新たなる挑戦②
「すまない、こんなこと頼めるのはお前しかいなかったんだ」
定年を来年に控えた調教師は騎手に向かって頭を下げた。
「やめてくれ、ただでさえしょぼくれているのに。あんたの気持ちはわかるが……、もっと堂々としてくれ」
言われた騎手はそう言い返す。
お互い調教師と騎手としてキャリアを積み重ねてきたがうだつの上がらないままここまでやってきた。
「どうしても断りきれなかった。最後に夢を見たいというオーナーの思いに答えたかった」
「だったら…、こんなところで……。わかった。やってやる。でもな、あくまでこれは予選だ。本番に出れるかどうかはわからんぞ」
「だからだ。一か八か、オーナーを喜ばしてくれ」
騎手の答えはない。騎手残せる頭の中ではすでにレース展開が描かれていた。
「絵に描いた餅にならなければいいけど」
不安しかない心中で彼はやれるだけやろうと決意を固める。
「予選だというのに……。何を殺気だっているんだ」
そんなやり取りを知らない他の騎手たちは異様な雰囲気に呑まれそうになっていた。
「ちゃんと無事にレースが終わりますように」
そう祈らずにはいられないほどに」
各馬はコースに入り思い思いに返し馬に入る。
エンドロールはあえて外ラチ沿いを走りスタート地点に向かう。観客に対しアピールをするかのように。
それに対し観客は盛大に声援を送る。圧倒的格差の中、地方から中央に果敢に挑んできた勇者に過大な期待を込めて。彼らは弱者が強者を打ち倒すといった話が大好きなのだ。一度は破れた彼らが再び挑んできたことに観客たちは自らの人生を重ねている。
「ダービーは夢の舞台、その枠をお前らごときに渡せるか」
一人、敵意を向けるマツワカ、だが彼は地方からの出走馬がもう一頭いることを忘れていた。その忘れられたほうがエンドロールよりも人気になっていることも。
「嬉しいねぇ。ちゃんと見ていてくれるんだ。だったら期待に答えないと」
イワザワは気持ちが高ぶっていくのを感じた。地方では10戦負けなし、ダートと芝の違いがあるとはいえ、十分に戦えると判断したからこそ残せる参戦である。
「イソダさん、あんたが造った道、使わせてもらいますよ」
イワザワはイソダを見つめる。それは先駆者に対する尊敬の眼差し
「だけど、これは勝負。あんたより前にいって恩を返します」
決意を込めて彼と騎乗馬はゲートに入っていく。
各馬ゲート入が完了、係員が離れゲートが開く。
各馬一斉にスタート、だが次の瞬間、衝撃がはしる。エンドロールが出遅れたのである
