【20】DNAが呼ぶ推理の迷路、星空が照らす素顔
イーサンがS.A.G.E.に戻ると、早速ヴィヴィアンに捕まった。
ヴィヴィアンはイーサンと共にDNAラボに入り、ドアを閉めると緊張した面持ちで言った。
「アーチボルトの車から出た血液サンプルは、劣化が酷くてまともな検査はほとんど出来なかった。
でもあの血液は確かに人間と、人間以外のものだったわ。
人間以外と言うと、サーストンに狩りの趣味でもあったのかと思うかもしれないけど──これは動物じゃない。
限りなく人間に近いけれど、それ以外のDNA配列が複雑に変化している。
だけどデータベースに、こんな配列のデータは無かった。
それに劣化していて、所々検出出来ない部分もあったから、今は何の血液なのか見当もつかないの」
「それで、人間の血の方はどうだった?」
ヴィヴィアンは複雑な表情を浮かべながら答える。
「比較的新しい血液が三種類あった。
DNA分析の結果、一人はデータベースには無い。
因みにアーチボルトの血液サンプルが無いから、彼のものかは分からない。
それと『リオ・ゴードン』とDNAが一致。これはまあ予測の範囲よね。
だけど残りの一人が……」
「一人が?」
ヴィヴィアンはイーサンの目をまっすぐ見て、きっぱりと言った。
「ノアのDNAと一致したの。
ノアはあの車に、流血した状態で乗車したことがあるのよ。
それで私考えたんだけど……病院の破裂事件の容疑者がまた一人増えたでしょ?
柄物スーツの男。あの連中はまともじゃない。
もしかしてノアは、このグループから抜けたくてリンチか拷問を受けたのかも」
「だが、ノアと『リオ・ゴードン』は兄弟だ。DNAが証明した。
血を抜かれてまず兄の心配をしていた人間が、その兄を拷問するか?」
「もしそれが芝居だったら?」
イーサンとヴィヴィアンの視線がぶつかる。
ヴィヴィアンは視線を逸らさずに言った。
「『リオ・ゴードン』の針だけは、使い回しの針じゃなかった。
抜かれた血だって、他の容疑者に比べれば少な過ぎる。
献血2回分も無くて、充分生きていられる量よ。
それにスザンナが聞いた犯人との会話も、生きた証人が出た時の保険かもしれない。
もし『リオ・ゴードン』が血を抜いた犯人達とグルで、ノアはそれを知らずに暴行されていたら?
連中に売り飛ばされたのかもしれないわ。
真実味を持たせる為に、ノアの目の前で『リオ・ゴードン』に吹き矢を刺して倒したのかも。
そして頃合いを見て『リオ・ゴードン』は芝居を止めて……そうね。
例えば同じように監禁されている女性達の前で、死んだように見せかけて解放されるはずだったのに、その前に女性が脱走して計画が狂った。
有り得ないことじゃないわ」
イーサンが頷く。
「確かに筋は通っている。
だが『リオ・ゴードン』が仲間だったとしても、ノアに暴行した犯人は歪んだ形でノアを愛していたからかもしれないが……血を抜いていた方の犯人の動機が分からない。
それに暴行犯と、血を抜いていた犯人と思われるクラブ・ジョーのオーナー、スティーブン・マーシーと会計士のティモシー・ローランの“仕事”ぶりは完璧だ。
『リオ・ゴードン』達とは天と地の差がある。
仲間がこんなにミスを連発していて、スティーブンとティモシーが黙っているとは思えない」
「それはそうね……。でも!」
ヴィヴィアンが目を細めて考え込んでいたかと思うと、ぱっと目を見開いた。
「『リオ・ゴードン』とその仲間達は、スティーブンとティモシーから『ノアを拉致して暴行させる』という仕事を請け負っただけだとしたら?
女の子達から血を抜くのは別件で、『リオ・ゴードン』達は関係無い。
だけどノアを大人しくさせるのに、弟の『リオ・ゴードン』の存在は利用出来る。
だから納得ずくで血を抜かせた!」
イーサンのアイスブルーの瞳が、ナイフのようにギラリと光る。
「今までの話は推測に過ぎない。やはり『リオ・ゴードン』を見つけ出すのが近道のようだな」
ヴィヴィアンが力強く頷く。
「ええ、同感よ」
イーサンが自宅に帰ると、もう20時を過ぎていた。
ノアが笑顔で出迎える。
「お帰り! 風呂の後、食事にする?」
イーサンがフフっと笑う。
「ノアが作ってくれたサンドイッチを食べられたのは16時だ。先に食事を済まそう」
ノアの細く白い指が、イーサンの片頬にそっと触れる。
「イーサン……仕事大変なんだな。
でも食事だけはきちんと取ってくれよ。頼むから……」
ノアの潤んだ瞳。
イーサンがノアの指をやさしく握る。
「心配ありがとう、ノア。だがこれが俺の仕事だ。
72時間ぶっ続けで働いたこともある。
そんなに心配するな。それより今日のメニューは?」
ノアは「テーブルに着くまでナイショ!」と言うと、ウィンクした。
ノアの手作りの品が一品添えられた食事を終えると、後片付けを済ませたノアが「じゃあシャワー浴びてくる」と言った。
薬の注入に備えてだろう。
それをイーサンがノアの手を掴み、止める。
ノアが振り向く。
「イーサン?」
「今夜はドライブに行かないか?」
ノアが不思議そうに目を丸くする。
「……外に出ても良いの?危険じゃ…」
「俺がいる」
その一言にノアが小さく頷く。
イーサンは満足そうに微笑むと、「15分後に出発だぞ」と言ってリビングを出て行った。
車の窓の外、無数の光が流れていく。
ビルの灯りも、信号の青も、まるで別世界の星のように見えた。
そうして着いた高台。
セレニスの煌めく夜景をノアのグリーンの瞳が映す。
「……きれい」
ノアの頬を一筋の涙が伝う。
それを見たイーサンは、言葉を選ぶように静かに息を吐いた。
「……ノア……君は生きて、ここにいる。
それだけは忘れないでくれ」
ノアの頰に再び涙が伝って、落ちた。
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