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俺は善人なんかじゃない  作者: エクレアだった物
第一章 春の日、面倒事は向こうからやってくる

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第1話

初投稿ですよろしくお願いします。

四月。


 高校二年生になった俺――大波一陽(おおなみかずはる)は、朝の教室で窓の外を眺めていた。


 桜はもう散り始めている。


 風が吹くたび、校庭の端に残った花びらが宙を舞っていた。


「……眠い」


 思わず口から出た言葉に、隣の席から声が飛んでくる。


「朝からそれかよ、ハル」


 狭山照平(さやましょうへい)。


 俺の中学からの親友であり、俺とは何もかもが正反対の男。


 身長は高い。顔もいい。運動神経もいい。


 そして――勉強は壊滅的。


「お前、朝から元気だな」


「俺は健康優良児だからな」


「昨日、夜中までゲームしてたって言ってなかったか?」


「細かいことは気にするな」


「それを細かいことだと思える精神性が羨ましいよ」


「褒めてる?」


「褒めてない」


「ひでえ」


 照平が笑う。


 こういうくだらない会話をしているときだけは、俺も肩の力が抜ける。


 俺は人付き合いが得意じゃない。


 正確には、人と関わること自体が嫌いなわけじゃない。


 ただ、俺はどうにも言葉を選ぶのが下手らしい。


 自分では普通に言ったつもりのことが、相手には妙に冷たく聞こえる。


 だから友達は少ない。


 別に困ってはいない。


 ……たぶん。


「そういやハル」


「ん?」


「今日、放課後暇?」


「嫌な予感しかしない」


「まだ何も言ってないだろ」


「お前がその聞き方をするときは大体面倒事だ」


「信用ねえなぁ」


「過去の実績があるからな」


「じゃあさ――」


 照平が何か言いかけた、そのとき。


 教室の前の扉が開いた。


「大波くん、いる?」


 女子生徒が一人、こちらを見ていた。


 見覚えがない。


 少なくとも、直接話したことはないはずだ。


 肩まで伸びた髪。


 制服をきちんと着ていて、姿勢もいい。


 クラスメイトの何人かが彼女に視線を向ける。


 女子生徒は少しだけ緊張した様子で、俺の席まで歩いてきた。


「大波一陽くん……だよね?」


「そうだけど」


「よかった」


 彼女は小さく息を吐いた。


 そして、頭を下げる。


「お願いしたいことがあるの」


 俺は数秒黙った。


「……断っていい?」


「え?」


「今の段階で『お願いしたいことがある』と言われた場合、俺にとって都合のいい話である可能性が極めて低い」


 彼女が目を丸くする。


 照平が隣で頭を抱えた。


「ハル、お前そういうところだぞ」


「事実だろ」


「事実でももうちょっとこう……」


 俺は女子生徒を見る。


「で?」


「……実は」


 彼女は少し迷ってから口を開いた。


「昨日から、妹と連絡が取れないの」


 教室の空気が少し変わった。


 俺は姿勢を正した。


「妹さん?」


「うん。高校一年生。昨日の夜から帰ってきてなくて……でも、警察に相談するほどのことなのかも分からなくて」


「家族には?」


「言えてない」


「なぜ?」


「……喧嘩したから」


 なるほど。


 俺は机の上に置いていた筆箱を閉じた。


「それで俺に何をしてほしい?」


「妹を……探すのを手伝ってほしい」


 照平が俺を見る。


 俺は彼女を見る。


 そして、小さく息を吐いた。


「分かった」


「え?」


「手伝う」


「いいの?」


「勘違いするな」


 俺は立ち上がる。


「別に君を助けたいわけじゃない」


 女子生徒が戸惑ったように瞬きをする。


「妹さんが見つからないままなのは、単純に問題が解決していない。俺は未解決の問題が嫌いなんだ」


 照平が苦笑する。


「はいはい。そういうことにしとくよ」


「何だよ」


「別に?」


 その言い方が妙に腹立たしい。


 俺は女子生徒に向き直った。


「名前は?」


「……海老名(えびな)美月(みづき)」


 それが、俺の高校生活を大きく変えることになる少女――


 海老名美月との最初の出会いだった。


 ただ、このときの俺はまだ知らなかった。


 彼女の妹を探すことが、単なる人探しでは終わらないことを。


 そして、この春をきっかけに。


 俺の周囲には、一人、また一人と。


 今まで関わることのなかった人間たちが集まってくることになる。


 俺自身が望んだわけでもない。


 ましてや、主人公になりたいと思ったことなんて一度もない。


 それでも――。


 困っている人間を見つけてしまった以上。


 俺はきっと、また首を突っ込む。


 それがどれだけ面倒なことになろうとも。

なにもかもが始めて。

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