【11】爆ぜぬ炎、燃えぬ爆発
翌朝。
イーサンはセレニス・ベイ署へ車を走らせながら、さっきの光景を思い出していた。
玄関まで見送りに来たノアが、少し照れたように手を振る。
「行ってらっしゃい」
だがイーサンが「昼には戻る」と声をかけると、くるりと背を向けてしまった。
――その仕草に、胸の奥が静かに疼く。
それは“かわいい”という単純な言葉で片づけられない。
守りたいと思う気持ちと、任務としての責務。
その境界が、少しずつ曖昧になっていく――。
イーサンはミーティングルームで、S.A.G.E.の捜査官や鑑識課のメンバーと証拠の見直しを進めていた。
その時——スマホが鳴る。画面には「ベック」。
「どうした?」
受話口から、荒い息を切らしたベックの声。
『イーサン…!やられた…あの大男に…!』
「落ち着け、ベック。何をされた!?」
室内の全員がイーサンを振り返る。
彼は通話をスピーカーに切り替えた。
『……爆弾だ!病室と廊下で……!』
途切れ途切れの声に混じって、ゼイゼイと呼吸音が響く。
「すぐ行く。病院は全員退避だ!」
『わかってる!それと——奴には仲間がいる!』
ベックは咳き込みながらも必死に告げた。
「もういい、ベック。救護班に見てもらえ」
『イーサン……頼んだぞ……!』
そこで通話が途切れた。
イーサンは全員を見渡し、短く告げる。
「聞いた通りだ。出動する」
「はい!」
その声と同時に、イーサンを先頭に全員が足早に部屋を後にした。
病院は大混乱だった。
駐車場を埋め尽くす病人と医療従事者達。
消防署員と爆弾処理班、バイオハザード対策専用防護服に身を包んだ者達。
救急車の後方に座り、目を洗浄してもらっているベックに、イーサンが「大丈夫か?」と静かに声をかける。
救命士が「炎症は起きていないようですが、落ち着いたら必ず眼科に行って下さい」と告げて立ち去ると、ベックは「やられたよ、注意してたんだかな」と唇を噛んだ。
イーサンは頷き、「最初から話してくれ」と促す。
ベックは息を荒げながら説明を始めた。
吊られていた大男は「リオ・ゴードン」と名乗った。
セレニスに兄と来たと言い、兄の名はノア・ゴードンだと。
だが番号を照会しても、サンドラ同様に記録は何も出てこない。
さらにリオは苛立ち出し、「兄貴はどこだ!?」と食ってかかった。
その時、スーツ姿の年配男性と黒髪の若い女性が現れ、滅菌室に入ってきた。
「……その後は一瞬だった」
ベックの声は悔しさで震えていた。
黒髪の女性が紫色のボールのような物をリオに投げ、リオが床に叩き付けた瞬間、小さな破裂音が響いた。
「煙だ……!一気に視界が塞がれて……!」
ベックは荒い息を吐きながら言葉を繋ぐ。
「その時だ。臭いが充満したんだ。卵の腐ったような……目に染みる……何とも言えない臭いだ。
床には骨のようなものまで散らばって……」
イーサンの瞳が鋭く光った。
「……火が無い、だろ?」
ベックは驚きに息を詰めた。
「そうなんだ!燃えていないのに、爆発したんだ!俺の目の前で!」
その時、爆弾処理班と毒物処理班が「クリアです!」と声を上げた。
イーサンは振り返り、捜査官たちに冷静に指示を飛ばす。
「スーツの男と黒髪の女に対応した警官から事情を聞け。カリスタ、ヴィヴィアン、バレス、マドックス──どんな証拠も見逃すな。空気すら採取しろ」
「了解!」
四人は足早に病院へと駆け込み、イーサンもベックの後を追った。
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