29話目
「なぜ、人間の赤ん坊なんかを殺そうとしたんだ?レイスは、一体何を考えて・・・」
しかもレイスは、赤子の両親と、赤子の力を奪うことで、なぜかそいつを殺すのをやめた(本当は赤ん坊を殺したと思い込んでいたらしい)。なんなんだ?考えられることは・・・いや、有り得ない。いや、でも、まさかな?理由は数えればきりがないが、どれも私の勝手な仮説。真実は1000年経った今でもわからない。
そんな赤子が、18年経ってから、まさか神を殺しに来るとは思ってもみなかった。そして、人間程度の力で神が死ぬという事実も、その時初めて知った。私はこれをチャンスと思った。こいつがいれば、俺の世界を変えられる。そう思った。・・・そう、そして実現した。
しかし、今思うと不思議な話だ。・・・何がって?リューキのことだ。確か、レイスに力を奪われたはず。なのになぜ、神である私を倒し、その後、私の力を借りていたとはいえ、レイスも悪魔の王をも殺すことができたのだろうか?
思えば、悪魔の王もレイスも実にあっけなく倒すことができた。今思えば疑問だ。あのときは、レイスを倒し、その力を奪うことができたことに興奮し、そんなこと考えもしなかったし、考えられなかった。あのあっけなさはなんだったんだ?
リューキに初めて出会ってしまった時の絶望感は、今でこそ忘れてしまっていたが、あの感覚は忘れることはあっても失うことはなかったらしい。リューキとマリ・アの合わさった力を見ている私は、まぎれもなく最強の力を持っているというのに最大級の絶望感を払拭できないでいた。
リューキの周りの悪魔が次々と死んでいく。マリ・アの力で悪魔が跡形もなく浄化されていく。リューキは飛び乗った悪魔の心臓部に、背中から神魔殺しの短剣を振り下ろし、悪魔の死を確認もせずにほかの悪魔に飛び移る。確認していれば、その間にその悪魔が浄化され、落っこちてしまうだろうからすぐに飛び移っているのだろうが。そしてまた、短剣を心臓に振り下ろしていく。隣で先に心臓を奪われた悪魔が死んだ。誰もそんなこと見向きもしない。見ても見なくとも、結末はすべてそこに至る。一人の人間を除いては。
空から、悪魔たちが消えていく。ボタボタと火に落ちていくはかなき虫たちのように朽ちていく。代わりに、今夜も全く見えていなかった星々が現れてはすぐに、消えていった。すべてはあの蛾の仕業だ。恐ろしくも美しい、あの蛾の仕業だ。
マリ・アの視界も俺はしっかりと伝わり、その視界は360°を超えていた。しかし、その視界の広さでも、ゆっくりと灯台を上ってくる一人の影の存在には気が付いていなかった。こつこつこつと、鳴り響きらせん階段を上る影の存在に、悪魔を殺す喜びの前に全く気が付いていない。
「グ…グキ?」
一匹の悪魔が何かに気が付き、すぐにほかの悪魔たちも異変に気が付き、灯台のてっぺんを一斉に見た。そのうちの23匹は、見た瞬間に消滅していたが、それでもまだ100匹ほど残っている。そいつらが、命の攻防を強いられている最中だというのに、一斉に灯台の頂上に立ったノウンの影に、釘付けになっている。
もう10匹殺したところで、俺もマリ・アもその異変に気が付いた。取り敢えず、もう一匹は殺して、そのまま灯台の上に飛び降りた。影と俺が対峙する。本体のノウンではないのでその影はまるで、俺の影のように対照的に立ちはだかっている。星もないうす暗い夜の中に、影と対峙する。雲がはっきり見えているも、月はその雲の後ろに隠れてしまった。
「おい、ノウン・・・。影ばっかで、お前自身は来ないのか?まあ、もうお前に俺の心臓は握れないけど。マリ・アの力で守られているから・・・な」
「影で来たのは、別にお臆しているわけでも何でもない。影で十分だと思った。・・・ただそれだけだ」
言葉をも切り伏せる攻撃を、ノウンは流石に読んでいたか受け流して回避する。バランスを崩し、俺の背後は一瞬空いたが、影は何も仕掛けなかった。何かを言う前に、影が先を打った。
「今、私が殺すこともできた。なぜ、何もしなかったと思う?・・・死など、簡単に終わってしまう。・・・それじゃあ意味がない。絶望を感じながら、生き続けてもらう。それが私への贖罪なのだよ」
俺は、影の目の前に、今切り取った片腕を放り投げた。腕は影に届く前に空中分解して消えた。影は腕がつかめないことを知っていたのか、何もせずにその腕が消えていくのをただ見ていた。
「・・・殺せたとは、御世辞でも言えなそうだけど、いいか?」
遠くで、ノウンの顔が怒りで歪んだ。俺は、その方向に見えなくも目をやり、ニヤッと笑う。
「怒りを・・・怒りを一番感じているのは俺だぞ。・・・ノウン。本当は腕なんかいらない。腕などじゃ足りない。いらないんだ。何も。俺は、何も・・・」
「リューキ・・・、影をいくら倒してもあまり意味がないけど、邪魔者は少なくしといたほうがいいわ。しばらくは使えなくなる・・・はずよ」
マリ・アが顔を出した。
「マリ・ア・・・もう、その魂は私にはいらない。だから、余計なことは言うな」
マリ・アがべーと舌を出した。
「私が、影をなんのためにここに連れて来たか。そろそろ考えてみたらいかがでしょうか?何の意味もないと思いますか?」
「何の意味があるんだよ?」
ノウンの言ったことに聞き返しながらも、間髪入れずに攻撃を仕掛けたが今度は空振りに終わる。影は少し距離を置いた。躱していても、やはり近すぎるようだ。とはいえ、ここは灯台のてっぺんだ。移動は限られている。大して間合いを広げることはできない。
2人(と言ったらマリ・アがすかさず「3人」と訂正してきた)の間が夜よりも暗い闇夜に包まれ始めた。・・・目の錯覚か?影から、闇の世界が広がっていくように見える。空の悪魔たちが、その闇に反応し、その翼を大きく広げ始め、カラスのようにやかましく叫び始めた。そのせいで空が、悪魔の翼で覆い尽くされてしまう。世界が真っ黒になってしまったが、そんなこと気にすることなく、影を見る。だが、それもノウンの策略の一つだった。ノウンはさすがに、俺の性格など知り尽くしていた。
逆に俺は、実はそんなにノウンの性格を知らなかった。ノウンには力がない。なので、そのほとんどを指示するだけで終わる。俺はノウンが戦うところをまともに見たことがなかった。俺は、一番危険な相手だけを見て、あまり害のないと判断された敵にはあまり注意を向けないのが悪い癖。
それは過信でも何でもない。単に視野が広すぎる故の特技でも短所でもあった。マリ・アが心配している。マリ・アはちゃんと見ていた。悪魔たちの異常行動を。嫌な予感がしていた。ノウンの考えと、悪魔の異常行動の結びつけるものが不安を駆りたてる。
「リューキ、ノウンの影が何かをしようとしている。気を付けて・・・」
そんな分かりきったことを言ってしまうとは。見ているだけじゃノウンの意図が分からない。だが、予測は出来ていた。その予測が当たってしまうと、かなりまずいことになることは確かだった。が、その予想は当たる。
「気を付けようとも、もう私の方は完成している。間違って殺してしまったら、それはそれで仕方がないことだ。せいぜい、必死に生きようとする姿を見せてくれ」
ノウンが一人、ぶつぶつとしゃべっているが、誰にも届かない。それは単に遠くに本体がいるからなだけ。ノウンは一人でいるのにまるで舞台の上で客席に向かってショーを披露しているようだ。完全に独り舞台だ。
影が、その闇を一気に縮めた。その闇の中に、悪魔たちが食われるようにどんどん吸い込まれていく。もしくは引き込まれているのか・・・悪魔たちの意思なのか、影の意思なのか?まあ、そんなことはどっちでもよかったが、とにかく影に悪魔たちが集まっているのは確かだ。一匹、一匹と影の中に悪魔が入っていくたびに、禍々しさと俺の背から流れる汗が多くなっていく。
マリ・アの心配の念も深くなっていった。
途中で止めようとも思ったが、そのエネルギーにうまく近づくこともできない。いや、近づけば自分たちも吸われてしまいそうだった。俺はことが済むまでその場から、一歩も動くことができなかった。
「どんどんどんどん・・・強く、大きくなっていくぞ」
影が、徐々に空高く舞い上がっていく。そのすべての悪魔と融合したとき、そのサイズは街を覆い尽くさんとするほどにまで成長していた。ただ一言いうのなら、デカい。とてつもなくデカい。でかく、翼の生えた悪魔の形状を保ちつつ、その体の半分を海につけている。街中の人々は、この時本当に絶望感を味わったという。マリ・アもさすがにこの時ばかりは絶望した。街を誰よりも守りたかったのはマリ・アだ。自分たちが死ぬとはこれっぽっちも思っていないが、街を守れる自信がなかった。
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