↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/71

最終検証前夜

王城の大広間に、重たい沈黙が落ちた。


民の間に広がるのは――

昨日のそれよりも、もっと深い落胆。


「やっぱり……全部が助かるわけじゃないのか」

「夢みたいな話だったのかな……」


希望は、

少しずつ現実に押し戻されていく。


宮廷医師団の代表は、

やわらかな笑みを浮かべた。


「調律所の働きを否定するわけではありません」


穏やかな声。

だが、言葉は鋭い。


「しかし――

“必ず改善する”

“誰でも楽になれる”

そんな期待が広まれば、

叶わなかった者に、さらなる絶望を与えることとなるでしょう」


会場の空気は、

医局の理屈を自然と受け入れ始めていた。


「我ら医局としては――

調律所の活動範囲を制限することが、民のため

と考えます」


ミリアが震えた声で呟く。


「……制限……」


リュウは、静かに奥歯を噛む。


(“守っているふり”をして

締め付けるつもりか)


王は、眉間に指を当てたまま考え込んでいた。


昨日のように、

すぐ判断はしない。


それだけ、この問題は重い。


「……しばし考える」


王は短く告げた。


「今日の件――

軽々に裁断は下せぬ」


医局は深々と頭を下げる。


神官たちは表情を崩さず、静かに退出する。


民もまた、

重い足取りで大広間を後にしていった。



人が減ったあと。


例の女性患者が、ユウトのところへ歩み寄った。


「……ごめんなさいね」


申し訳なさそうに微笑む。


「私のせいで、

こんなことになってしまって」


「違います」


ユウトは即座に首を振る。


「あなたは、何も悪くない。

むしろ――よく耐えてきましたね」


女性は、驚いたように目を見開いたあと、

小さく微笑んだ。


「少しだけ、軽くなったのは本当です。

あれは、無駄ではありませんでした」


「ありがとうございます」


その言葉だけが、

ユウトの胸を救った。



調律所へ戻る廊下。


足音だけが響いていた。


「……悔しいですね」


ミリアがぽつりと漏らす。


「ちゃんと、少しは楽になってたのに……

“少しじゃ意味がない”なんて……」


「“一度で完全に変われ”なんて条件、

無茶苦茶だよな」


リュウが低く言う。


「でも――」


ユウトは、それでも冷静だった。


「正面から否定しても、相手は動じない」


「……じゃあ、どうするんですか?」


ミリアの問いに、

ユウトは歩みを止めた。


「“見えないもの”を――

“見える言葉”で示す」


「昨日、言ってたやつですね……

“道”の話」


「そう」


ユウトは窓の外を見上げた。


「この世界の人たちは、

“呪い”や“神の意志”という言葉なら

素直に受け入れられる」


「でも医局は、信仰と切り離して考えてる」


リュウが補足する。


「だから“身体の話として”

説明がいるんだろうな」


ユウトは、ゆっくり頷いた。


「道は――確かにある。

見えなくても」


拳を握る。


「次こそ、ちゃんと伝える」



同じ夜、医局。


静かな部屋で、医師たちが集まっていた。


「今日の空気――

かなりこちらに傾きましたな」


「ええ。

民は“確実なもの”を求める」


別の医師が笑う。


「結果が少しでも曖昧なら、

そこを突けばいい」


「ただし――」


最年長の医師が低く告げた。


「王は、まだ判断していない。

神殿も沈黙したままだ」


静かに湧き上がる緊張。


「決着は――

次だ」



翌朝。


城に、王の布告が掲げられた。


「調律所の技を、正式に国の制度として採用するか否か最終検証を行う」


それは――

この国の“身体の常識”を決める審判。


神殿は静観。

医局は準備を始め。

民は再び集まり始める。


その中心に――

調律所の三人が立つ。



ユウトは、静かに息を整えた。


(“道”を誰にでも分かる形で――)


(必ず、示す)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。