6話【不幸胸三寸】
この不幸は現実なのか虚構なのか。見極めることはできない。誰も教えてはくれない。
逃げたはず。そうだ、あの怪物から逃げて…たしかシュウテとはぐれてしまったんだ。
「ツィル!」
「王女様!?」
傷だらけの王女様が私の手を握ってくれた。それだけで心が幾分か落ち着いた。ホット一息はいてしまうと足が震えてへたり込んでしまう。二股に分かれた尻尾も垂れ下がる。
「大丈夫?」
「は、はい。王女様は…?」
「私も大丈夫だよ!」
胸を張る王女様はいつもの自信に満ち溢れている。
「それにしてもあの怪人…何をしたいのかわからないよね…あ、その石躓きやすいよ」
問題児のロゥムのせいだったら笑って許せる範囲なのに。そう言えばあの子は今どこにいるんだろう。あの結界に入った様子も無いし。
王女様と2人でひたすら遠くに歩く。
疲れているんだろう。ショックなこと続きでぼんやりして道がグニャグニャする。
「おぶろうか?」
「いや!王女様にそんなことは!」
しかしおんぶされてしまった。重くないかななんて日常に戻ったみたいでなんだか変な息が漏れた。どちらも現実だ。紛れもない現実で。でも今だけは少しもたれかかって休みたい。
目を覚ますと深い森の中を歩いていた。
「お、起きたね…今からユマおばぁちゃんのいる『おやすみの泉』に向かってるよ」
「ふぁ……」
「あら、まだ眠い?」
「すこし…」
ふわふわと目の前が少し白くかすんでいる。眠りから目を覚ました後のあの視界。
グラリと、体が揺れてしまう。王女様が石にでも躓いたのかと心配して「大丈夫ですか?」と聞いた。
だれもいなかった。
「あれ?」
「えっ、え、ぅえ?」
夢?いやちゃんとお話したはず。
いつから現実だったっけ…王女様の手のぬくもりは感じていたのに。背中のぬくもりもちゃんとあったはず。
いつから私は幻覚を見ていた?シュウテとはぐれてしまって…それでその前はガブスが食べられて…
あれ…?今私は何処にいるんだっけ。
目の前はちゃんと森の中。ちゃんと…?
王女様が『おやすみの泉』まで運んでくれていたのに。
………
それに…
王女様はユマおばあちゃんに看病されてたよね…?
後ろを振り向くがやはり王女様がいない。
「……ねむい、つかれた…」
ずっと歩いてた訳ではないおぶられていたのに足がずきずきする。
この足の痛みは本物なのか…?
私は今夢を見ているだけ…?いやそんなことはない。あの恐怖も動かなくなった友達も確かにあった。ないなんて言ったら最低なのではないだろうか。
毎日楽しい。そう、昨日も友達と話をしてゆっくりおいしいものを食べてた。もしそれが嘘なんて言ったら嫌だ。もう自分の心が記憶が…もう、もう…信じられない。
オゥメは結界になった。これは本当。おかげで安全だった。
…でもその後はどうなったっけ…。
私は怪我をした?
確か転んだ。…本当に?
ずっとずっと歩き続けて目的地もわからなくなった。今追いかけられている?いや、それはないはず。
私は今何を考えているんだったか。
かさかさと木々をかき分け葉を踏み潰す音が聞こえた。
「あぁ、見つけた…お前は玩具か?それとも原住民か?」
「…、わからない…」
「喋ったな。ならお前は生きているやつだ」
…そうなのだろうか。
「私は…生きてるのかな…それとも死んでいるのかな…」
「俺が殺すから死んでいるな」
でも、目の前のこの人が本当に生きているのだろうか。私の夢じゃないだろうか。
死にたくないと思っているなら生きているはず。私はひたすら走った。
何度も転びそうになりながらも必死に逃げた。ゆっくり歩んでくるあの怪人が小さくなっていく。
しばらく走ってたら自慢の二股の尻尾火がついていることに気がついた。
「げぃ、ぎや、ぎぁっ…!」
身体が焼けただれて動けなくなりそのまま焦げていく…。
森の中が真っ赤になっている…。こんなことになるなんて…私はこのまま身動きが取れないまま倒れ伏した。
ツィルが『おやすみの泉』で一人で溺死しているのを発見されるまであと少し。
しかしそんな地獄の状況でも嘆く暇はない。戦わなければならない。戦わなければもっと死ぬ。




