駆け引き③
エンドロールは後ろからの強烈なプレッシャーを感じながらもペースを乱すことなくラップを刻み続ける。ただ鞍上イソダは不安な気持ちを隠すように深く息をはく。
「落ち着け、落ち着け」
呪文をとらえるが如く繰り返し自分自身に言い聞かせる。
エンドロールは逃げ馬、後ろからのプレッシャーを感じるのは当然である。だがここまで強烈なのは今まで感じたことがない。ミスが無いように自分の意識を保つことに精一杯であった。
追いかけているダークネスアローにも多少の疲れが出ているようではある。いくら道悪が得意といってもここまで荒れているとさすがに脚色は鈍るようだ。
「どうだ。ペースを落とすか?」
一応クマダは声をかけてみる。当然返事が帰ってくるはずがない。だがダークネスアローはその問いに応えるかのように一瞬首を横に振ったようにクマダには見えた。
「そうか、じゃあ4コーナの入り口で仕掛ける」
クマダは自分に言い聞かせるように呟くとそのときを待った。
「なあ、先に仕掛ける気はないか?」
ウラタは隣にいるオシタニに聞いてみる。だがオシタニは答えない。
「当然だな。こんなのに引っ掛かるわけがない」
こんなうっとうしくまとわりつく雰囲気を少しでもまぎらわそうとしていたのだがこんな下らんことをしてどうにかなるわけでもない。
隣のプレセンシアが気になるのかマドロームは幾分落ち着きがなくなってきている。
「もう少しの辛抱だ。三コーナーで仕掛ける。そのあとはお前次第だ」
ウラタはマドロームが頷いたように見えた。
「厳格化が見えるようになったのか。相当疲れているようだ。思っている以上にきついな」
前にいる三頭が精神力を削っているなかオシタニは落ち着いていた。
「やっぱりそばにいたいのね。ここにきて正解ね」
プレセンシアが折り合っていることに安心したオシタニは仕掛けるタイミングをはかる。そしてふと思う。
「自分で仕掛けるなんて初めてだ。大丈夫かな」
急に不安な心が表にでてきた。
「問題ない。自分のレースをするだけだ」
プレセンシアがそう自分に言ってきているような気がした。
「そうよね」
オシタニは集中力を取り戻していく。
先頭のエンドロールは三コーナーに入っていく。だがエンドロールは曲がりきれず外側に膨らんでいく。観客たちはイソダがミスをしたのだと思った。クマダもそう思った。五馬しんほどあったリードはたちまち縮まっていく。だがそれはミスではなかった。クマダは空いた内ラチ沿いにダークネスアローを導いていく。直後クマダは異変に気付く。だが遅かった。ダークネスアローは体制を崩しクマダはあやうく落馬しそうになった。
「あのやろう、嵌めやがった」
イソダは三コーナーに入る際に馬場がある場所だけ異状にえぐれていることに気付き、そこにエンドロールが侵入しないようあえて外側にエンドロールを振った。それをミスだと勘違いしたクマダはごく当然のように空いたスペースにダークネスアローを誘導した。そしてダークネスアローはそのえぐれた場所に踏み入れた。
作戦に嵌まったダークネスアローを尻目にエンドロールは再びリードを広げた。4コーナーに入り磐石とも思えるほど後続を引き離した。その場にいた観客たちはエンドロールの勝ちを確信したのだった




