新たなる挑戦③
逃げ馬がスタート出遅れたらどうなるか、もう最悪な事態しか考えられない。それがわかっているからエンドロールの勝利を信じて疑わなかった観客たちからは悲鳴にも似た歓声があがる。それは騎手たちにも影響を及ぼしていた。
「おいおい、そりゃねぇぞ。俺が目印にされてしまう」
マツワカの指示通りスタート直後からハナにたって逃げ切り態勢に入ったがともに先頭に立つはずだったエンドロールの出遅れにより計画に狂いが発生した。
代わりに隣にやってきたのは逃げ宣言をしたもう一頭、こちらも当初の予定どおりとはならなかった。
「良いか悪いかはわからないがこうなったら仕方ない。やるだけのことをやるだけだ」
2頭は逃げをうちながらもお互いを牽制しあっており、思ったほどペースはあがらなかった。そのことがエンドロールに挽回のチャンスを与えた。
「どうなることかと思ったがどうになりそうだ。落ち着け、ムリに行く必要はない。このままだ」
前に行こうとするエンドロールを宥めながらイソダは今後のことを考える。
「うまくいけば大きな武器になる。あんまりペースはあがってないようだしやる価値はあるな」
最後方から眺める景色、エンドロールに騎乗したときは見ることのなかった景色にイソダは覚悟を決める。
「俺を信じろ、いつもと違うお前を見せてみろ」
その言葉がエンドロールに届いたのか、エンドロールは落ち着きを取り戻し、イソダを信じるかのようにペースを緩めるのだった。
「一体、あの人は何を考えているんだ」
イワザワは違和感を感じていた。彼は常にイソダの背中を見ていた。いつかあの人と肩を並べる存在になりたいといつも思っていた。あのレースを見て彼は本人以上にがっかりしていた。そして思った。あの人ができなかったことを、俺がやれたなら、と。その思いは届く位置まできていた。こいつと出会えたことで。
手綱を握る手に自然に力が入る。たが、彼は冷静であった。セオリー通りに中団につけた彼は仕掛けるタイミングを謀っていた。戦闘を走る2頭を注視する彼にとっては後ろは関係なかった。イソダのことは頭から全く消えていた。だから後ろで何があったのか気づかずにいた。
後方の集団から一頭がふらふらしながら脱落してくる。どうやら足を痛めたようだ。騎手は馬の動きがおかしくなったことに慌ててたつなおそうとするがうまくいかない。足取りがおぼつかなくなり、どんどんとエンドロールに近づいてくる。
「危ないな」
イソダはそれを躱そうと進路を変えるがその方向に下がってくる。
「クソっ!!」
交わしきれず接触する。レースに影響はなさそうに思えた。
「まずい、抑えきれない」
イソダはなんとか抑えようとするがエンドロールはそれを無視する。
接触した瞬間エンドロールはキレた。落ち着いていた彼は接触したしたことにより怒りに怒った。イソダの指示を聞くことなく全力で走り出した。それはなにかに向かって暴走するかのようだった




