転生、そして即逮捕
――死んだ覚えは、ない。
体がふわりと浮いたように軽くなった次の瞬間、俺は石の冷たさに頬を押しつけていた。
「……え?」
硬い。本当に硬い。こんな硬いところで寝てると筋も硬くなって不調が出ちゃうじゃないか!
リラクゼーションサロンの柔らかいベッドとは真逆の感触に、脳みそが状況を理解するより先に文句を言いはじめる。
俺の名前は 綾瀬ユウト、三十歳。
街の片隅で小さな整体院を営んでいた――はずだ。
だが目を開けると、周囲は見知らぬ建物ばかり。
石造りの家々、馬車の音、行き交う人々の服装は中世ファンタジーのよう。
視界の端には鎧を着た兵士らしき人間までいる。
「ど、どういう……状況?」
スマホを取り出そうとポケットに手を突っ込んだが、指先は空を切った。
見下ろせば、俺はTシャツとジャージという完全に場違いな格好をしている。
通りすがりの人々があからさまに俺の全身をジロジロ見てきた。
「え、あの……」
助けを求めるように近くの商人へ声をかける。
「すみません、ここって……どこなんでしょう?」
商人は俺の姿を上から下まで眺め、目をひん剥いた。
「どこ、だと……? そんな奇妙な布の服を着ておいて、街名も知らんのか!」
「奇妙、って……これ普通のジャージなんですけど」
「ジャージ……? 呪具の名か?」
「呪具じゃなくて、運動するときに――」
商人は後ずさり、周囲に向かって叫ぶ。
「兵士を呼べ! 魔女が使う“滑り布”のような服を着た怪しい男だ!」
「滑り布って何!?」
俺の声より早く、金属音が響いた。
「そこを動くな、怪しい者め!」
剣を抜いた兵士たちが、俺を包囲する。
「お、落ち着いてください! 本当に俺は普通の人間で――」
「その服……見たことのない素材だな。
どこの部族の者だ?」
「部族!? 違う。これはただの運動着で――」
「運動着にしては妙に光沢がある。
やはり魔女の滑り布にそっくりだ!」
「絶対違うってば!というか何で服の素材だけでそんなに怪しむんだよ!」
兵士の表情にますます警戒色が強まる。
「それに……倒れていた時の姿勢。
生気を抜かれた者のそれだ。魔女に操られたか、あるいは――その手先か!」
「操られてないし、手先でもないよ!それに倒れていたの見てたなら心配をまずしてくれよ!」
「言い訳の仕方も不自然だ。拘束せよ!」
「いやだぁぁぁ! 話を聞いてぇぇぇ!」
兵士の動きは速く、俺の両腕は瞬く間に後ろへ回され、縄でぎゅっと縛られる。
引きずられながら見た青空は妙にきれいで、こんな状況じゃなければ感動さえしたかもしれない。
こうして俺の異世界生活は、
初手“即逮捕”という最悪の形で幕を開けたのだった。




