【14】笑う魔女が語る、科学という最強の呪い
「イーサン・クロフォードには、怪物も魔物も悪魔も天使も魔女も手を出せない。
そのまじないを繰り返し掛けていたら、まずセレニス・ベイが影響を受けた。
セレニス・ベイでは、誰であろうと力を発揮出来なくなり──やがて影響はセレニス州全土に広がった。
だからルチアーノもルシアンも、飛ぶことすら出来ないのよ」
イレイナが見据える先で、ルチアーノは肩をそびやかす。
「ルチアーノ、正直に言いなさいよ。
お前、隣の州から──あの趣味の悪い緑のフェラーリで来たんでしょ?
地獄の王が車で移動!
あー、笑える!」
声色に皮肉をたっぷりと混ぜ、イレイナは笑いを堪えきれない。
そして「地球で一番ダサいわ!」と言い切った。
その姿に、ルチアーノは奥歯をきしませる。
そこへリオが割って入った。
「イレイナ、さっきイーサンの影響だって言ったよね?
その影響はどうして広がったんだ?
それさえ分かれば──ルシアンやルチアーノにノアを取り戻すのを手伝わせられるはずだ!」
ピタリ、とイレイナの笑い声が止んだ。
そして、これまでにないほど慈愛に満ちた声色で口を開く。
「それは無理よ、リオ。
無敵になったイーサン・クロフォードの正義感と、人間に対する愛情、そして自己犠牲の精神が……彼自身を覆い尽くしたの。
その力が自然と溢れ出し、愛するセレニス・ベイを覆い、やがてセレニス州全土に広がった。
正義と愛が罰せられると思う?
特に私達のように穢れた者たちに」
「それなら──イレイナはどうなんだ?」
ルチアーノが苛立ちを隠せず、言い放つ。
「イレイナは魔女もイーサン・クロフォードとか言う奴に手出し出来ないようにした。
だけどイレイナ自身は別だろ?
さっきそう言ってたし──実際、その後もまじないを掛け続けてるじゃねーか!」
イレイナは余裕たっぷりに笑みを浮かべる。
「ルチアーノ、お前って頭を使えるのね?初めて知ったわ。
でも根本的なことを分かってない!
私は特別なの!
なんたってイーサンに最初にまじないを掛けたのは、この私なんだから!」
「それじゃあ、まじないも解けるだろ!?」
「だーかーらー!」
パチン、とイレイナはルチアーノの額を軽く叩いた。
「一瞬でも“お前が頭を使える”と思った私を、今すぐ引っぱたきたいわ!
イーサン・クロフォードには人間以外の“悪”は通用しないの。
私がこのセレニス州で使えるまじないは、彼に掛ける“善なる”まじないだけ!
最初に彼を止められるのは──神だけだと言ったでしょう?」
「じゃあ……イレイナの魔術でもノアを奪い返せないってことか!?」
リオの声は絶望に沈む。
イレイナは冷たく告げた。
「出来ないわ。
セレニス州では魔術は意味を持たない!
イーサンの科学捜査こそが呪いになるの!
法的に正当な手続きを踏まなければ、ノアは取り戻せない。
それと──リオ、あんたに忠告があるの」
「……何だよ?」
リオは真剣な眼差しでイレイナを見つめた。
イレイナの声が、鋭く突き刺さる。
「あんた、今まで生きてきて“指紋や血液の付着”を考えて生活したこと、ある?」
「な、無いよ!何でそんなこと気にするんだよ!?」
「だけど──イーサン・クロフォードは科学捜査のプロよ。
あんたやアーチボルト、ロクシーのやったことがバレたら……FBIに引き渡され、即刻法廷行き。
彼は科学であんた達を追い詰める。
逮捕され、起訴されるまで。きっとどこまでもね。
今はロクシーがハッキングで誤魔化してても──見つかるのは時間の問題よ。
今頃は、私の“盗まれた”爆弾を科学鑑定しているでしょうね」
すると、ロクシーがパッと顔を上げた。
「そういえば……あの爆弾は破裂した!
魔女の作った爆弾が、なぜ破裂するの?
セレニスでまじないは効かないはずじゃ──!」
イレイナが妖しく口の端を上げる。
「あれは悪魔撃退用の爆弾。
とてつもない威力を持っているの。
床に叩きつけられた衝撃で破裂はしたけれど──人間には完全に無害よ。
塵より無害。目を洗う必要すら無いくらい。
リオもロクシーもアーチボルトも、症状なんて出てないでしょ?
だ・け・ど。
S.A.G.E.とセレニス・ベイ署の合同鑑識チームは、そうは思わないでしょうね。
“被害者がいる部屋で爆弾を破裂させた”と判断するはずよ。
病院で病人を巻き込んで爆発騒ぎを起こすなんて──イーサンが絶対許すはずがない。
徹底的に化学分析されるわ。
そしてリオに対する疑惑は深まっていく。
被害者じゃなく、犯人側の人間じゃないかとね。
……どう考えても、イーサンの次のターゲットはリオじゃない?」
「……嘘だろ」
リオの声は絶望に震える。
――兄貴を救うどころか…自分が標的に…?――
イレイナはそれ見たことか、と冷ややかに笑みを浮かべた。
「それに──リオ。
病院のベッド周りの柵、拭いてきた?指紋が残ってるわよ。
髪の毛一本、落としてない?拾ってきた?
クラブ・ジョーに残されたあんたの血なんて、とっくにDNA鑑定に回されてる。
駄目押しには十分ね。
この安モーテルも──イーサン達に見つかるのは時間の問題よ」
イレイナの一連の言葉に、リオだけでなくアーチボルトもロクシーも、そしてルチアーノまでが青ざめていた。
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