駆け引き②
後方で集団を形成している状態を嫌いプレセンシアは外にもちだしながら前へとでていく。オシタニにとっては前にいるマドロームは絶好の目標であった。他の馬が撒き散らす水しぶきを気にならずそれでいて自分のタイミングで勝負できる位置がそこだった。
「マドロームにあわせて」
そう指示を出した。余分に距離を走ることになるのは仕方ない。今は自分のペースを保つことが重要だと考えた。
有力馬が前にいくなかシュプリームは動かない。なにが起こるかわからない。無理をする必要はない。こいつは馬ごみを嫌うことはない。一旦走り出したら周りを気にしないし。あの連中が前に行ったのは幸いだ。ルシエールはそう考える。
「うっとうしいもんだね、やっぱり」
イソダは付かず離れず微妙な位置にいるダークネスアローが気になって仕方なかった。クマダはあえて微妙な距離を開けておくほうがプレッシャーを与えられると考えていた。なにかミスをしてくれれば、そう思っていた。
「そうはいくか」
イソダはそんなプレッシャーと戦いながらもペースを一定に保つ。 「ゴールするまでの辛抱だ。仕掛けるタイミングさえ間違えなければ……」
しかしこのプレッシャーは確実にイソダの精神を削っていく。
そんなみえない戦いを繰り広げている二頭の後ろでただひたすらそのときを待つウラタ、クマダの騎乗ぶりを不安に思う。
「プレッシャーをかけてミスを誘うのか。俺があれをくらったらとっくに終わっていたかも。よく耐えているものだ」
ひそかにイソダを誉めていた。ただイソダは逃げ馬に騎乗することが多く追われる展開には慣れていたかこそであろうが。地方においてはずいぶんと汚いやり方が横行していると聞く。こっちのやり方はあいつにとってはまだきれいなものなんだろうな。ウラタは勝手にそう思った。
先頭は三コーナーに差し掛かる。まだペースは淀みなく流れている。どの馬も仕掛けてこない。仕掛けどころはまだだな、イソダもクマダニもウラタもそう思っていた。だがルシエールはこの段階になってこれはまずいとシュプリームを外に持ち出し一気に前方へと進出する。
前方のみを気にしていたウラタはマドロームが何かを気にし出したことを不思議に思っていた。
「後ろは気にしなくていい。前の動きをよく見ておくんだ」
ウラタはそう言ってマドロームを集中させようとした。だがマドロームはそれを無視するかのように後ろを気にしだした。
「どうした?」
不審に思ったウラタは一瞬後ろを振り返る。彼の視線はこのとき初めて近づいてきたプレセンシアをとらえる。
「どうしてここに?」
「やっぱりここがいい。しばらく付き合ってください」
なんか誤解されそうなことをオシタニは言った。




