31話目
リビィズは今、なぜか私の生まれたあの家にいる。それは、私への考慮なのか?と考えることは都合いいのか?両親のことを思い出した。ヒツジも。無事に逃げ切ったのだろうか?心配だ。
「・・・リューキ」
「・・・なんだ?」
リューキの様子が、何やらそっけない。気のせいか?
「リビィズ・・・いえ、ノウンはなぜ、私の家にいるのかしら?」
「さあ?・・・あいつが街のことを配慮するとは思えない。・・・わ・・・罠かもしれない」
体の、背中の、首筋がざわついてきた。リビィズは、確かにさっき都合よく考えたような甘い奴ではない。それに、まだあいつにはばれていないが、私たちは今、さっきとは違って体が分断している。2人がかりであることは変わりないが、戦力は10分の1以下・・・いや、簡単に言えば、勝ち目がなくなった。不安になり、ついリューキに聞いてしまった。
「・・・私たち、勝てる?」
「戦えばわかることだ」
「・・・そうね」
私も、リューキの中にいた時は、無敵だとうぬぼれ、敵の力などどうでも考えてもいなかった。レイスの力は、そんな無敵だとうぬぼれていた時でさえ、考えれば戦慄が走っていた。うぬぼれていた時でさえだ。今は、水を浴びたように冷静だ。冷静そのもの。冷静になると、走ることさえおぼつかないほど、恐怖が私の全身を包んだ。
ああ、私は結局死ぬんだわ。リューキの優しさなどに甘えず、もっと真実に向き合うべきだった。あのままなら、私たちは勝てたかもしれない。可能性はないけど、今よりはあった。
ああ、リューキも死んでしまうんだわ。初めて、リューキのお陰で私は心を持った。持たしてくれたリューキを守りたかった。守りたかった。
そんな私の前に、突然現れたのは、腕。そして、手。私は、他に何も見えないほどの闇の中を歩いているようだった。その手はリューキの物。リューキが、私の心を見透かしたように、暗闇に、心に陥った闇に手を差し伸べてくれたのだ。ん?いいや。違う。そうじゃない。リューキはまた、私をまたしても救い出そうとしてくれているのだ。
私は、その手を握りしめた。ほかには何もないと思えるほどにそれしか見えなかった。この世が、こんなにも闇に包まれていても、この手の存在はその闇に匹敵するほど、暖かい。世界そのものだ。
「・・・・・・・」
何も発せなかった。けど、私は確かに叫んでいた。私は、確かに叫んだ。ありがとう。リューキ、ありがとう!!!!!と。
「やっと来たか」
私は、この森の名前をマリ・アの森と名付けた。その名前に意味はない。暇だから付けただけ。さっきから、リューキとマリ・アの雰囲気がおかしいのが気になる。何が起こっているのだ?影たちをマリ・アの屋敷の周りに配置する。8体。気配を消す。それでもマリ・アには勘付かれるので、私は自分自身の気配を思いっきり出すことにより、より8体の気配を消すことにした。
リューキが、この家の門を開けた。この時点で違和感の原因が理解できた。奴らはなぜか2人になっている。そのことに意味はあるのか?多分、意味はないだろう。人間特有の非合理的主義ってやつか。私はあまりの事態にがっかりした。私は初めて・・・久しぶりに恐怖した。それは正直に認めよう。だから、万全を期して影を8体も忍ばせてリューキとマリ・アに備えたというのに。
突然、侮辱と怒りが湧き起こってきた。座っている椅子が怒りで壊れかけたが、なんとか壊さずに済んだ。壊さなかったのは、単に椅子を持ってくることがめんどうだっただけだ。
「ようこそ、わが家へ」
冗談でそう言ったのに、マリ・アがひどく怒り出した。かなり、嫌われているな、私は。好かれる気もないが。それに、私が座っているこの椅子。どうやら、マリ・アの親の椅子だったようだ。・・・誰のでもいいだろ。と思うのだが、マリ・アにとってはいくらか問題のようだ。
「・・・マ・・・マリ・ア。落ち着け」
リューキが私の前に立った。・・・こいつ、私がお前の心臓を掴めることをもう忘れているのか?そんなことないよな?笑みを作っているが、明らかにその笑みは不安を無理やり押し隠しているから笑っている。ただの作り笑いだとすぐに分かった。
2人とも、私からすぐ5メートルほど離れた距離に立っている。それは、私の間合いの外だ。まあ、間合い外といっても、単純に起き上がり、殴りつけるにはちょっと届かない距離なだけで、私が素手であるからこそ、その距離にいるのだろう。だが、その距離はやはり、リューキとマリ・アの2人を再度失望するに丁度いい距離だった。
「リューキ、もう少し近づいたらどうだ?なあマリ・ア、そこじゃ遠いだろ?」
その間合いは、絶対に私には2人の攻撃が届かない距離だ。つまり、彼らは自分たちの攻撃が当たる間を捨ててでも、私の攻撃の間合いから抜けたいらしい。現に、私の問いかけに2人は何も答えられずにいるし、動こうともしない。動けないんだな。本当にがっかりだ。
「・・・ノウン。俺はお前を殺すが、最後に聞いておくべきことがある」
リューキが、カッコつけてもったいぶりながらなんとか対等にしようと偉そうに聞いてきた。足は動かさない。私はわざと、対等に話してやった。
「なんだ?」
リューキは少しほっとしたような感情を一瞬表情に出してしまった。私は気が付かないフリと笑いだけは懸命に堪えた。何を言い出すのか聞きたかったからだ。
「・・・なんで、この街外れの森の中を選んだんだ?」
「・・・どういう意味だ?」
本当に意味が分からなかった。何か探っているのか?こいつ、私が8体の影をこの屋敷の周りに待機させていることを知っているのか?すでに私に知らない、私のわからない何かを仕掛けているというのか?
「・・・い・いや、街を壊さないようにでもしてくれたのかと思ってね。意外と優しいんだな。って思ってね。それとも、き・・・気まぐれか?」
リューキは、ウソを付いたり、騙そうとはしていない。
「あ~あ」
私は納得した。そうか。私が漏らした落胆の声に、リューキとマリ・アは勝手な勘違いな納得をしている。そんな訳がないだろう。こいつらは、もはや取るに足らない存在になってしまったようだ。今すぐに、こいつの心臓を握り潰し、マリ・アもさっさと殺し、リューキを永遠の奴隷人形にしてしまうのは簡単だ。だが・・・。
「それじゃあ面白くない」
誰にも聞こえないように、聞かれないように言葉が出ていた。せっかく用意した影だ。それで終わらせよう。十分だ。私の出る幕はない。こんな奴らに、私が恐怖したことが恥ずかしい。私にも恥じる気持ちと恐怖する気持ちがあったことを認識することができただけでも、まあ良しとしよう。貴重な体験だ。
私は、リューキの首を瞬間に締め付けた。そう、リューキたちが考えた間合いは全くの勘違いだ。私は首を絞めながら大笑いをしていた。リューキをこれで殺す気などはない。しかし、私も攻撃を受ける気は毛頭ない。助けようとしたマリ・アの攻撃も、すぐに反撃に出たリューキの攻撃もひらりと躱し、私は消えることにした。
「私が用意したものを、楽しんでくれたまえ」
リューキが喉を押さえてせき込んでいる。ふん。黙って私に従ってさえいれば、せめて心までは奪わないでおいたというのに。レイスを殺し、悪魔の王の力も消滅させたあとの世界でも、お前は生かしておいてやろうと思っていたのに。そのあとの世界に、お前は連れて行かない。ノアの方舟からお前は乗車拒否にされたのだ。いや、ノウンの方舟か。くくく。くだらねー。
読んでくれた方、ありがとう




