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セカンドコンタクト ~機動新世界ドヴォルザーク~  作者: 井出弾正
第2章 ファーストコンタクト
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第10話 1年前 現在の宇宙戦争

 生命住居可能領域(ハビタブルゾーン)。大雑把に言って、液体の水が岩石の天体の表面に安定して存在することが可能な領域のことだ。単純には惑星のハビタブルゾーンならば、中心の恒星の表面温度と、そこからの距離による。木星の衛星エウロパのような、天体表面の氷の下の液体の水の中に生命が育まれていると期待される例もあるが。

 このハビタブルゾーンが、想像以上に広く分布していることが分かってきた。地球の太陽系のみでなく、太陽系外にも数多く存在する。


 宇宙は広大だ。知的生命体、所謂宇宙人が存在してもなんら不思議はないだろう。ただし、距離、時間といった隔たりがあれば、宇宙人どうしで出会う確率がどれ程のものか。すでに滅んだ宇宙人が遺した遺跡、痕跡とて、長い時間には朽ちてしまう。


 しかし、物理的な距離、時間、時空を超える知恵を持った宇宙人も存在した。宇宙人どうしが接触したら、はたしてどうなるのか? 友好的に交流できれば良い。が、なかなかそう上手くはいかない。ましてや、初めから友好的に接触する意思がなかったら猶更(なおさら)だ。



 自分たちの住む惑星を『クルズ』と呼ぶ宇宙人。そのクルズは地球によく似ているが、やや大きい。クルズ人は科学技術が発展し、重力が大きい分だけ地球人より腕力が強いが、地球に似ているだけに外見もメンタリティも地球人に近い。


 クルズは非友好的な異星人と接触した。いや、向こうから接触してきた。一方的に。バイレットだ。


 小惑星か大きな衛星ほどの天体と同等の質量を持った正八面体の巨大な宇宙船。それから全長四キロほどの大型の宇宙船2隻。それに追随する一回り小さい中型宇宙船4隻。小型の5隻の合計で12隻。

 クルズの哨戒任務を負った宇宙船が遠巻きに様子を窺(うかが)って、少しづつ距離を詰めようとしたところ、いきなり発砲された。これが宣戦布告だった。クルズと外敵は、たちまち戦争状態。


 クルズは地球人ほどではないが戦争をしてきた歴史があるため、それなりの軍事力を有していた。だが、まったく歯が立たない。クルズの軍隊の装備は実体弾のミサイルなどはほとんどないが、電子戦や熱戦砲やビーム兵器などに秀でている。エネルギー効率、運用率、など安定した軍事行動を目指した設計思想がある。一方で相手側の兵器は物理的に強力な攻撃、防御。結果と力づくな軍事力、そして姦計、策略で上だった。単純に強い。囮を用意し、その被害を気に留めるでもなく、淡々と作戦を遂行して戦果を重ねた。

 非友好的な宇宙人は、小さめの宇宙船五隻でクルズの惑星の地表へと降下。そこから数多(あまた)の機動兵器メカニカルビーストを展開し、地上で破壊と殺戮の限りを尽くした。クルズの惑星の表側にある戦力は地上戦へ。惑星裏側にあった戦力は大気圏を出て宇宙へ上がり、そのまま惑星を半周分回り込んで、衛星軌道上で外敵の四隻の中型船との戦闘となった。中型とはいえ、バイレットにはさらに大型、巨大な正八面体があるために比較的にそう呼ぶだけで、随分に大きい。全長1000メートルを超える。


 バイレットの機動兵器は無人機。クルズの有人機と違い、無理な急加速・急制動・方向転換、非常識な姿勢制御を繰り返す。有人ならばGに耐えられず、パイロットがまいってしまう。基本的なスペック、攻撃力は高いはずのクルズの兵器群がバイレットのメカニカルビーストに翻弄され、次々に葬られていく。

バイレットは戦い馴れていた。火力の大きいクルズの銃火器を塞ぐために接近戦(クローズコンバット)を仕掛け、同士討ちにも持ち込んだ。無人機で自らの被害を恐れないことも優位となった。見方を換えれば、クルズの軍人たちには恐怖を植え付け、抵抗する意欲をも削いだ。


 クルズの宇宙海軍の哨戒部隊に属する駆逐艦ユーモレスクは特殊な任務を命じられた。母星クルズから離れた位置にいた駆逐艦ユーモレスクは、DSドライブで時空を跳ばない限り、すぐに戦闘には参加できない。ひとまず非常時での戦闘速度で航行し母星を目指していたが、宇宙海軍の提督から直接の通信が入った。


「戦況は酷いものだ。我々には勝ち目がない。地上では、地の利を活かし敵宇宙船の二隻を撃沈したが、そこまでだ。地上は火の海になっている。侵略が目的ではないのだろう。接収などしない。殲滅だな。あらゆる物を破壊し、殺戮している。宇宙では、さらに大型の宇宙船四隻との戦いだが、まったく手も足も出ない。このままでは我が軍は全滅。クルズは滅びるだろう。

 だから、君たちは帰ってくるな。オリオン腕の別の天体へ向かえ。」

「オリオン腕でありますか? そこに何があるのでしょうか? 」

「座標などのデータは送る。戦闘についてもできるだけの情報を。大本営の戦略情報室が予想した敵の次の目的地だ。敵のこれまでの航跡などを分析した。そこには、文明を持った知的生命体がいると思われる。そこへ危機を伝えに行くのだ。これは銀河全体の危機だと大本営は判断した。」

「そんな! 」

「重要な任務であり、至上命令だ。君たちだけでも生き延びなさい。そしてオリオン腕の異星人と協力して、敵と戦うなり逃げるなり、対策を講じなさい。

 おそらく、敵の目的は侵略ではない。破壊と殺戮。我々を滅ぼすことが目的だ。」


 提督らは死ぬ覚悟をしていた。そのうえでユーモレスクを逃がそうとしていた。


 『ユーモレスク』は駆逐艦とはいえ最新型。小型だが哨戒任務にあたるために航続距離も長く、DSドライブのシステムも観測用のセンサー類も重巡洋艦並みの物を積んでいる。オリオン腕への航行など余裕を持って行える。

 そして、ユーモレスク艦長のスメタナは、この艦に逃げろと命じるもう一つの理由についても考えていた。提督の座上艦『バルトーク』は最新型ゆえにオートマチック化が進み、少ない人員で運用可能。艦の大きさの割に船室が広く居住性が良い。同時期に建造された『ユーモレスク』も同様で、乗組員の三人が王族なのだ。王位継承権は高くないのだが、クルズの王室からは伝統的に軍人を出しており、ユーモレスクにも在籍している。ユーモレスクが逃げれば、王族の血筋を護れるということだ。そして今回は王位継承権の人物もイレギュラーで座上している。軍事活動の視察のためだった。その王位継承権を持つジェイム・フラド・ギーバは決断した。提督の座上艦バルトークに向かい敬礼。


「オリオン椀を目指そう。次の希望を探しに。」


艦載機ドヴォルザークのパイロットであり、王位継承順位は低いが王族であるアーク・フラドが真っ先に同意した。ついで他の乗組員(クルー)たちも。ここにバイレットを恐れない者たちがいた。


「そうでうね。少なくとも我々は生きています。」


 秘匿通信で届いたバルトークからのデータでは、バイレットの恒星間移動の能力ではユーモレスクには追い付けない。先にオリオン椀の地球へと辿り着くはずである。


 くせっ毛の航海士のウーピーが亜空間の超光速航行の座標のを設定入力を済ませた。近く娘が結婚する予定の彼女もハスキー腹を括っていた。ハスキーボイスで報告する。


「スメタナ艦長、コクヨ操艦士、いつでもどうぞ。」


 クルズの最新型の宙哨戒艦「ユーモレスク」は銀河の反対側を目指しDS《ディメンジョンスペース》(亜空間)へと飛び込んで行った。



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