声出さなくてもいいだろ!!マリ・アに逃げることを完全に封じられ、もはや私は今にも泣き出しそうだった。
悪魔の王は、大声を出したマリ・アを見るのではなく、王の魂を保有しているからか、私のほうに体を向けていた。なぜだ?と聞きたかったが、理由は分かっていたし、そんなこと聞いてる余裕もないことも分かっている。だから、心の中だけで聞いたので、本当の答えは返ってこなかった。逃げ出したかったが、逃げられる自信は倒せる自信以上にない。もし、今、私が逃げようしていたら、その場でこの戦いの決着を迎えていただろう。
悪魔の王の一撃を、神の魂2つ分犠牲にしながらも、私は防ぎ切った。悪魔の王の取った攻撃は単純に腕を上に振り上げただけのこと。その一撃。その単純な攻撃は予想を反して単純な威力ではなかった。だが攻撃の隙を、マリ・アは見逃さない。使った2つの神の魂も、無駄にすることはできなかった。
「ここは、好機!!!」
リビィズに襲いかかり、後ろを向いている王。どこを狙うべきか?判断は一瞬だが、その決断は未来に関わる。この一撃こそ、勝敗を別けるといっても過言ではない。それこそ未来を託す、重要な一撃だ。
森の木々の落ち葉が、ゆっくりと目元を流れていく。マリ・アのスピードが、速く、ただ落ちるだけの葉っぱを流れていくように見せている。風も、ほぼ無風なのにも関わらずマリ・アのスピードに付いていけず、反対に美しいマリ・アの顔が数か所ぱっくり切れた。血も、風に抑えられるように流れるもなく、頬にべっとりと塗り付けられる。
私の一撃は、確実に当たった。その証拠に、攻撃を仕掛けたはずの私の右腕のほうが、王の体に触れた瞬間に木の葉のように散って消えた。魂と肉体の両方の激痛が走ったが、もうすでにその感覚をどこかに置いた。
「マリ・ア、よくやった!!」
私はマリ・アに尊敬とあこがれの念を送る。マリ・アはそんな甘い私に叱咤する。
「リビィズ、始まったばかりだぞ!!油断するな!!」
王の左肩から指先まで、掘ったように切り取られていた。それを見た私は一瞬安堵の表情を浮かべていたが、マリ・アの右腕もなぜか消失していたので、それどころじゃないと瞬時に理解した。マリ・アの言葉の真意も、同時に理解できた。そして、私は思わず自分の右腕を抑え込み震えた。腕を失ったのはマリ・アであって私じゃない。だが、恐怖は何もせずに伝染する。痛みも何も感じぬままに、私は汗でぐっしょり濡れて寒さで震えた。
「マリ・ア!!!何をされた!!!???」
マリ・アは分からないとは言わずに首を振った。どういう意味だ?何もされてないというのか?何もされていないが・・・悪魔の王の左肩からその下が消えている。ということはつまり、マリ・アが攻撃し、攻撃しただけでその右手が消し飛んだとでも言うのか?そんなこと有り得ない。しかし、有り得た。悪魔の王の力は、どれほど強いというんだ?
「だ・・・大丈夫なのか、マリ・ア?」
「大丈夫だ・・・が、戦力はガタ落ちだけどね」
この王を倒し、また封印しなくちゃならないのか。しかし、それ以上に不安がある。レイスだ。リューキ一人で大丈夫なのだろうか?あいつがいくらレイスに怒り恨み、いろいろな事情、感情を持っていたとしても、そんなことが力差を埋める手立てにはならない。これで結果は見えているだろう。人間では、レイスには勝てない。
しかし、人間は本来、レイスどころか神にだって、ましてやそこら辺にいる雑魚の悪魔にだって勝つのは困難なはず。リューキはなぜ、その埋めがたい人間という穴を埋めることができたのか?しかも、産まれた瞬間に、リューキはレイスに何かの力を奪われている。それなのに、今の強さはなんだ?あいつは本当に人間かって、思うよ。
でも今の問題はリューキでもレイスでもない。目の前にいる、今まさに戦っている悪魔の王をどうやって倒そうか?マリ・アは、実際もうこの戦いからリタイアしている気になっていることだろう。だが、私は隻腕だろうがマリ・アをこの戦いから降ろす気など毛頭なかった。
一神であるマリ・アにとって、悪魔の王の左腕を奪うこと事態、大儀なことだったのだ。それなのに、私にとってマリ・アの命などどうでもよかった。マリ・アの戦力など、今となっては本当にほとんど使えないものだろう。だが、それでも1より2。2より3。一つでも増えればマシという考えだ。というか、使えない奴でもいてもらえないとまず勝てない。まず勝てない。絶対に勝てない。形だけでも2対1でなければどうにもならないのだ。
マリ・アがまだいろよ。って顔している私を見て、思わず、「えっ、まだ?」と言ってしまっていた。無理もない。見てわかるほどにマリ・アには本当にもう力が残っていないのだから。
「リビィズ・・・私はもう腕が一本しか残っていないぞ?」
それでも、そう言っても、それを確認させても、私は首を縦には振らない。悪魔の王はあくまで私を標的に見据えているので、こんな状態でもマリ・アにとどめを刺すことはない。でも、マリ・アが攻撃をすれば、当たり前に反撃してくる。次の攻撃で、マリ・アは死ぬだろう。そもそも、マリ・アが攻撃したのに結果、マリ・アも右腕が消失したのだ。何度も言っているかもしれないが、マリ・アはその時、一切反撃も何もされてない。目撃していたがマリ・アから仕掛け、結果こうなった。
悪魔の王は左肩から下を失ったが、目を凝らし、じーと見てみると、恐ろしいことにもうその部分が再生し始めている。私もマリ・アもそれには愕然とした。原因はある。原因は明らかに私だ。私と悪魔の王の魂は、未だ繋がっているのが事実。私の支配下に置かれていなくとも、皮肉なことに悪魔の王は私のエネルギーで動いている。いや、その表現は適切ではない。確かに私の力も使っている。かといって、私が死のうが何しようが、あまり影響がない。つまり、繋がっているときは、ムカつくことに私の力を存分に使い、好き勝手動いているということだ。だから、回復にも全力で私の力を使っている。だから回復も早いのだ。
その事に、まだ我々2人は気が付いていなかった。気が付いても、行動に変わりはないが。回復されるのは非常にまずい。マリ・アの貢献と犠牲が全くの無駄になる。マリ・アは自分のやったことを無にしたくないから動いた。私は今後、これほどのチャンスと条件がそろっている状態はないと思ったから動いた。確実に言い切れる。ここで悪魔の王に回復されれば、もう勝機はないと言い切れる。
読んでくれた方、ありがとう




