解答編
「――成る程。理解した」
朽木は、今度こそ勝利を確信して微笑んだ。
――そうして出した結論が、
「―――犯人は、彼女だ」
冒頭のセリフだった。
「…………ひゅう」
芝村は、さすがにそこまで『ズバリ言い当てられる』とは思っていなかったので、動揺を隠し切れず、口笛に軽く失敗した。
「当然の帰結だ」
対して、朽木はククク、と悪魔のように――あるいは子供のように――、彼のうろたえる様を愉快そうに眺めている。
「……やれやれ。ちょいと親切すぎたか」
「何、お前の悪戯にしては存外に楽しめた。次があるのなら、それなりに楽しみにしてやろう」
「ちぇ。せっかく、『あの日俺と一緒に司書室に入った女子』を呼んでおいたってのに、面白さ半減じゃん」
「――ほう」
「そういや、そろそろ来るはずなんだが……」
芝村が司書室の裏側から顔を出すと、ちょうど一人の長髪の女子が図書室のドアを開けてこちらにやってくるところだった。
「おー、久しぶり。あの時以来だっけ?」
「ええ。お久しぶり、キシ」
長髪の女子は、スカートの裾をひょいとつまみ、貴族めいた優雅さで一礼した。
「それで? 彼は、ここに?」
「うむ」
長髪の女子は、閲覧室と司書室とを隔てる銀色のドアを静かに開き――――朽木は、目を丸くした。
そして、『あの日芝村と一緒に司書室に入った女子』は、言った。
「初めまして、レイジ。自己紹介が必要かしら?」
「――いや、必要無い。存外に天からの寵愛を受けた容姿だった故、見惚れていただけだ」
「あら。そんなこと言ったら、ユイに叱られるわよ?」
「知った事か。……ああすまん、まだこちらが名乗っていなかったな。お初にお目にかかる、
――――彼女、アリス 」
――そう。アリスと呼ばれた女子の本名は、『彼女アリス(かれま ありす)』。諸事情によりアリスという名前はこのままカタカナで表記するが、この場合問題なのは苗字の方だ。
この事実を念頭に、もう一度芝村の小説を読み返してみるといい。彼の小説の中に登場する『彼女』という単語を、全て『カレマ』と読み替えた時、様々な違和感がたちどころに氷解する……筈である。
「……ホント、出来心だったのにヒドい目にあったわ。まさかユイがあそこまでケチだったなんて、ね」
「いんや、俺の調査によると、どうも唯ちゃんは自分のものを奪われるのがどうにも我慢ならん性格らしい。そこんとこどう思うよ? 解説のくっちー君」
「何故そこで俺に話を振る?」
――起きたのは、他愛もない日常の一コマ。友人のおやつを、ちょっと目を離した隙につまみ食いし、後輩に口止めをして逃走した、ただそれだけの話だ。だが、少し『読み方を変えてみる』だけで、こうも違って見えるものか、と。あなたがそう思ってくれたのなら、この話はその役割を果たしたと言えるだろう。
では、彼らの平凡にして愉快な日々はこれからも近づいていくが、今回はこれくらいで幕を閉じたいと思う。……願わくば、またいつかどこかでお会いできる機会がありますように――
以上、解答編でした。ってうわぁ、物を投げないでー。(何
一応蛇足しておきますと、問題編最後で朽木が気づいたのは、実際の司書室の裏側には『海女』なんて色紙が置いてない、ということです。我ながらかなり苦しい気もしますが、これも『彼女』という苗字を導くためのヒントということです、はい。後、唯とアリスでは芝村の呼び方が微妙に違ったり。
とまぁ、そんな感じの結末ですが、ここまで読んで下さった方、ありがとうございました! よろしければ、時間のある時にでも、文句や文句や指摘や感想など頂けると幸いです。(笑)