36話目
俺の皮肉にも顔色一つ変えない。そもそも顔色がない。どうでもいい。しかし、レイスの魂は何をする気だ?さっきから、これといった攻撃もしてこない。・・・まさか、こいつ、俺の肉体を狙っているのか?魂は、確実に狙われているのは分かる。もうすでに少し奪われているからな。
「・・・思い当たる節はある。確かにある。自分の生まれ変わりを探すなら、俺なんか無視してさっさと探しに行けばいい。・・・それをしないのは、単に俺がウザったいのか・・・それもあるだろうが、俺の魂と、もしくは肉体を奪おうとしているからか?」
レイスの魂は何も変わらない。体一つ動かしていない。それなのに、それなのに俺には今、こいつがニタ~といやらしく笑ったように思えた。笑ったように見えた。何一つ動かしていないのに、俺の言ったことに頷くように、笑って答えたように思えた。
「・・・・・・・」
「・・・・何?」
「・・・・・・・・・・・・」
レイスの魂は何も語らない。語らずに、そしてゆっくりと右手を前方に伸ばした。俺に差し向けた。・・・何をする?わからない。分からないし、手を挙げたこと以外の変化もレイスの魂にはない。しかし、何かが危険だと感じ取り、俺は必死に横に飛んだ。無意味な横っ飛びのはずだった。俺自身、笑っちまうぐらい、何やってんだかと思えるはずの必死さのはずだった。
レイスの魂が、伸ばした右腕で四角を描くように動かした。それは、なんてことはない、四角く動かしただけのはずだった。だって、何も変化がなかったのだから。目に鼻にも見えていない。何も映らない。においもない。だから何をしたのかもわからない。だが、確かに俺の左腕には痛みが走った。・・・痛み?・・・そんなものじゃない!!痛いとでは表現が足りないほどの激痛!!!
「ぐああああああ!!!」
叫んでもごまかせないのは分かっていた。ただうるさいだけなことも分かっていた。俺自身、他人の叫び声には嫌気がさす。だが、我慢も出来そうもない。激痛が俺のことを支配してしまったように、叫ばずにはいられなかった。その激痛の中でも、疑問がぽつりと生まれていた。そんなこと、考えている場合でも余裕もない。ないはずなのに、俺はその疑問が気になってしょうがなかった。
本能的に、痛みを抑えようとダメージを受けた左腕を残った右手で包みこむ。ぼたぼたと垂れるのは、血ではなく汗だ。抑える左腕の下は、・・・なぜかちゃんと・・・ある。切断されたような激痛が走ったというのに、切断されていない。
レイスの魂が俺に近づき、俺の目の前で止まる。うずくまる俺の目の前で止まっている。・・・なんだ?その行動の真意は、すぐに理解できた。こいつは、うずくまる俺を・・・そう、見下しているのだ。ただただ、上から見下ろして、見下しているのだ。
「くそが・・・」
必死に絞り出した言葉も、思ったほど大きくはなく、レイスの魂には届かない。目の前の距離だというのに、俺の虚勢は届かなかった。
「リビィズ・・・何してんの?」
私たちは悪魔の王を追おうとしていた。しかし、まだ、追っていない。追おうとすらしていない。・・・なぜか?リビィズがビビってしまったのだ。その場にドリルのように震えて座り込み、震えること以外に動こうとすらしない。正直に言えば、こんな奴はほっておいて私一人で悪魔の王を追ってもいい。だが、力が足りない。私一人じゃ勝てない。
「リビィズ・・・早くして、あなたがいなければ勝てないわ」
私はめんどくさそうにしているが伝わらないように説得する。本当にめんどくさいのだから仕方がないが。リビィズはそれでもうずくまり、両足抱えて顔をうずめている。レイスの力も悪魔の王の力も失った今、リビィズに戦う力も気力もない。だが、本当にこの弱虫の力が必要なのだ。というか、こいつの中にまだ残っているほかの神々の力が必要なのだ。
「早くしなければ、悪魔の王はあなたの拘束から逃れて、本当に自由になってしまうわ。それが、どういうことかわかっているでしょ!だから立ってよ!リビィズ!!あなたの中に再度封印するしか手はないのよ!!」
手をぐいぐい引っ張るとリビィズが信じられないぐらい強い力で払い除ける。そして言ったのは泣き言だ。
「分かってるよ、そんなこと。分かってる!でも、出来ないんだ。怖くて出来ないんだ。・・・そ、そうだ。マリ・アが代わりに悪魔の王を封印してくれよ。な、そうしよう。・・・な」
こいつの突拍子もない提案に、あまりに頭に来たので思わずリビィズの顔をひっぱたいてしまった。リビィズはその衝撃に吹っ飛んだ。リビィズの顔は、怒られた幼児のように歪んでいた。それが一層むかついた。
「あんたねー。私の体に悪魔の王の力を入れたところで、私が耐えられるわけないでしょ!!レイスの力がなくちゃ、悪魔の王は封印できない。分かってるでしょ?」
「・・・わかって・・・るけど」
完全にヘタレなリビィズにもう遠慮する気はなかった。今度はさっきよりも強めに一撃入れると、しぶしぶリビィズも立ち上がった。でもその動きはいかにもだらけていて、もう一撃殴ってからやっとちゃんと歩き始めた。
「リビィズ・・・そんなに怖がりなら、なんでこんなこと始めちゃったのよ?いくらリューキを騙せたとしてもこんな大それたことしなくてもよかったんじゃない?」
私は呆れながらも少しだけ心配しながら聞いてみた。リビィズは答えようとしない。
「・・・ねえ?なんで?教えてくれたっていいじゃない?ねえ、教えなさいよ」
いつの間にか、立場は逆転している模様。リビィズも私のしつこさにこれ以上はだんまり出来ないようで、しぶしぶではあるけれど口を開いた。
「・・・・・・・」
「ねえ?」
「私は・・・怖かったんだ」
「何が?」
リビィズが名付けたマリ・アの森をひたすら歩く2人。森の木々はさっきのリビィズとの戦いで一部崩壊してしまったが、まだまだほとんどの木々が天高く生い茂り、太陽も昇ってきたというのに森の中はまだ肌寒く、薄暗い。時間が経てば程よく散歩道になるが、それはまだ先の話だ。
悪魔の王はまだこの森の中にいる。レイスの時もそうだが、歩くのが遅い。魂である以上、迷いがあるのか?方向が定まっていないというか、迷いがあるようだ。当然か。肉体がどこにあるかわからないのだから、当然か。
「私は、リューキが怖いんだ。本当に私は、リューキのことが怖いんだ。あの時、私はそれまでの生き方に疑問を抱いていた。レイスという絶対の神がいる。私も神だというのに、レイスがいる限り、神とは名ばかりで、人間と悪魔なんかとまるで変わらない。そんな被害妄想に囚われていた」
それは、マリ・アにも感じていたことだったから妙に頷ける。人間と悪魔を管理する。正直、その意味はまったく分からなかった。レイスの意図、本当に謎だった。思うに、多分意図も何もなかったのだろう。無意味。ただ、自分の優位性、特質性を知らしめたかっただけだろう。
「・・・だからといって、何もこんなことを」
リビィズは弱虫のくせに馬鹿にするように笑った。何かを悟しているような顔で、何も知りもしないくせに。もう一度殴られてふてくされ、また殴ったことは言うまでもない。
「リューキを騙せるとは思ってもいなかった。けど、騙せたことで、私の命は助かった。私が死んでいても生きていても、リューキはレイスの命を狙っていたんだ。結果は同じだっただろう」
「・・・そうかな?レイスが、悪魔の王が、たかだか人間にやられるとは思えない。お前が手伝ったからじゃないのか?」
そう聞くと、リビィズは急にムキになり、声をはらげて喚き散らした。
「なら、お前は私が初めに殺されればよかったとでも言うのか!!!・・・私だって、私だって生きているんだ。私だって、私だって・・・」
「・・・・・・・」
「私だって、自由に生きたかったんだ。・・・ただ、それだけだ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「それで・・・・・・・自由は、手に入ったのか?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「それは・・・・・・・まだ分からないよ」
「・・・・・・・」
「というのも・・・自由がなんなのか、未だに分からない」
「不自由ではなければ、自由じゃないのか?」
「・・・多分」
「・・・そうか」
「・・・そうだ」
そうこうしているうちに、悪魔の王の魂を発見した。奴には、私たちの存在に気が付いていない。・・・違うな。相手にされていないと表現した方が正解だろう。私たちは2手に別れた。私が右から、リビィズが左から。この会話が、戦いが終わるまでの最後のまともな会話になるだろう。
「・・・自由か不自由か、そんなことは今、どうでもいいわ」
「・・・」
「やらなきゃならないことを、ただやろう」
「・・・そうだな」
「・・・逃げるなよ」
「・・・逃げるか」
悪魔の王の魂は、前を見ている。私はマリ・アのほうを見た。マリ・アの表情はひどく強張っている。緊張しているのだろう、無理もない。私ですら、あと4つは他の神々の魂を保有していても怖くてたまらないのだ。4つ程度じゃ足りやしない。マリ・アには、当然だがマリ・アの魂しか持ち合わせていない。力の差がありすぎるのだ。
リビィズが私のことを見ている。戦いに集中しろ。私の力は、あまり役には立ちそうもないのだから。それでも、神の力は悪魔には有効だ。逆に、悪魔の力は神には効きにくい。でもそれは、普通のそこらへんにいるような悪魔の力だ。悪魔の王の力はレイス同様別格。それは王の名にふさわしかった。
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