【14】魔女の追放劇と、モーテルからの通報。〜三台の車を預かった支配人〜
「……つまりセレニス州の特徴ってことだよね。
イーサン・クロフォードが無敵ってことじゃ……!!」
ロクシーの言葉に、イレイナは高らかに笑い声を上げる。
「ホホホ!
その通り!
やっぱりあんたを普段から雇ってて正解だったわ、ロクシー!
アーチボルド!
ルシアン!!
それに隠れてるつもりのルチアーノ!
よく聞きなさい!
神は知っているのよ!
ノアの運命を!
全知全能なんだから!」
観葉植物の陰からルチアーノが顔を出して叫ぶ。
「ノアの運命って何だよ!?」
だが次の瞬間――
壁に叩きつけられて鼻血を噴き出すルチアーノ。
「イ、イレイナ……なに……」
「うるさい!
その硫黄臭い香水をつけるなって何度言えば分かるのよ!」
「こ、この俺様が特別に調合した……あだっ!
痛い!
ごめんって!」
イレイナがパチンと指を鳴らすと、ルチアーノはその場で失神した。
ロクシーは吹き出しながら肩を揺らしながら、言う。
「でもさ、神の御心はイレイナでも口にできないし。
時間もないし、だよね?」
「そうよ」
イレイナは満足げに頷く。
「賢いあんたが、この馬鹿連中とつるんでるのが本当に謎だけど、その通り!」
すると、アーチボルドが咳払いをして、イレイナに問いかけた。
「あの運転手は誰だ?
大丈夫なのか?」
イレイナは勝ち誇ったように言い切る。
「彼は三十年以上前から私の秘書兼弟子よ。
ダンスも上手で給料も弾んでる。
あんた達よりよっぽど信頼できるわ!」
「でもどうやってキャデラックを運んで来たんだ?
警官がうようよしてる街中を?」
リオの問いを、イレイナはバッサリ切り捨てる。
「筋肉しか取り柄がない考え方ね。
パトロール警官に止められたら、免許証を見せてこう言うのよ。
『主人がクラシックカーマニアでやっと見つけたんです』って。
それでも引き下がらなかったら?
私の通り名と登録証を見せるの。
もちろん完璧な偽造だけどね。
――そして住所を見れば納得するわ。
ここは州のトップしか住まない通りなんだから」
アーチボルドが渋面で尋ねる。
「それでキャデラックはどこに隠した?」
「はあ……」
イレイナは深くため息をつくと言った。
「少しはベストセラー作家らしい発言をしなさいよ。
車を隠すならガレージに決まってるでしょ!」
「でも、もし警察が来たら……!」
リオの焦りに、イレイナが面倒くさそうに返す。
「もう解体してあるわよ。
今頃、部品を積んだトラックがワシントンD.C.へ向かってる」
「解体!?」
リオとアーチボルドとロクシーの叫び声が重なる。
イレイナは『ロマネ・コンティ1945年』――
2018年にアメリカのオークションにて落札された、価格約55万8,000ドル――
当時のレートで約6,000万円超〜約10億円するワインを惜しみなくワイングラスに注ぐと、ワイングラス片手に、三人を見回す。
「考えてみなさい。
中身が見えない車両運搬車を警察が見逃すわけないでしょ。
でも解体してしまえば?
食品運搬車にだって積めるのよ。
ノアを取り戻してD.C.に帰ったら、ゆっくり組み立てればいい。
秘書がガレージに入れておくわ」
すると、リオが小さく呟いた。
「……でも、ここでの足がなくなる」
その刹那――
イレイナがワイングラスをサイドテーブルに置くと、立ち上がり、拳を震わせる。
「リオ!
あんたも筋金入りの馬鹿ね!
キャデラックは乗れない、それが前提でしょうが!
あーもう!
馬鹿が移りそう!
車を一台あげるから、二度とこの屋敷に来ないで!」
「えっ……車をくれるの?」
驚愕するリオに、イレイナはフンと鼻を鳴らす。
「そうよ。
警察が絶対に怪しまないポルシェを、ね。
返さなくていい。
邪魔になったら売ればいいわ。
それと、市内の五つ星ホテルのペントハウスを一ヶ月前払いで貸し切っておいたから!
はい、これがキー!」
ジャラリと音を立てて、車とホテルのキーがテーブルに叩きつけられる。
「……イレイナ!
何から何までありがとう!
イレイナって本当は優しいんだね!」
緑の瞳を潤ませるリオに、イレイナは素っ気なく返す。
「はいはい。
礼なんていいからさっさと出てって。
車は玄関の噴水前にある。
あんた達が出て行ったら魔術が発動して、天使も悪魔も二度と入れないわ。
だから、もう絶対に来ないで!」
「分かった!
本当にありがとう!」
リオは笑顔で仲間たちを振り返る。
アーチボルドも安堵して微笑みを浮かべ、
「お邪魔のようだ、退散しよう。
ありがとう、イレイナ。
元気で」
と言って扉に手をかけた。
だが、イレイナが「待って」と呼び止める。
四人が振り返ると、イレイナはにっこり笑って扉の前に立った。
「言い忘れたわ。
玄関に車椅子を置いてあるの。
チタンフレームの最高級品よ。
記念に持って行きなさい。
役に立つから。
じゃっ!」
バタン、と派手に扉が閉められ、四人は廊下に放り出された。
ぽかんと互いの顔を見合わせる。
「……車椅子?
なんで?」
翌朝、S.A.G.E.本部。
イーサンが自分のオフィスがある階でエレベーターを降りると、受付の警備員が声を掛けた。
「捜査官、伝言があります」
メモを受け取って開いた瞬間、イーサンの表情がわずかに引き締まる。
そして、そのまま早足で自分のオフィスへ向かった。
「ベック、捜査中に済まない。
現場の保存は?」
イーサンのデスクの前の椅子に座るベックが笑顔で応じる。
「捜査中といっても聞き込みだ。
ちょうど一段落したところだよ。
現場は完璧に保存してある。
カリスタたちの到着を待ってる。
それで、何を掴んだ?」
イーサンはデスクの上で指を組み、身を乗り出した。
「二年前、モーテルの支配人が強盗殺人容疑をかけられた事件を覚えているか?」
ベックが即答する。
「もちろんだ。
モーテル・シップスの経営者、エド・モローだろ?
アパートを借りられない連中や売春、浮気に使われるような安宿中の安宿。
あいつは終身刑寸前だったのを、お前が無実を証明して真犯人を挙げた。
新聞の一面に載り、テレビでも特集が組まれた。
……そのモローからのタレコミか?」
「そうだ。
今朝、S.A.G.E.に伝言があった。
モーテルの電話は盗聴されているかもしれないから、公衆電話から九時半にかける、と。
俺に直接話したいと」
ベックが息を呑むと、言った。
「……病院の破裂事件か?」
イーサンが頷く。
「まだリオ・ゴードンがクラブ・ジョーの事件の被害者か、ノア拉致の共犯か判別できない。
だからマスコミには容疑者情報を伏せている。
だがモローは神経質になっていた。
警察無線を傍受しているようだ。
そして俺の『キャデラック・エメラルド1967年型を発見したら即連行せよ』という指示を聞いたらしい」
「まさか……キャデラックがモーテルに!?」
「ああ。
モロー曰く、ツギハギのオレンジ色の車、キャデラック・エメラルド、そして白い古い車の三台を預けられたという。
事務所裏に停めさせ、宿泊費は前払い、宿泊客たちはやけに用心深かった。
……そして昨夜」
イーサンの声が低くなる。
そして、軍人上がりのベックでも驚愕するしか無い内容が語られた――
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