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露天風呂、ほんとうの完成

露天風呂の工事は、ついに最終段階へ入っていた。


城の離れ――静かな庭園の一角。

柵で囲われた空間の中心に、石を組んで造られた湯船が鎮座している。


以前の問題点――周囲から丸見え


それはもう、解決済みだった。


庭師と石職人、そして鍛冶屋。

それぞれが知恵を出し合い、


背の高い生垣


曲線を描く塀


湯気を逃すための高窓


これらを組み合わせることで、

外からは見えず、内側は開放的という理想的な空間が形になったのだ。


「……やっと“外なのに安心して入れる”になったな」


リュウが腕を組んで眺める。


「風も通るし、空も見えるし……いい感じです!」


ミリアは目を輝かせた。


そして今日は――


最終安全確認の日


薬湯同様、まだ一般利用は始まっていない。

内部試験として、軽衣を着用して入るのがルールだ。



「失礼します!」


庭へ整列した兵士たちが現れた。

以前から調律所と交流していた兵士たちだ。


彼らはユウトに頭を下げる。


「戦の訓練で身体を痛める者が多いもので……

もし、この露天湯が役立つなら――」


「もちろん、協力ありがとう」


ユウトは笑顔で返した。


今日は、


ユウト


リュウ


ミリア


医局の医師二名


協力兵士三名


の少人数で確認を行う。


「では、まずは入浴時間の測定から始めましょう」


医師が記録板を掲げる。


湯に入る前。

兵士たちは軽衣姿で、少し緊張した表情をしていた。


「城の庭で湯に浸かるなんて……

夢にも思わなかったな」


「サウナってやつもすごかったけど……

これも楽しみだ」


そんな会話を耳にしながら、

ユウトは胸の奥が温かくなる。


(癒しって、きっと……

こういう瞬間にあるんだろうな)



湯へ足を入れた瞬間――


「……ッ」


兵士の一人が、静かに息を吐いた。


「剣を握る肩が……少し軽い気がする」


リュウも肩まで湯に沈み、

夜空を見上げる。


「外の空気と湯の温もり……

これは、湯屋とは別物だな」


ミリアは星を見上げながら微笑む。


「なんだか……

空と一緒に入ってるみたいです」


医局の医師も観察を続ける。


「精神的な安定も、身体の巡りも……

どちらにも良い影響がありそうだ」


風が湯気を撫でる。


外だからこそ感じる、

自然との一体感。


ユウトは気付いた。


(ああ――

人は囲われた湯だけじゃなく、

空の下でも癒されるんだ)


ここでなら――


訓練帰りの兵士


城下の住民


神殿の参拝者


医局の患者


誰でも、ただ“人”として湯に浸かれる。


(戦士でも、病人でもない

ただ一人の人間として休める場所)


(それが――

この露天風呂なんだ)


しばらくして。


湯から上がった兵士の一人が、

ペコリと頭を下げた。


「正直、最初は疑っていました。

呪いだの、道だの……

難しい話は分からないし」


ユウトは笑顔で聞く。


「でも――これは良い。

戦場帰りの心が、すっと静かになる気がします」


「ありがとう。

それを聞けただけで、十分だよ」


兵士は拳を胸に当て、


「俺たち兵士も……

できる限り協力します」


そう誓った。



その後。


神殿の使者が露天風呂を見学に訪れた。


「静かな場所ですな。

祈りにも、きっと良い」


湯小屋の壁に掲げられる予定の宗教絵画の話にも触れられる。


「男湯と女湯、それぞれに神の姿を描く……

日によって入れ替わる習わしも、良いものです」


ユウトは柔らかく返した。


「人が、心安らかでいられるなら。

信仰も湯も、役割は同じですから」


使者は微笑む。


「あなたの言葉、大神官に伝えましょう」



その夜。


露天風呂は、誰もいない静かな時間を迎えていた。


ほんのり漂う薬草の香り。

遠くで鳴く夜鳥の声。


ユウトは湯気を眺めながら思う。


(あとは――

“公開の日”を迎えるだけだ)


(争いじゃなく、

癒しが人をつなぐ世の中に――)


(少しでも、近づけたなら)


風が優しく頬を撫でた。

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