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もう一歩だけ

翌日。


調律所の朝は、静かに始まっていた。


まだ客は少ない。

準備の時間。


ユウトが手を動かしていると、扉が開く。


カラン――


入ってきたのは、あの二人。


銀髪の女性と、年長の男。


前回とは違う。


迷いがない。


ユウトは軽く頷く。


「いらっしゃいませ」


女性がまっすぐ言う。


「今日は施術じゃない」


一拍。


「話がしたい」


ミリアが少し驚くが、リュウは何も言わない。


ユウトは少し考えてから頷いた。


「分かりました」



――――室内。


四人が向き合う。


前回のような探りではない。


最初から核心。


女性が口を開く。


「あなたのやってること」


「再現できる?」


ユウトは一瞬だけ考える。


「……できます」


すぐに続ける。


「ただ、同じようにやるには少し時間がかかります」


男が静かに言う。


「技術か」


ユウトが頷く。


「はい」


少し手を動かしながら説明する。


「特別な力じゃなくて」


ここで一度区切る。


「積み重ねです」


女性が反応する。


「……積み重ね」


ユウトは続ける。


「体って、ちゃんと使えば変わるんですよ」


「硬くなったり、戻ったり」


「それを繰り返して整えていく」


男が言う。


「流れを整える」


ユウトは少し笑う。


「その言い方、分かりやすいですね」


短い沈黙。


女性が一歩踏み込む。


「私たちの知ってるものと似てる」


ユウトが少し興味を持つ。


「どんなものですか?」


女性は少しだけ言葉を選ぶ。


「内側の流れを整える技術」


完全には言わない。


だが、隠しもしない。


リュウが小さく言う。


「同じだな」


ミリアも頷く。


「やってることは似てるかも」


男がユウトを見る。


「確認したい」


「なんでしょう」


男ははっきり言う。


「これは、戦いに使うものではないな?」


少し空気が張る。


ユウトはすぐに答える。


「使えなくはないと思います」


一拍。


そして続ける。


「でも」


ここでしっかり区切る。


「本来は違います」


静かに言う。


「整えるためのものです」


女性の目がわずかに細くなる。


男もわずかに頷く。


女性が小さく笑う。


「やっぱり」


そして続ける。


「同じだね」


ユウトが聞き返す。


「同じ?」


女性は言う。


「戦うためじゃなくて」


ここで少し間。


「壊さないための技術」


ユウトは少し驚いた顔をする。


そして、ゆっくり頷いた。


「……そうですね」


空気が変わる。


最初の距離が、少しだけ縮まる。


女性が言う。


「じゃあさ」


「教えてくれる?」


ユウトは迷わず答える。


「いいですよ」


リュウが横で言う。


「簡単じゃないぞ」


ユウトは笑う。


「うん」


そして続ける。


「でも、分かれば変わる」


少しの沈黙。


男が静かに言う。


「……条件はあるか?」


ユウトは首を横に振る。


「特にないです」


少し考えてから付け加える。


「ただ」


ここで一度区切る。


「ちゃんとやること」


女性が笑う。


「それは守る」



――――外。


調律所を出る二人。


歩きながら、女性が言う。


「……予想以上」


男が頷く。


「ああ」


女性は続ける。


「隠してない」


男が答える。


「隠す必要がないのだろう」


少し間。


女性は空を見上げる。


「面白いね」


男も同じ方向を見る。


「……ああ」


その日。


人間と魔族の関係は、


“観察”から


“共有”へと


静かに変わり始めた。

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