古代遺跡の壁画と、失われた医術の再発見
王から正式に認められた翌日、ユウトとリュウは王城の奥にある資料室へ案内された。
そこは一般の騎士どころか、王族ですら滅多に入ることのない場所だという。
書棚には分厚い古文書が積まれ、埃の匂いが充満している。
壁には古地図や、遺跡のスケッチが貼られていた。
「ここに、古代文明の医術に関する記録がいくつかある」
案内役の文官が重い巻物を広げる。
その中に――ユウトが思わず息を呑むものがあった。
「これ……完全に鍼灸の図じゃん」
壁画を模したイラストには、人間の体を模した絵があり、
そこに細い線のようなものがツボを示すように描かれている。
リュウが覗き込む。
「細い棒で……体に触れている? これが治療行為だったのか?」
「可能性は高いな。
俺の世界にも似た技術が存在してて……正直、びっくりしてる」
ユウトは指で壁画の一点を指した。
「これ、“経絡”って概念に近いんだよ」
「ケイラク?」
「簡単に言うと、体の中の流れ……みたいなものを整えるって考え方。
現代医学では説明が難しい部分もあるけど、
実際に体が軽くなったりするんだよな」
文官が食い入るように聞いている。
「異世界の知識と、古代文明の遺物が一致するとは……」
そう呟いたあと、彼は別の巻物も取り出した。
「これも関係があるかもしれん。
古代人は“機械”と呼ばれる道具を使い、
人体の流れを読み取っていたという伝説があるが……」
「この世界でも、古代文明は高度だったんだな……」
「ただ、その使い方は失われたままだ。
誰も動かすことができぬ」
ユウトは壁画と古文書を交互に見比べ、ぽつりと呟いた。
「……マッサージとかストレッチとかさ。
本来なら“治る”とか言っちゃダメなんだよ。現代では法律があるから」
「法律?」
「“あはき法”って言って、勝手に治療を名乗っちゃいけない決まりがあってさ。
でも――」
ユウトは壁画に触れながら苦笑した。
「ここ異世界だし、古代文明の技術と一致してるなら……
まあ、言ったってバレないよね」
リュウが吹き出した。
「お前、異世界でも地味に気にしてるのかよ」
「職業病ってやつだよ……」
古文書を読み解く中で、ひとつの概念が浮かび上がってきた。
“痛みは流れの滞りから生まれる”
「完全にツボの概念だな……」
ユウトは城の許しを得て、細く研がれた金属針を数本作らせた。
だが、最初に針を持ったのはユウトではなく、リュウだった。
「こういう細かい作業は……お前の方が慣れてるだろ?」
「まあな」
リュウは針を指先で転がし、
まるで長年の相棒を扱うように自然に構えた。
「……すげぇ」
ユウトは心底驚いた。
「普通、針って怖いもんなんだよ。
なのにお前、全然ぶれないな」
「暗殺用とはいえ、狙った一点に届かせる訓練は散々したからな。
ただ……殺すためじゃなくて、救うために使うのは新鮮だ」
リュウは壁画のツボ位置を見て、針を当てるべき角度を自分なりに考察しはじめた。
「ここは……少し斜めに?
力加減は……このくらいか?」
「そう、それ!本当に向いてるかもしれないぞ、お前」
ユウトの言葉に、リュウは苦笑しながらも誇らしげだった。
「俺の技……生きるのか。こっちで、やっと」
文官が感慨深げに呟く。
「古代文明の“癒しの技”は、完全に失われたと思われていたが……
まさか異界の者と元暗殺者が蘇らせるとは、誰が予想しただろうか」
ユウトは肩をすくめる。
「いやいや、俺はただの整体師だってば。
異世界に来ただけで、歴史の再発見とか大げさすぎるって」
「だが実際に、陛下の痛みを取ったのは事実だ」
リュウも頷く。
「ユウトの言う“流れ”って概念……
これ、古代の文献にも少し書かれてるな。
もしかすると、本当に合ってるのかもしれないぞ」
ユウトは深く息を吸った。
「……だったら、この世界で完成させてみるか。
古代文明が目指してた“身体の調律”ってやつを」
リュウは針を握りなおし、まっすぐユウトを見た。
「お前が導いてくれるなら……俺はその道、歩いてみたい」
ユウトは笑った。
「じゃあ決まりだな。
ここから先は――鍼治療第一号の誕生だ」
文官は震える声で記録をとりながら呟く。
「……この日を史書に刻むべきだろう……
“失われた癒しの技”が、再び世界に甦った日として」




