兵士たちの悩み相談 ― “遠征の身体ケア、どうする?”
薬湯公開から数日。
兵士たちの間でも評判は広がっていた。
「城の“癒しの場”は、本当に効く」
「肩や腰が楽になった」
「眠れるようになった」
だが――同時に、新たな悩みも浮かび上がった。
―― 城の裏庭・夕刻
いつもの調律所前。
訓練帰りの兵士数名が列を作り、
その代表格の若い兵がユウトへ頭を下げた。
「ユウト殿。
少し――相談を聞いていただけますか?」
「もちろん。どうしたの?」
兵士は少し言いづらそうに語り始めた。
「我ら兵士は、いずれ遠征や戦地に赴く身。
しかし、あの癒しの場は城にあります。
遠征中は、頼ることができません」
「なるほど……」
別の兵士が言葉を継ぐ。
「重い鎧での行軍。
見張り、夜営、連日の緊張……
体も心も、削られます」
そして核心。
「もし可能なら――
調律所の者が同行してくだされば心強いのですが……」
リュウが静かに首を振る。
「前線は、命のやり取りの場だ。
非戦闘員を連れていくのは、簡単じゃない」
兵士たちは理解していた。
だからこそ、困っていた。
「分かっております。
だから――
どうにか“自分達だけでも出来ること”はないかと」
そう言って深く頭を下げた。
ユウトは、しばらく考え――
やがて笑った。
「――あるよ」
兵士たちの目が一斉に向く。
「俺の世界ではね。
“セルフストレッチ”って言って――
自分で体を伸ばして整える方法があったんだ」
「自分で……?」
「そう。
道具もいらない。
場所も時間も選ばない。
ただ――
“正しいやり方”を知っていれば、ね」
夕暮れの光が傾く中、
ユウトは兵士たちを広場へ集めた。
「まずは――
重い鎧で固まりやすい、首と肩から」
ゆっくり見せる。
呼吸に合わせ、首を横へ傾ける。
「無理はしない。
痛みが出る手前で止める。
呼吸は止めない。
それだけ守って」
兵士たちは真剣に見ていた。
「次は背中。
胸を少し開いて、肩甲骨を寄せる」
「肩こ……?」
「背中の、肩の裏側の骨。
そこが動くと、息もしやすくなる」
そして脚。
「長時間の行軍で一番疲れるのは、ふくらはぎ。
ここは、こまめに伸ばす」
ミリアも一緒に見本を見せる。
「こうやって――
足を後ろに引いて、かかとを床につけるんです」
「……おお……!」
兵士の一人が驚いた。
「痛気持ちいい……!」
ユウトは笑って言った。
「今やったのはほんの一部。
でもね――
“毎日少しずつ”が一番効くんだ」
ユウトは続ける。
「そしてもう一つ。
不安とか、焦りとか――
心の揺れも、体に出る」
兵士は静かに耳を傾けていた。
「俺の世界では、それを“ストレス”って呼んでた。
でも言葉なんてどうでもいい。
悩みや不安は、体を固める」
だから――
「祈りだっていい。
仲間と話すのもいい。
少しでも心が軽くなるなら――
それも立派な“ケア”なんだ」
兵士たちは、誰も笑わなかった。
ただ静かに、噛み締めるように頷いた。
講習が終わり、
兵士たちが礼を述べて戻っていく途中――
ユウトは空を見上げながら独り言を呟いた。
(……セルフケアを補助する道具があれば)
(小さくて、軽くて、壊れにくくて――
旅先でも使えるもの)
たとえば――
棒や円筒を使って体を押したり、
簡易的に伸ばしやすくする何か。
(鍛冶屋の技で作れないかな……?)
ひとつの“種”が、
静かに芽吹き始めた。
調律所へ戻ると、
ミリアが優しく笑った。
「ユウトさんの教え方、
すごく丁寧でしたね」
「そうか?」
「はい。
なんだか――
“自分の体を大切にしていいんだ”って
言われてるみたいで」
リュウも短く言う。
「悪くなかった。
戦いは避けられなくても――
壊れずに帰る手助けにはなる」
ユウトは少し照れながら頭をかいた。
(俺は医者でも聖職者でもない)
(でも――
“日常でできるケア”なら届けられる)
(それが、俺の役目なんだろう)
「近いうちに、鍛冶屋へ行こう」
「新しい企画ですか?」
「うん。
“旅先でも使える体ケア道具”」
ミリアは目を輝かせた。
「それ……きっと、
多くの人を助けますね!」
リュウも頷く。
「俺たちの役目は、
ここからだな」
夜空には星が瞬き、
新しい道の先を照らしていた。




