表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の召喚体(いもうと)たちが優秀(やり)すぎる!  作者: かみきほりと
辺境領主の召喚術士、未来のために奮闘する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

270/283

270 謎の病魔

 気付けば……っていうのも変だけど、俺には七人の妹がいる。


 年長の三姉妹は十八歳になる三つ子で、上から……王都でキッシュモンド商会の会頭を務めるミア、クレイン男爵にして紅玉の聖法騎士であるディアーナ、家事万能なサンディーの順になっている。

 年中の二人は、十六歳のメイプルと、十四歳のシア。

 十二歳になる年少の双子は、上が暗殺者((しのび)?)のクロエ、下がサクヤとなる。


 サクヤだけが精霊契約を結んだ精霊で、残りは俺が召喚した召喚体……つまり、この中に血のつながった妹はひとりもいない。

 だけど、(まご)うことなき妹であり、かけがえのない大切な家族だ。




 メイプル、シア、サクヤを引き連れて城主(とう)三階展望広間に向かったら、サンディーが歓談(ティータイム)の準備を整えて待っていた。

 ……いつもロアが着ている、ロングスカートのメイド姿で。


 綺麗な長い金髪を、今は邪魔にならないよう三つ編みにしてまとめ上げ、いつもの青い瞳……ではなく、赤味を帯びた瞳を俺に向けている。

 ……どうやらまだ、俺の所業は許されてないらしい。


 この部屋は広く、五人の妻と七人の妹が全員集まってもまだ余裕がある。だけど、今はサンディーを含めて五人だけ。それでも寂しさより穏やかさを感じるのは、サンディーの手腕によるものだろう。

 主塔の上階ほどではないけど、ここから見る景色もいいものだ。

 上等なクロスが掛けられた窓辺のテーブルには花や香草が飾られ、(ほの)かな香りに乗せて爽やかな気持ちを運んでくれる。


 (ひか)えめに(とも)る室内灯は、外の明かりだけでは足りない光量を(おぎな)いつつ、日の()さない壁際に飾られた風景画、骨董品らしき壺、見事な生け花などを輝かせる。

 その中に、自分が主役だとばかりに俺が焼いた陶器のコップが並ぶ。

 全部で七つ。随分(ずいぶん)と世話になったけど、使う機会がめっきり減ってただけに部屋の装飾へと回したんだろう。場違いで気恥ずかしいけど、こうして見ると不揃(ふぞろ)(ゆえ)の奥深さがあるようで、芸術作品に見えなくもない。

 光の加減か、その色か、配置の関係なのか分からないけど、部屋の雰囲気がいつもと違って見え……全く似てないのに、ふとカルミ子爵邸のことが頭に浮かんだ。


「まるで貴族の屋敷だな……」


 無意識とはいえ、あまりにも間抜けな言葉が転がり出てしまった。

 羞恥(しゅうち)と焦りを隠しつつ、周りに聞かれてないことを祈ったけど……


「お疲れ様です、()()()。皆様もどうぞこちらへ」


 その祈りも(むな)しく、笑みを浮かべたサンディーは「領主様」を強調しながら、芝居がかった身振りでみんなに座るよう(うなが)した。

 サンディーの指摘通り、俺は領主──つまり、貴族である。ここは領主城内にある俺の家だから、「貴族の屋敷()!た《・》!い《・》」ではなく正真正銘貴族の屋敷だ。

 高級そうなワゴンには、これまた高級そうな陶器製のティーセットが乗っていて、その(かたわ)らに立つサンディーも見事なメイドっぷりを魅せている。


 町の領主館は、執務に特化した場所ってこともあって、あらゆる無駄が(はぶ)かれている。だけどここは、無駄や贅沢が当たり前のように存在していた。

 外壁に囲まれた城の内部はミレンスの町を丸ごと入れても余裕があるほど広く、池や水路、いくつもの建物や塔、広場や庭があり、外壁さえも装飾に()っていた。

 まあ、そのせいで、用途が決まってない場所は放置されたままだし、城主(とう)の内装も整ってるのは一部のみ。

 城主(とう)はマリーたちが暮らす場所だし、一応ながら俺の本邸でもある。だから優先して工事が進められたけど、まだ半分近くが放置されたままだ。

 

 お金が足りない……わけじゃない。資金は十分に足りている。

 国から支給された支度金があるし、この前の褒章や特命官の報酬、悪党退治の賞金などもある。

 それで足りなければ、……これは本当に最後の手段だけど、妹たちの貯金があるし、キッシュモンド商会を頼ってもいい。

 

 では何が問題なのかといえば……とにかく職人が少ないことに尽きる。

 いくら民家の建築で素晴らしい実績を誇っていても、城や貴族の屋敷となると工法はもとより材料からして違ってくる。つまり、集まったのは素人同然と言っていい。

 王都から専門の職人を呼べればいいけど、それだと費用も時間もかかりすぎる。それに、今後のことを考えたら、何かある度に呼ぶのは効率が悪い。

 ニーバス伯爵家の(はか)らいで職人を都合してもらったけど、それでも人手が全く足りていない。けど、それは織り込み済みで、今は領内の職人に勉強してもらいつつ、作業に優先順位をつけて順番に進めてもらってる状態だ。

 時間はかかるけど、いずれ領内の職人だけで城の補修が行えるようになれば、その恩恵は計り知れない。

 

 それはそれとして、俺の心の問題もある。

 多少は(うわ)向いてきたとはいえ、領内は相変わらず貧しいままで、民の暮らしも貧しいまま。なのに、領主がこんな贅沢(ぜいたく)をしていいものかという思いが消えない。

 いやまあ、伯爵となったからにはそれなりの(かく)を示す必要があるし、住む場所もだけど、俺も相応の気品や教養を身に付けなければならない。その為には、まず贅沢(ぜいたく)に慣れる必要がある……っていうメイプルの説明には納得したけど、それでもやっぱり気が引ける。

 

『焦る必要はありません。全てはこれからですよ』

 

 突然の念話に驚き、メイプルを見る。

 どうやら、俺の心はお見通しらしい。

 

 席に座って談笑用の小さなテーブルを四人で囲むと、サンディーは本職のメイドさながらの流れるような動きで紅茶や菓子を並べていく。

 お茶代わりに破棄(クズ)野菜から煮出したスープを飲んでた頃とは大違いだ。……まあ、あれはあれで悪くなかったけど。


 俺の前には、ティーカップではなく黒い液体が揺れるコップが置かれた。

 木の実を(いぶ)した中に、ほんのり果実の甘さを感じさせるような……、そんな独特の香りが、嗅覚だけでなく味覚や苦い思い出までもを刺激する。

 コップに口をつけ、空気を含ませながら慎重に(すす)る。

 口の中だけでなく全身に刺激が広がっていく。だけど、思ったより苦味は薄く、苦行の果てに喜びを見出すような……、(かす)かな甘味が舌の上に残る。


 初めてコーヒーを飲んだのは、まだ俺が王立学院の生徒だったころ……

 学院には、災厄の魔女(フェルミン)に才能を見いだされたという繋がりで、俺のことを何かと気にかけてくれていた召喚術科の先輩がいた。

 姐御肌(あねごはだ)というのか、陽気な人で、たまに気分転換だと言っては召喚術科の生徒を学院の外へと連れ出していた。

 俺も何度か誘われ、あの日は王都に新しくオープンしたというお洒落なカフェに立ち寄った。その時に勧められたのがコーヒーだった。

 人生初のコーヒーは、予想外の味に驚いて()せ、盛大に撒き散らして爆笑された……という苦い記憶になった。

 そういや、笑いを(こら)えながら介抱してくれたのが、リリーベルだったような気がする。


 つい物思いに(ふけ)ってしまったけど、そんなことより……


「ロアの様子は?」

「やっぱりちょっと調子が悪いみたい。お兄ちゃ……」


 途中で言葉を切ったサンディーは、コホンとひとつ咳払いをして言いなおす。


「ご心配なのは理解しておりますが、領主様(みずか)ら足を運ぶのはご自重願います」

「分かったって、俺が悪かった。……ロアの代わりをしてくれるのは助かるけど、落ち着かないからいつものサンディーに戻ってくれ……」

「気にかけてくださり恐縮にございます。領主様、本日これより(わたくし)サンディーがメイド長代理を務めさせていただきます」


 俺の願いは、やんわりと拒否された。

 なんともよそよそしいけど、サンディーがこうなった原因は俺にある。それだけに、あまり強くは言えない……




 俺は仕事があるので町の領主館で暮らしてるけど、妻たちは城に住んでいる。

 とはいえ、一日一回は階段を上って城に通い、城主(とう)にも立ち寄っている。


 ここ数日、妻たちが(そろ)って体調を崩してしまい、今朝になってついにロアまでもが体調不良を(うった)えてきた。

 軽い風邪に似た症状らしいけど、大事を取って休んでもらった。


 妻たちにはそれぞれ専属の侍女がついている。

 マリーにはマリエ、シェラにはセリア、ファルにはジョゼ……いずれも以前から彼女たちに仕えてきた者で、人柄も能力も妹たちの見立ても申し(ぶん)ない者たちだ。

 メイリアは面倒だから付き人なんていらないって言ってるけど、彼女には風精霊(フィーリア)がいる。

 ロアはルミリアを侍女に指名したけど、自分のためというよりは男性が苦手なルミリアを守るためだ。

 ……ともかく、その侍女たちが看病をしてくれている。


 慣れない環境で疲れが溜まったせいかと思ったけど、全員となると話は変わってくる。マリーたちはそんなにひ弱じゃないし、偶然とも思えない。

 妹たちは流行(はや)(やまい)を疑い、マリーたちを隔離した。

 そのマリーたちと少しだけ念話させてもらったけど、その時には退屈だと愚痴(ぐち)(こぼ)せるほど元気だった。とはいえ……

 言葉だけで病状を読み取るのは難しい。かといって、病人相手に長々と話をして様子を探るわけにもいかない。なので、詳しい説明はメイプルから受けた。


 流行(はや)(やまい)は、多くの犠牲者が出ることもある危険なものだ。それだけに、心配するなっていうほうが無理だろう。だけど、本当に病状は軽く、微熱や怠さがあるだけなので心配するほどじゃない……らしい。

 今のところ侍女に症状は出てないし、病が広がってる様子もない。それなら少しぐらい会わせてくれてもいいようなもんだけど……

 元気そうな姿をひと目だけでも見せてもらえれば、少しは安心できるのに……という思いが(つの)る。


 あと数日ほどで商都メルシアから信頼できる薬師が到着するらしく、今朝もメイプルから「お兄さま、心配なのは分かりますけど、薬師の見立てが終わるまでは決して南の区画に近付かないようお願いしますね」と念を押されていた。

 とはいえ、せっかく城主(とう)に来たんだし、見舞いには行けないけど、こっそり様子を見るぐらいなら……って思ったのが失敗だった。

 

 シアと一緒に城主(とう)三階の南側──マリーたちの私室に近付こうとしたら……


「ハルキ、待ちなさい。いったい何をするつもりかしら?」


 メイリアの召喚体──風精霊(フィーリア)に呼び止められた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ