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セカンドコンタクト ~機動新世界ドヴォルザーク~  作者: 井出弾正
第2章 ファーストコンタクト
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第9話 戦国時代前後の日本

 五百年前。中世。一般的には五世紀から十五世紀。西ローマ帝国滅亡から東ローマ帝国の滅亡のあたり。日本では平安時代後期から戦国時代までのおよそ五百年間を中世とする。

 4隻の宇宙船が宇宙を彷徨(さまよ)った末、地球への進路を取った。銀河系の中心から三万光年。おとめ座銀河団・ 天の川銀河・オリオン腕・太陽系第3 惑星。


 地球の衛星軌道上に留まった4隻の宇宙船は、まずは上空から地球を観測した。我らの常識では考えられない解像度の高い映像の解析から始め、一隻だけ降下させ、数多の無人機をばら撒いた。その4隻の宇宙船で地球に現れた宇宙生命体を『セレン』と呼ぶ。


 セレンたちは驚いた。地球人とその文明の存在は予想されていたのだが、それ以上に驚愕の事実があった。地球人がセレンとそっくりなのである。


「こりゃあ凄い。完全に我々と同じヒューマノイド型だ。」

「特にこの大陸の東側にいる地球人類は、もう我々の親戚か何かとしか思えない。」


セレンの一人が指差した地図はユーラシア大陸。セレンはモンゴロイドにそっくりな形をしていた。髪や肌の色、体格や身体つきまで、何もかも。


「長老、映像データをご覧ください。これは。予想はしていましたが。」

「落ち着け。もう少し詳しく調査しよう。我々が、この星で生きていけるのかどうか。」


 大気の成分、地質、水質。危険な生物や細菌、ウイルスなど。調査する事があまりに多く、先程の話のように、とうとう宇宙船の一隻を降下させた。情報収集用の無人偵察機を放ち、約一年を掛けじっくりと調べ、会議を重ねた。


「この惑星を我らの第二の故郷としよう。」


 ユーラシア大陸に棲むある人種、民族に混ざれば、違和感なく地球人として生きていけると判断したのである。候補地は幾つかあったが、二か所に絞られた。顔までがセレン人と似ていたからだ。一つは中央アジアの山岳地帯。もう一つは大陸の東の島々。現在のキルギス共和国と日本国である。

どちらも地域によって差はあるが、低地の大部分は温帯気候で、彼らセレンには過ごしやすかった。湿度は大きく異なるが、彼らセレンとて、それまでに住んでいた場所に、それなりの差はある。


「我々には、中央の山岳地帯が一番住みやすそうです。この土地の民族の国民性は、謙虚で人見知りもしない。柔らかい雰囲気の文化で、おおむね平和です。セレンの民は溶け込めるでしょう。」

「ですが、東の島に一つ、ずば抜けて良い点があります。」

「ほう。それは?」

「とんでもなく戦上手(いくさじょうず)なのです。しかも、接近戦で強い。兵法や格闘術が成熟している。」


会議に参加し調査データを精査している者の多くが目を見開いて驚き、沈黙した。映像データなどにあるのは、セレンにはなかった戦闘技術だ。


「それは、東の島の民族からは吸収すべきものが多々あるということだな?」


 このセレン達は、実は地球とよく似た星で平和に暮らしていた。ところが、別の星から来た知的生命体に攻撃され、4隻の宇宙船で命からがら逃げてきたのだった。高度な文明を持っていたが、なまじ平和なために軍事力に乏しく、侵略者に抵抗できぬまま蹂躙(じゅうりん)され、生き延びた者たちは纏まりもなく散り散りに逃走した。この4隻の宇宙船以外にも、それ相当の数の宇宙船がセレンを脱出したと思われるが、その後の消息はまったく分からない。


優れた科学力を持ち、航空宇宙に通じ、恒星間航行に長けたセレンは、亜空間航法や人工冬眠、冬眠中の催眠学習、人工知能などを掛け合わせ、宇宙の長い旅を続け地球に辿り着いたのだ。そして、その地球はかれらの第二の故郷になりそうだった。彼らセレンとそっくりな民族に紛れてしまえば、地球人として生きていけそうだ。



 セレンの四隻の宇宙船だが、内訳は三隻が軍の所属。船団の旗艦となる巡洋艦と空母とそれを護衛する駆逐艦。一隻は民間の精密機械メーカー製の連絡船だ。連絡船には多くの避難民を乗せている。

会議が行われているのは、空母の艦長室の隣にある貴賓室。ほとんどの顔ぶれが軍人か、防衛、保安の部門の政府の官僚。民間人は僅かである。


「では、二手に分かれてはどうか。民衆には、大陸中央の山岳地帯で平和に暮らしてもらい、我々政治軍事を担う者は東の島へ行こう。」


指導者であるイザナワはセレン人を二つの集団に分けた。一つは侵略者(インベーダー)との戦いに備え、一つはセレン人の血統を絶やさないための保険としようと考えたのだった。


 勿論、キッパリと二つに分かれるわけではない。民間人を中心とした連絡船は中央アジアへ。軍人を中心とした軍艦3隻は極東の島へと降下。地下や海底に宇宙船を隠し、それぞれの地域の文化を学び、地球人として暮らし始めた。


 セレンにとって、地球はとても興味深い文化を持っていたが、とにかく争い、戦争が多いことには驚いた。地球人は簡単に殺し合いを始める。食物連鎖の頂点にありながら地球人がセレンに比べて繁殖力が高いのは、人間同士が殺し合うためだ。繁殖力が低いとどんどん人口が減ってしまう。人間には細菌やウイルスなどしか天敵がいないと思われたが、地球の人間の天敵は人間である。


 穏やかで平和と思われた大陸中央の山岳地帯の国でも、他国からの侵略、支配を受けた。東の島国では、室町幕府の力が衰え、下剋上の戦国時代。どこででも争いがあった。



 そして、特にセレンでも軍に所属する者は嫌がらずに戦争に参加した。地球人の戦術、戦争の道具、兵器を学ぶ事が目的。特に剣術や徒手空拳。

平和なために格闘技や白兵戦での陣形などは良く知らず、体術もスポーツの域を出ないセレンたちにとって、実践での格闘技は未知の技術。ミサイルやら電子戦といった戦争と比べれば、原始的、いや野蛮なものでしかないと思われるかもしれないが、彼らセレンには必要なものである。セレンの故郷、母星を襲った侵略者(インベーダー)と再び出会うことがあれば、地球人の戦術で戦おうと考えていた。

しかし、宇宙船で恒星間航行をする技術を持った宇宙人が、剣術や格闘術で戦争をするとは、あまりに常識外れだと思われるが、いかがなものか? セレンの母星を滅ぼした侵略者(インベーダー)が常識外れなものなのか?



 そして五百年経過。戦国時代だけでなく幕末の騒動、近代になってからの日清日露戦争、

太平洋戦争、世界大戦にテロ、国連のPKO(平和維持)活動など、様々な面から戦争、戦闘というものをセレンは学んだ。この五百年の間にセレン人は地球人と交わり、セレンと地球人の混血が普通に地球人として暮らしている。セレン人に比べ繁殖力の高い地球人と交わることで、子孫を残し易かったのかもしれない。セレン人の寿命もまた地球人と大差ない。


 見た目には、まったく地球人と変わらないセレンの子孫たち。しかし、もともと外宇宙を旅して地球に至ったセレンには、地球人には考えられない高尚な科学技術がある。そして、彼らからすれば原始人のような科学レベルの地球人を蔑むことなく、地球人から戦争の仕方を学び、また、地球人との間に子孫を残すという覚悟と懐の深さを持つ。


 いつか、母星セレンを滅ぼした侵略者(インベーダー)に一矢を報いる。その想いでセレン人の子孫たちは、地球人として暮らしながらも陰ながら努力し身体を鍛え、兵器を開発し、牙を研いでいるのだった。

 彼らは宇宙旅行の間に人工冬眠をし、その冬眠中にも催眠学習をする技術を持っている。その学習法によって、地球人と同じ年齢でも、より多くの知恵を身に着ける。セレンの子孫から「秀才」「神童」「エリート」などと呼ばれる人材を数多く輩出しており、所謂「名門」として国防、科学技術、医療など様々な分野で活躍している。


 ちなみに、キルギスに降り立った連絡船をヤマサチヒコと呼ぶ。日本に向かった3隻の軍艦はウミサチヒコ。それが三つに分離した姿である。前部のキャリアーが空母。後部のメインエンジン部が司令船の巡洋艦。下部の火力砲撃ユニットが駆逐艦だ。それぞれダキニテン、カンギテン、エンマテンと称する。


ダキニテン、カンギテン、エンマテンの3隻の軍艦から成るのがウミサチヒコ。民間の連絡船がヤマサチヒコ。

それぞれ、天部の仏、神話の海幸彦と山幸彦の兄弟が名前の由来。

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